毎回の発表タイムで科学脳をアップデート

授業ではまず、はじめの30分で受講生が科学ネタを発表する。これは直近2週間で出た科学や生物に関するニュース、書籍から興味のあるものを発表担当者がピックアップし、クラス全員の前で解説するというもの。取材当日は〈空飛ぶサンタは実現する?〉などのニュースがとりあげられたが、口頭で科学ネタをわかりやすく説明するのはなかなか大変そうだ。

しかし発表を何回も経験することで、先生の求める”常に最新科学にアンテナを張っておく姿勢”はもちろんのこと、調べ物の習慣をつけたり、やや専門的な内容でもしっかりかみくだいて自分のことばで説明したりと、ノンフィクションの翻訳者には欠かせない力が自然と養われていく。

意欲あふれる仲間との意見交換が最高の刺激に

発表で場が温まったあとは、いよいよ翻訳の演習。今期の教材は、宇宙からの脅威をテーマにしたポピュラーサイエンス。3名の受講生が担当範囲の訳を提出し、それをたたき台に全員で意見を交わしながら、よりよい訳を検討していく。
授業では全員での自由闊達な議論が中心になる。この日は流星の落下方向に関する事実確認からアメリカのフットボール事情といった多岐にわたる議論の中で、原文解釈や日本語表現、背景知識の調査方法について熱のある意見が交わされた。

斉藤先生ご自身も議論に参加し、鋭い指摘を飛ばすこともあるので、訳文提出の担当者は油断禁物。かと言って、敷居が高いというわけではない。先生は議論が袋小路に入りそうになれば適切なコメントでまとめてくださるし、専門知識については特に詳しく説明してくださる。どんな疑問でも安心して口に出せる環境だからこそ、充実した議論展開が可能なのだろう。

【講師コメント】ジャンルが理系だからと、壁を感じることはありません。

私自身は化学の出身ですが、宇宙ものや生物ものも積極的に手がけています。科学書翻訳という仕事に関わるようになったのは、理系出身ということもありますが、宇宙に興味があり大学時代サークルに入っていたこと、また文章を書くことがもともと好きで、翻訳の勉強をずっと続けたことが大きいですね。

やはり”好き”が大前提になると思います。今の受講生のなかにも、これまで完璧に文系一本だったという方がいらっしゃいますよ。 ですから興味をもってさえいれば、内容を必要以上に怖がることはありません。調べ物や事実確認が”大変そうだ”という印象を抱かれがちな分野ですが、わたしはむしろそうした部分は翻訳を”楽にする”と思っています。だって、調べればわかるんですから。かりに英語がわからなくても調べればおおむね特定できるんだからむしろやりやすいし、調べ物をやらないのはもったいないと考えています。

ルポ感想
取材・文
高崎 拓哉さん

今回のルポで感じたのは、科学書ノンフィクションはけっして特殊な、門外漢お断りの分野などではないということ。そもそも、わからないことを徹底的に勉強して調べ尽くすのは、どの分野の翻訳でも要求される当たり前のスキル。興味はあるのに「理系だから」という先入観だけで敬遠してしまうのはもったいない、と強く感じました。

私もフェロー修了生です!
大学院を卒業したあとぶらぶらしていましたが、三十路を前にしてちょっぴり人生に危機感を覚え、フェローの全日制通学講座〈カレッジコース〉を受講。今は出版翻訳者をめざし、単科の授業をいくつか受講中です。