和やかな雰囲気のなか、みんなが発言し合う

この講座では、エンタテインメント作品を題材に、表記のルールから適切な訳語の選択、作風に添った訳づくりまで、文芸翻訳の押さえどころを徹底的に学ぶ。受講生が、お互いの訳を当番制で添削するという授業スタイルが特徴だ。
今期の教材は、シニカルな表現とユーモアが織りこまれたミステリー。

当番の受講生が、添削してきたクラスメイトの訳文を配付し、それをたたき台として、みんなでよりよい訳を模索する。赤を入れるのは勇気がいるだろうが、そんな不安を払拭するように講師はいう。「ほかの人の訳を注意深く分析することで、自分の訳を客観的に見る目が養われます。完璧でないのはお互い様。自分のことはひとまず棚に上げ(笑)、徹底的に赤を入れるようアドバイスしています」。アットホームな雰囲気もあってか、多くの受講生が進んで発言している姿が印象的だった。

物語の“流れ”に重点を置いた指導方針

ひととおり意見が出たところで、講師が疑問に答えながら受講生の訳を整えていく。接続詞の工夫によってもたつきが解消されたり、読点ひとつで文全体のリズムが変わったりするのには、ただただ驚くばかり。赤入れによるニュアンスの違いがわかりにくい箇所は、別の例も引き合いに出し、いろいろな角度から納得がいくまで説明される。これこそプロに直接教わることの醍醐味だ。

目の前の一文や単語にとらわれることなく、ストーリーの展開や登場人物の心情、人間関係をも汲みとって訳出することの大切さが、授業を通してくり返し強調された。

【講師コメント】皆さんの“ことばの引き出し”に油をたっぷり注入したいと思っています

学校の英文和訳は卒業して、“小説の翻訳”を意識しましょう。それはつまり、原文に引きずられることなく、原文から読みとった情景を日本語で表すことでもあります。
僕は、意図的にユーモラスな作品を選んでいるのですが“ユーモア”を訳すことは、とてもむずかしい。まさに“小説の翻訳”の要を学ぶにはうってつけの教材だと思っているからなんです。

授業をとおして、みなさんが持っている錆びついた“ことばの引き出し”に油をたっぷり注入し、必要なときに必要な引き出しがさっと開けられるよう鍛錬を積んでいきたいですね。
ただ、正しい情景を頭に描くには、小説が正しく読めることが大前提。そのために本をたくさん読むのはもちろんですが、単なる読者としてではなく、アンテナの感度を最大にして、いい表現があったらメモを取るくらいの気持ちで励んでみてください。

ルポ感想
取材・文
辻 あきさん

先生と生徒との垣根がなく、文芸翻訳の初心者でも安心して臨める講座だと思います。1回の授業で扱う量は決して多くはないのですが、留意すべきポイントが盛りだくさんで、翻訳の楽しさと奥深さを感じるにはぴったりのクラスでしょう。訓練と努力次第でだれでも翻訳家になれるという先生のことばが、強く心に残りました。

プロフィール
出版翻訳者を目指して6年前に上京。フリーランスコース修了後は、フィクション翻訳を中心に一貫してフェロー・アカデミーで学ぶ。監訳者のもと、ロマンティック・サスペンス3冊の下訳に携わる。
私もフェロー修了生です!
第一線で活躍中の先生方から直接学べるとあって、迷わずフェロー・アカデミーを選びました。多様なジャンルの講座がさまざまな時間帯で開かれているので、分野が絞りきれていない方や仕事を持つ方にもおすすめです。