シネマ掘り出し市


Vol.101 シネマ掘り出し市 『マキシマム・ブラッド』字幕翻訳:町野健二さん/字幕ディレクション:鈴木敦史さん(フォアクロス)

【ストーリー】
元フランス軍特殊部隊の最強兵士にして、人質奪還のプロ・ディーコン。長年闇社会で生きてきた彼だが、最愛の姪が余命幾ばくもないことを知り、自らの臓器を移植するためにフィリピンを訪れる。しかし到着早々、謎の犯罪組織の罠に嵌まり、移植するはずの腎臓を切り抜かれてしまう。満身創痍ながら怒りに震えるディーコンは早速組織の追跡を開始。しかし激しい戦いの最中、彼は大きな陰謀に巻き込まれていくのだった……。果たしてディーコンは自らの腎臓を取り戻し、愛する姪を救うことが出来るのか!?

■監督:アーニー・バーバラッシュ
■出演:ジャン=クロード・ヴァン・ダム、ジョン・ラルストン ほか
2015年9月26日から10月2日までヒューマントラストシネマ渋谷で公開
(配給:クロックワークス)

9月に入っても夏休みボケが抜けなくて……とお困りの方、ここらでいっちょガツンとした刺激を受けてみませんか? そこで今回は、世界中のガツンとくる映画を集めた「ワールド・エクストリーム・シネマ2015」の第1弾として上映される『マキシマム・ブラッド』を紹介します。

主演は“最強の漢”ことジャン=クロード・ヴァン・ダム。以前紹介した『サバイバル・ソルジャー』ではトラに襲撃されてしまいましたが、今回は「腎臓」を奪われながらも闇の組織に戦いを挑む彼の勇姿がたっぷり拝めるようですよ。字幕の翻訳とディレクションをそれぞれ手がけた二人の修了生のインタビューを通して、本作の見どころや翻訳エピソードをどこよりも早くお届けします!

字幕翻訳者の町野健二さん、字幕ディレクターの鈴木敦史さん(フォアクロス)に聞きました

町野さん「謎がだんだんと解けていく過程が見もの。アクションの見せ場もいっぱいです」
鈴木さん「ヴァン・ダムの動きを楽しんでもらおうという撮り方なので、ファン必見です」

── ヴァン・ダムの最新作ということでアクション映画ファンは気になっていると思います。まずは本作の見どころを教えてください!

町野さん:冒頭のヴァン・ダム演じるディーコンが裸で目覚めるシーンからが見どころで(笑)、やがて彼の身に起こったことが少しずつ明らかになってきます。その後も、誰が何の目的でディーコンの腎臓を奪ったのか? 彼が腎臓を取り戻したい真の理由は? など、いろんな謎が説明過多になることなくだんだんと解けていく過程が見ものです。もちろん、ヴァン・ダムのアクションの見せ場もいっぱいですよ。



鈴木さん:話題の「股割り」をはじめ、格闘あり、ガンファイトありと盛りだくさんですね。カメラアングルやスロー編集など、とにかくヴァン・ダムの動きを楽しんでもらおうという撮り方がされているので、彼のファンなら必見です。


── まさに筋肉フィーバーですね! 翻訳に関して、お二人はそれぞれにどんなことを心がけていましたか?

町野さん:謎が少しずつ明かされる展開なので、話の流れが分かる字幕にしながらも、常に原語以上の情報を余計に入れないよう注意していました。またディーコンに協力する弟が信心深いキャラクターで、セリフに聖書の引用が時折出てくるため、聖書を見て原意を参考にしました。字幕の場合は字数の制限がありますが、セリフを短くする過程で原意を大きく変えるわけにはいきません。聖書らしい表現を活かしながら、字幕として流れよくなるよう心がけました。

鈴木さん:私は制作会社(フォアクロス)の字幕ディレクターという立場で、クライアント(配給会社)が作品をどう売りたいのかという意向を汲み、町野さんの字幕をさらに調整していきました。例えば作品全体にメリハリをつけたり、謎解きを盛り上げたりといったアレンジです。クライアントからは各登場人物のキャラクターを明確にしてほしいという要望のほか、「奪還」というキーワードを強調したいという要望があったので、原語の”rescue”を「救助」や「救出」ではなく、あえて「奪還」にしています。


▲弟とのコンビプレーで立ち上がれヴァン・ダム! さらにフランス軍時代の仲間も彼らを助ける便利屋として登場するそうです。
▲ヴァン・ダム名物、股割りも炸裂! 近年はWebで話題になっていますが、意外にも劇場公開作での披露は10年以上ぶりだとか。
── 具体的なセリフの字幕で特に印象に残っているものは何でしょうか?

町野さん:腎臓を取り戻すのに苦心する中、ディーコンが弟の意志を確かめるために「命を捧げられるな?」「魂を捨てられるか?」と問いかけるセリフがあります。ここは原音の尺(長さ)が充分あったので、字数を削る必要もなく、話者の思いをバッチリ込めることができました。

鈴木さん:ディーコンのセリフには「流れて当然の血もある」というのもあります。信心深い弟に対し、神に背く覚悟のディーコン。それぞれのキャラクターがしっかり作り込まれていて、全編を通してそれがブレないのがいいですね。あと個人的に好きなのは、敵陣に乗り込む前に聖書を手にしたディーコンが、弟に「なぜ聖書を?」と聞かれ、「お告げを聞ける」とユーモラスに答えるやりとりです。


── そのあと聖書を使ってどんなアクションをするのかは……見てのお楽しみですね! ところでお二人はほかにもアクション映画の日本語版制作に携わっていますが、字幕作りで注意していることはありますか?

町野さん:作品の邪魔にならないことですね。特にアクションシーンの最中のセリフは、表現のしかたももちろんですが、OUT(字幕なし)にして問題なさそうなセリフには納品時に申送りをつける、カットの変わり目に字幕をまたがせないなど、字幕が主張しすぎることのないよう工夫しています。

鈴木さん:町野さんはハコの切り方も的確なので、より読みやすい字幕に仕上がっているのだと思います。映画はまず作品ありきで、字幕はあくまで理解を助けるツール。主張しすぎず、まっすぐにセリフの本意が伝わる字幕が理想だと思います。


町野さん「究極の理想としては、空気のような字幕を目指したいですね」
鈴木さん「翻訳と同じくらいリサーチにも時間を。学習中から意識するとよいと思います」


── 後半は、制作会社フォアクロスを通じて翻訳を受けている町野さんと同社の中でディレクターをつとめる鈴木さん、お二人の経験や字幕への思いについてうかがいます。町野さんは学習を始めてからどんな経緯で在宅翻訳者になったのでしょうか?
▲こちらもお二人が翻訳&ディレクションをつとめたタイ映画『ザ・ヴェンジェンス』。町野さんいわく、セリフが少なくアクションが多いぶん「主張しない字幕」作りをいっそう意識したとのことです。

町野さん:昔から映画は好きでたくさん見ていましたが、まずフェローの通信と通学の初級講座でいろんな分野を学習したうえで、映像翻訳の学習一本に絞ろうと決めました。通学のゼミを修了したあと、アメリアを通じて求人応募したフォアクロスに採用されたのが仕事の始まりです。もともと在宅翻訳者になることを前提とした求人で、はじめは社内でチェック、リライト、翻訳などさまざまな仕事を半年あまり経験させてもらいました。


── 鈴木さんはフォアクロスで普段どんな業務に携わっているんですか?

鈴木さん:字幕ディレクションのほか、複数の方が訳しているシリーズものの統一チェック、翻訳者やクライアントとの連絡・交渉などが主な業務です。町野さんはエンタメ作品から企業ビデオまで、幅広いコンテンツに応じて柔軟な訳をしてくださるので、仕事をお願いする機会が多いです。私は翻訳者とクライアントとの間に立ち双方の要望や考えを聞いてまとめなければならない立場ですが、いわば「二人三脚」で万人に受け入れられる翻訳を作りあげていくわけですから、やりがいは大きいですね。


── お二人にとって、学習中に教わったことで印象に残っていることは何ですか?

町野さん:単科の授業では、字幕の田中武人先生も吹替の峯間貴子先生も「細部を見逃さない」ということをよくおっしゃっていました。訳す前に映像素材を隅々まで見て、そこにある情報をすべて把握するように、ということですね。この点にはいまの仕事でも気をつけています。

鈴木さん:私はカレッジコースで、原文を読むとき前置詞や複数形の存在を見落とさないという意味で、細部に気をつけることの大切さを実感しました。また、前半の話にもつながるのですが、映像の授業では瀧ノ島ルナ先生が「自己主張の強すぎない字幕を作ること。見たあとで字幕の印象が残るようでは作品の印象が半減してしまう」とおっしゃっていたのが忘れられません。


── よりよい翻訳のために、お二人がいまでも意識していることはありますか?

町野さん:とにかくたくさんの表現をインプットする必要があるので、自分の担当以外の作品を見て、よいと思える訳があったらメモをとるようにしています。究極の理想としては、見る方が字幕を読んでいるのにまるで映像だけを見てストーリーが分かったかのように錯覚できる、そんな空気のような字幕を目指したいですね。

鈴木さん:時代の流れや情勢によって使える言葉も変化してくるので、常に新しい作品の訳され方に目を向けることも重要ですね。近年では『テッド』の日本固有のキャラクター名などを取り入れた字幕が話題になりましたが、あれも一つの新しいアプローチだなと思っています。


── 最後に、いま映像翻訳者を目指している方のためにメッセージをお願いします。

町野さん:どの分野の翻訳も、続けていくためには好きだと思えることが大事です。あとは、未経験でも仕事のチャンスを見つけたら応募することですね。その点、通学講座を受けていると、ほかの方の訳文が見られることで自分の実力がいまどの程度のレベルかが分かるため、仕事への一歩を踏み出すよい判断材料になりますよ。

鈴木さん:制作会社の立場から言えるのは、実際の仕事ではコミュニケーションが大事ということ。特に仕事依頼の連絡を確認してお返事をくださるのが早い方は大変ありがたいです。たとえお受けになれなくても、連絡さえいただければ次の仕事で優先的にお声かけしたいという気持ちになれますので。それから翻訳と同じくらいリサーチに時間をかけることも大事。どれだけ入念なリサーチがなされているかが翻訳者の信頼性を左右しかねません。学習中から「世に出す訳文として大丈夫か」と自問して裏取りをしっかりするよう意識するとよいと思います。



 
◆町野さんのプロフィール:
通信講座「はじめての映像翻訳」、通学単科「吹替」「字幕」「峯間ゼミ」などを受講。主な翻訳作品に『ザ・ヴェンジェンス』『ヴァイキングダム』『ウォールストリート・ダウン』『小さなバイキング ビッケ』『ウェディング・イブ 〜幸せになるためのいくつかの条件〜』『新約聖書 〜イエスと二人のマリア〜』など。

◆鈴木さんのプロフィール:
塾講師の仕事を経て総合翻訳科「カレッジコース」を受講。修了直後から映像日本語版制作会社フォアクロスに勤務し、現在までにさまざまな映像作品の字幕チェック・演出に携わる。


 

町野さん、鈴木さん、ありがとうございました。お二人の話に繰り返し出てきた「邪魔にならない字幕作り」。翻訳者は黒子のような存在とよく言われますが、自分の表現力を磨きながらも、見る人を映像の世界へと心地よくいざなう役割であることを忘れてはいけないんですね。
(written by はっしゅ)


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