“なんとなく”訳さず、原文を深く読む

この講座では毎回の課題を前半・後半に分け、それぞれ2人ずつ担当者となって叩き台を提出する。今回の課題は“Six Words”という2ページあまりの掌篇で、自分が書いた原稿を出版させたい作家と、丁重にお引き取り願いたい編集者のやりとりが描かれている。短くシンプルな話にも、視点、ニュアンス、語順といった翻訳のポイントがいくつも含まれていて、講師がひとつずつ丁寧に解説する。受講生も積極的で、単語の解釈をめぐってクラス全体で議論になる場面もあった。

原文は会話がメインなので、読んで自然な流れにすることがとりわけ重要になる。訳しづらい文に出くわしたら、何がいちばん言いたいかをまず読みとり、次に情報を漏れなく訳文で伝えられているかを確認するとよい、と講師からアドバイスがあった。たとえば、登場人物がまじめに応対しているのか嫌味を込めているのかによって訳語は変わってくる。「それは言いすぎですよ」という反応が返ってくる台詞には、言いすぎに聞こえる表現を使わないといけない。著者の意図を汲みとることが、いい翻訳の第一歩なのだ。

“売文業”の必須スキルを身につける

読み手を意識することも、授業で得られる学びのひとつだ。訳文を検討する際に課題を訳してきた受講生ではなく講師が音読するが、これで自分の意図したとおりに他人も読んでくれるかがわかる。また、“落ち”を楽しんでもらうため、途中でネタバレになるような訳語を避けたり、キーワードをラスト近くで目立たせたりと、プロならではの読者への心配りが伝授されていた。

授業以外にも翻訳力を上げる機会が用意されている。まずは、エッセイ。人に読まれる文章を書く練習として毎回お題が出され、面白かったものはクラス全員に配られる。次は、リーディング。受講期間中に気に入った原書を探し、要約して感想をつけた“シノプシス”を1本作成するのを目標にしているという。さらに、丁寧に赤を入れて訳文が返却されるなど、受講生のやる気に応えてくれる講座だと感じた。「上達するには量をこなすこと」と語る講師のもとで、翻訳漬けになれることだろう。

【講師コメント】「好き」を仕事にできる喜び

翻訳を仕事にするのは、決して楽ではありません。ひとりで同じ作業を繰り返すことになりますし、出版業界、中でもフィクションは細い道です。だから好きでなければつらくなってしまいますが、逆に言えば、好きなら大きな喜びを得られるということ。本を読むのが好き、文章を書くのが好き、ことばを練りあげるのが好き。

そういう人にぜひ受講してほしいです。自分が訳したい作品を見つけ、自分のスタイルを確立するお手伝いをします。

ルポ感想
取材・文
門脇弘典さん

芹澤先生は私が受講している「田口ゼミ」の大先輩で、師匠に負けないくらい真剣に翻訳と受講生のことを考えていらっしゃると感じました。講師が一方的にしゃべるのではなく、各自が意見を出し合って議論するクラスの雰囲気にぐいぐい引き込まれ、思わずルポの仕事をほうって参加したくなるほどでした。面白い作品を見つけてくれば、持ち込みのお手伝いもしていただけるそうなので、この講座からデビューにつなげることも夢ではないかもしれません。

プロフィール
大学を卒業したあと、輸送機器メーカーに就職しましたが、震災をきっかけに自分の好きな「ことば」を仕事にしようと思い、フェロー・アカデミーの門を叩きました。「ベーシック3コース」「出版総合演習」などを経て、現在「田口ゼミ」を受講しています。いい方に恵まれたおかげで、これまでにビジネス書を4冊手がけることができました。最新の訳書は『最後までやりきる力』(インプレス)です(2016年3月時点)。
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