シネマ掘り出し市


Vol.118 シネマ掘り出し市 『シング・ストリート』
【作品紹介】
1985年、大不況下のダブリン。14歳のコナー(F・ウォルシュ-ピーロ)は、経済的な事情で、洗練された学校から荒れた公立校へ転校する。おまけに家庭内では両親が不和でケンカが絶えない。「やってられない」状況の中で、唯一の楽しみは音楽オタクの兄とテレビでロンドンのミュージックビデオを見ることだった。ある日コナーは、街で大人っぽいソフィナ(L・ボイントン)に一目惚れ。思わず「僕のバンドのミュージックビデオに出演しない?」と声をかけてしまう。慌てて、コナーはバンドを結成し……。

■監督:ジョン・カーニー
■出演:フェルディア・ウォルシュ-ピーロ、エイダン・ギレン、ルーシー・ボイントンほか
DVD発売中
販売元:GAGA

音楽シーンにミュージックビデオが登場し、世界中の若者を惹き付けた80年代が舞台の青春音楽映画『シング・ストリート』。80年代テイストに彩られた本作の吹替翻訳をなさった井村千瑞さんに、お話をうかがいました。

吹替翻訳を手がけた井村千瑞さんに聞きました

デヴィッド・ボウイ風ファッションにカセットテープ
80年代テイスト満載で、主人公にたくさん共感できた

── 本作『シング・ストリート』は80年代のダブリンが舞台ですね。ジョン・カーニー監督は元ロックバンドのベーシストでもありますが、時代背景や音楽についてどんな印象を持ちましたか?

この作品を訳すまではカーニー監督の作品は観たことがなかったのですが、今回『はじまりのうた』を鑑賞しました。やはり『シング・ストリート』同様、オリジナルソングが作品に絶大な影響を与えていると感じました。両方ともサウンドトラックを買いたくなる作品ですね。
80年代が舞台なので、ファッションに関しては、服やお化粧などがデヴィッド・ボウイを彷彿とさせます。またカセットテープに録音しているのが、今となっては何とも懐かしいです。私も実際に80年代に青春を楽しんだ1人として、主人公のコナーに共感することがたくさんあったところです。変な服を着てかっこつけてみたり、先生の言うことを聞かなかったり(笑)。
そして、新たな発見もありました。当時アイルランドの人々の多くが職を求めてイギリス(ロンドン)に渡っていたこと、カトリック教徒は法律上離婚が許されなかったことなどは今回初めて知りました。


――舞台であるダブリンの英語は、英米とは違いますか。

アイルランド訛りがあります。どちらかと言うとイギリス英語に近い気がしますが、スクリプトがないと聞き取れなかったところが多かったです。名詞の前にbloodyとかbleedingをつけるところはイギリス英語っぽいなと思いました。


── この映画の見どころを教えてください。

80年代の懐かしの音楽だけではなく、カーニー監督作品ではおなじみのオリジナル音楽が堪能できます。そして何と言ってもストーリーがすばらしいです。主人公の少年のバンド活動をとおして、当時のアイルランド情勢や家族の危機、恋愛、兄弟関係などが描かれています。
主人公のコナーたちは自分たちでプロモーションビデオを撮るのですが、その中で『バック・トゥ・ザ・フューチャー』のダンスパーティーを彷彿とさせるシーンがあります。コナーの妄想なのですが、彼の思いと現実との差が出ているシーンでとても切なくて泣けます。
それからコナーのメンターである兄のセリフに心を打たれるシーンがあり、兄弟のいる方や長男の方は共感できるのではないかと思います。(映画の最後に「For Brothers Everywhere」とメッセージがあるのもうなずけます)。ラストシーンも、「Go Now」の歌詞をかみしめながら観ると勇気をもらえること間違いなしです。


フランス映画が大好きで志した映像翻訳
未経験可の求人に応募して仕事を広げる


── 翻訳を始められるまでの経緯を教えていただけますか。
▲井村さんの翻訳作品
『シラノ・ド・ベルジュラック』
「1990年の作品に後から吹替をつけたものですが、戯曲のリズムを生かしつつ尺を合わせるのに苦労しました。収録にも参加しましたが、声優さんたちの声がドパルデューたちの声にピッタリなので吹替でも楽しめると思います」

子供の頃から語学や映画が好きで、習いたての英語でハリウッドの俳優にファンレターを書いたり、ペンフレンドを作って手紙のやり取りをしたりしていました。上映される映画を片っ端から観たり少ないお小遣いで雑誌「ロードショー」を買ったりも。社会人になっていったんは普通のOLを経験しましたが、やはり映画や語学を使った仕事をしたいと思い直し、映像翻訳の道を選びました。
とはいえ、映像翻訳をする前に「翻訳」というものを知りたくて、最初はフェローの「翻訳入門」を受講しました。思えばそこで、翻訳のいろはと奥深さを学んだ気がします。


── フェロー修了後は、どのように翻訳の仕事を受注し、また範囲を広げていかれましたか?

大先輩の字幕翻訳者さんと運よく知り合うことができ、最初はその方を通していくつかお仕事をいただきました。また翻訳者ネットワーク「アメリア」に入会し、「未経験者可」のフランス語の映像を見つけて応募しました。デビューしたての頃はお仕事を広げていくのが難しいものですが、私の場合は運も味方してくれたと思っています。 現在は、子育てをしながらで、仕事をするのは週に6日、1日に8〜10時間くらいです。


── 今後手がけてみたい作品はありますか?
▲井村さんの翻訳作品
『大統領の料理人』
「出てくるフランス料理がどれもおいしそうで、調べ物がとても楽しかったです。また舞台がエリゼ宮だったので政治好きの私としてはワクワクしながら訳した忘れられない作品です」

フランス映画が大好きで映像翻訳を志したこともあり、できるだけフランス映画の字幕・吹替翻訳を手がけられるようになりたいです。フランスの政治や歴史、社会問題に興味があり、ちょうど今行われている大統領選の動向が気になって毎日チェックしています。


── 2017年度のカレッジコースで、「映画・ドラマ」の講師を担当されるそうですが、どのような講座にしたいとお考えでしょうか? また映像翻訳者を目指して学習中の方にアドバイスをお願いします。

講師をするのは今回が人生初ですし、翻訳者としてもまだまだと思っているのであまり大きなことは言えませんが、字幕と吹替それぞれの違いや面白さを受講生のみなさんに伝えられたらなと思います。 学習中の方へのアドバイスは、とにかくできるだけたくさんの映画を観ることをオススメします。



◆井村千瑞さんのプロフィール:
大学卒業後はOLとして働いていたが、フランス映画が好きだったこともあり映像翻訳を志し、フェローで学ぶ。2017年度から総合翻訳科カレッジコースで「映画・ドラマ」の講師を担当。翻訳作品に、『シラノ・ド・ベルジュラック』『大統領の料理人』『神様メール』(以上、仏・吹替)、『ムーンライズ・キングダム』『ビッグ・アイズ』(以上、英・吹替)、など。

井村さん、ありがとうございました。フランス映画が大好きで映像翻訳を志したという井村さん。今もフランスの政治に関心を向けているそうですが、そうして身につけた知識がきっとまた翻訳にも活きるのでしょう。本年度から始まる授業でもいろいろな経験談が聞けそうですね。


■井村さんが講師を務める講座はこちら
■井村さんが受講した講座はこちら
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