今回の課題は、数学の問題に関する英文の翻訳だ。テクニカル系翻訳ではやはりこうした理系の文章を扱うことが多いのだろうと思いきや、意外にも講師は別の意図からこの課題を選んだと言う。
「数学の問題を選んだのは、苦手意識を感じる人が多いからです。不慣れな分野に接する際は、解釈に自信が持てず、どうしても辞書的な訳語を選んでしまいがちです」と講師は続ける。

たとえば、treat の本来の意味は"扱う"だが、課題の文脈では"(問題を)解く"と訳すべきだ。普段は適切に処理できる語句も、知識がない分野では不適切な訳語を選んでしまうという。そこで、いい訳文づくりの決め手となるのは調べ物の能力だ。まずは専門書籍にあたり、文体や用語を模倣すること。また、インターネット上にあふれる玉石混淆の情報の信頼性を見極めるコツなど、講師の解説は多岐にわたる。この講座ではIT・テクニカル分野はもちろんのこと、あらゆる翻訳に共通する幅広い能力を身につけられると感じた。
この講座では、Trados を使った演習もカリキュラムに組み込まれている。Trados とは、主にIT 翻訳で使用される翻訳メモリ(原文と訳文がセットで登録されるデータベース)のなかでもっとも普及しているツール。初心者にとってはハードルが高いツールだとも聞く。
短い講義時間内で、はたして自分にも扱えるようになるのだろうか。多少の不安を覚えつつパソコンルームへ。パソコンには講師が用意したサンプルファイルが入っている。手順どおりに進めるだけで、自然と操作方法を習得できる仕組みのようだ。

パソコンのスキルは生徒ごとに千差万別なため、講義は段階ごとに全員がきちんと理解していることを確認した上で進められた。最初に感じていた不安はいつの間にか消え、「思っていたほど難しいツールではないな」と考えるまでになっていたが、それも講師の丁寧な解説によるものだろう。メーカーの公式講習では聞けないような裏話も飛び出し、濃密な時間となった。
通学講座に通うような生徒はみなさん非常に熱心ですが、やはり伸びる生徒とそうでない生徒がいます。どこでその差がつくのかというと、私自身まだはっきりわかっていないところもあるのですが、素直であることと、疑いの心を持つことがポイントではないかと思います。
講座では素直に耳を傾け、それを吸収したのちに自分なりの疑問を持つこと、それが重要です。講義では実践的な知識のほかに、そういった心構えも含めて伝えていきたいですね。

![]()

取材・文
武藤 陽生さん
何より印象に残っているのは講師の熱心さで、高橋先生ご自身が第一線で活躍する中で得た知識やコツ、心構えなど各受講生の理解度に合わせて進行するを惜し気もなく披露してくれていると感じました。また、ブログでもTrados を扱う上でのヒントを公開していたり、講座終了後もメールで受講生をサポートしていたりと、あふれんばかりのサービス精神に圧倒されました。
講義の内容も幅広い話題を取り扱っており、IT 系のみならず、翻訳者を目指す全ての人にとって必ずや得るものがあるはずです。

- 出版翻訳を志し、田口俊樹先生のゼミを受講中。今回の講座ルポでも感じたことは、クラスの雰囲気のよさ。翻訳という仕事は孤独になりがちなので、こうした場での交流は何よりの息抜きになります。かくいう私も、ゼミ後の飲み会を毎回楽しみにしています。

