シネマ掘り出し市


Vol.117 シネマ掘り出し市 『スイッチ・オフ』
【作品紹介】
少女ネル(エレン・ペイジ)は、父と姉エバ(エヴァン・レイチェル・ウッド)の3人で森に囲まれた家で暮らしていた。ある日、原因不明の大停電が起こり、ハイテク技術で制御された家はシステムダウンしてしまう。さらにラジオもインターネットも通じずライフラインを絶たれる。町の治安は崩壊し、水や食料を求める人たちが暴徒化。一家は自給自足の生活を余儀なくされるが、頼れる父親が事故死。森の中で、たった2人、姉妹のサバイバル生活が始まる。

■監督:パトリシア・ロゼマ
■出演:エレン・ペイジ、エヴァン・レイチェル・ウッド、カラム・キース・レニーほか
3/4(土)ヒューマントラストシネマ渋谷「未体験ゾーンの映画たち2017」他にて全国順次公開!
配給:ツイン

ライフラインが断たれた過酷な状況の中でサバイバルする姉妹を描いた小説『森へ―少女ネルの日記』を映画化した『スイッチ・オフ』。3月公開の話題作の字幕翻訳をされた中川綾さんにお話をうかがいました。

字幕翻訳を手がけた中川綾さんに聞きました

文明社会を襲ったブラックアウト(電力消失)
孤立した姉妹の運命を繊細なタッチで描く

── 本作の監督は『私は人魚の歌を聞いた』『月の瞳』などのパトリシア・ロゼマですが、本作をご覧になって女性監督らしさといったものは感じられましたか?

美しい映像や音楽で五感にうったえる作風に女性らしさを感じました。セリフが多すぎると理詰めで考えてしまう映画になりがちですが、この作品は映像や音楽にゆだねる部分が多いので、受け手の感性によって自由に形を変える映画だと思います。押しつけがましくない感じが女性の監督らしいのかなと思います。 けっして饒舌な映画ではありません。初めて通して見た時に美しい映像や音楽から感じる部分を大切に作っている作品だと思いました。そのぶん、背景や登場人物の人間関係、すでに亡くなっている母親のこと、母親と姉妹たちとの関係などがセリフで詳細に説明されることがないので、冒頭から随所に唐突な感じが否めませんでした。けれど、原作『森へ―少女ネルの日記』(ジーン・ヘグランド著、山本やよい訳/早川書房)を読むことで映画の行間部分が埋まり、セリフの背後にある部分も理解できました。


── 姉妹が主人公ですが、セリフ作りなどで苦心した点はありますか。

ヒザの故障を抱えダンサーとして再起を目指す姉と大学進学に向けて勉強中の妹。どちらも負けん気が強く、ぶつかることも多くありますが、お互いを思う気持ちの強いステキな姉妹だと思いました。しっかり者の姉ですが、気弱になった時には妹が姉を抱きしめて力づけます。2人とも強い意志を持った人物なので対等な関係で物を言うようにセリフを作りました。姉妹が言い合いをするシーンも多いのですが、ああ言えばこう言う、兄弟ゲンカの感じを出したいと思いました。私自身、三姉妹の長女、姉妹でケンカをした時のことを思い出しながら作業したのが楽しかったです。 話は飛びますが、作業中だったか終わった頃だったか、東京でも大規模停電が起こったのがタイムリーでした。


── この映画の見どころを教えてください。

この映画は、若い姉妹が“ブラックアウト(電力消失)”した世界で知恵と勇気をもって生き抜いていく姿を描いていますが、汗やドロにまみれた体育会系の力技サバイバル劇ではありません。社会を機能させてきたエネルギーが消え、将来の夢に向かって日々過ごしていた姉妹の運命が大きく変わっていく様を、静謐で美しい映像とちょっと物憂げな音楽にのせて繊細なタッチで描いている作品だと思います。電力消失によって生活の基盤が大きく揺らぎ、将来の夢が遠ざかってしまった時に姉妹がどのような選択をし、前へ進んでいくのか。日常が簡単に壊れていく切なさを感じながら、姉妹の行く末を見届けていただければと思います。


翻訳は、究極の八方美人
誰にも違和感を抱かせない空気のような字幕を


── 翻訳を始められた経緯を教えてください。
▲中川さんの翻訳作品
『ベン・ハー』
「圧巻の戦車レース、義兄弟2人の人間ドラマが見どころです。1959年公開の不朽の名作『ベン・ハー』のリメイクとして、本作の物語へのアプローチの違いを感じていただければと思います」

「総合翻訳科カレッジコース」の卒業時に、ちょうどフェローに求人が来ていた制作会社に拾っていただきました。そこでは、仕事の流れ、心がまえなど何から何まで教えていただき、すべてが今、生きています。
カレッジコースを終えてからも気になる講座やイベントには参加して、今も勉強を続けています。カレッジコースの受講を考えていた時に手にしたフェローの学校案内に「翻訳は十人十色」とありました。「1+1=2」と計算式のように割り切れない世界に魅力を感じます。割り切れないけれど、いいものはいい、悪いものは悪い。だからこそ、ストライクゾーンの翻訳を知りたくて字幕コンテストと名のつくものに応募しまくっていた時期もありました。もうかなり前ですが、アメリアの翻訳トライアスロンの映像で2位をいただいたのが今でも励みになっています。アメリア以外でのコンテストでも2位の優秀賞をいただいたことがあります。最優秀ではなかったからこそ、なお一層励まなければと勉強を続けてこられたのかもしれません。


── 1日のタイムテーブルはどんな感じですか。どのように翻訳の時間を捻出されていますか。

会社勤めの時とあまり変わりません。午前10時から夕方5時くらいまで作業をして、作業が押す時は夜に作業をしています。


── 今後手掛けてみたい作品はありますか?
▲中川さんの翻訳作品
『フルサークル・シカゴ』
「もっぱら会話のみでストーリーが劇的に展開していく異色作で、脚本が計算しつくされ、練り込まれていたぶん、登場人物の心の機微をセリフにするのがとても難しかったのです。本当に勉強になりました」

子供向けの作品を担当してみたいです。あとは時代劇の言い回しが好きなので時代物。他にも、SF、スパイもの、恋愛もの、ホラー、とあげれば切りがないのですが、出会った作品とのご縁に感謝し、常に挑戦し続けることを忘れず、言葉の引き出しを多く持ちたいと願っています。


── 現在映像翻訳者を目指して学習中の方にアドバイスをお願いします。

私などがアドバイスをするのはおこがましいのですが、学習中の方にはいろんなチャンスに臆することなく挑んでほしいと思います。ひるむよりは“ゴー!”です。たたかれて得るものは大きく、回数を重ねるとたたかれ慣れしてきます。字幕は究極の八方美人でないとダメだと思っています。誰か1人でも違和感があると指摘を受けたら、つっぱねずに受け入れてください。黒子で、透明で、おいしい水のような、空気のような……。そんな字幕を作れるように一緒に頑張っていきましょう。私も日々、反省することばかりです。


◆中川綾さんのプロフィール:
大学を卒業後、2年の会社務めを経て、総合翻訳科カレッジコースで字幕翻訳の勉強を始める。フェローに求人募集があった映像制作会社へ勤務し、その後、フリーに転身。字幕翻訳に『ベン・ハー』『ハーブ&ドロシー アートの森の小さな巨人』『クレイジーズ』『ボビー・フィッシャー 世界と闘った男』『フルサークル・シカゴ』『エージェントX』など多数。

中川さん、ありがとうございました。翻訳を始めた頃は、「正解のない翻訳のストライクゾーン」を求めて、コンテストに応募しまくっていたという中川さん。「万人に違和感のない空気のような字幕」というひとつの答えをみつけられたのですね。


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