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宝物を訳す!アートの翻訳
アートの翻訳について (2017年11月6日更新)
今回は美術業界の翻訳について、アートギャラリーで翻訳業務をされていた北嶋ゆきえさんにお話をうかがいます。美術業界というと、絵画など芸術作品の展覧会や美術品オークションといった、アート好きの方だけでなく芸術への造詣が深い専門家たちも集まる世界を想像しますね。どの国にも優れたアートがあるので、世界中のコアな知識を持つコレクターが相手というイメージですが、実際にはどのような翻訳が発生するのでしょうか。

美術品の翻訳は、モノではなく宝物を扱う仕事。

■北嶋ゆきえさんのお話:

私は2011年から5年ほど、浮世絵を中心に近世絵画全般を扱う画廊で翻訳業務に携わっていました。そこでは、美術作品に対して高度な知識を持つ海外のコレクターや専門家、美術館などとのやり取りがメインでした。具体的には、メールをはじめ、作品の解説、専門書の記述、鑑定書、展覧会の企画書などの翻訳です。
美術館で発生する翻訳業務展覧会に関する翻訳としては、美術館が国外の所蔵者から作品を借りる際に、所蔵者の了承を得るために必要な作品借用契約書や、作品の運搬に伴う保険や運送会社との契約書などがありました。作品の所蔵者に対して、国外の展覧会に作品を貸すことに伴うリスクを説明する文書を翻訳することもあります。扱う作品はこの世に1点しかないもので、所蔵者にとっては大切な宝物ですので、毎回、まとまった時間をいただいて慎重に取り組みました。展覧会の図録など、印刷物に入れるクレジット表記を翻訳し、所蔵者との確認作業も行うといった業務もありました。展覧会やアートフェアは鑑賞してくださる方あっての催しなので、招待状、作品目録、キャプション作りは欠かせません。勤めていた画廊では葛飾北斎や喜多川歌麿などの1点ものの肉筆の作品を担当していたので、英語版の鑑定書も用意しました。また、海外から展覧会にいらっしゃる方が日本への入国に際しビザが必要な場合は、申請用の書類の準備も行いました。
作品に関する翻訳を行う時は、モチーフに用いられる季節の行事や、着物や髪型の流行、お能や歌舞伎の登場人物に関する情報を調べることが多かったです。時間に制約はありながらも、知的好奇心を刺激され、やりがいを感じました。有名な作品のタイトルは定訳も存在しているので、勤め出した当初は特に確認に時間を割きました。
そのほか、美術品オークションに関する業務として、日本語で制作されたオークションカタログを翻訳したこともありました。サザビーズやクリスティーズといったオークション会社の名前をご存じの方も多いと思いますが、美術品オークションにはかなり細かい規定があり、会社ごと、もしくは作品ごとに少しずつ条件が異なります。そのため丁寧な読み込みを心がけていました。

このように、翻訳を行っていたのはビジネスの場で使用される文書ではありますが、扱うものが美術品だけに、独特な表現が用いられていることも多かったです。原文に忠実かどうか、何度も自分に問いかけながら取り組んでいました。
浮世絵に関する英訳元々私は外資系の広告代理店で働いており、プレゼンテーションや撮影のため、海外で仕事をする機会には恵まれていた方だと思います。多国籍な同僚たちと仕事をしているうちに、文化とは何かとか、日本固有の美意識とは何かということを考える時間が増えていきました。そのようなタイミングで画廊との出会いがあり、美術業界に転身しました。葛飾北斎や喜多川歌麿など、世界に通用する芸術家の作品に関わることができるということでしたので、自分の中に育っていた関心と重なっていたこともあり、挑戦してみることにしたのです。当時、その画廊としては、ビジネスの場で通用する英語のスキルがある人を求めていたようでした。美術業界にありながら語学力が求められる役割を、しっかり果たして期待に応えたいという気持ちが強くなり、フェロー・アカデミーの日英翻訳の講座も受講しました。美術の専門的な知識については、日々の仕事の中で自主的に学ぶ気持ちがあればよい、という大変理解のある環境でスタートすることができたので、幸運でした。今でも、その機会をいただけたことに感謝しています。また、画廊には美術関連の専門書がたくさんあったので、調べ物を丁寧に行い、語彙を増やす努力をしました。上司や同僚は高度な知識を持つ専門家でしたので、日々、必要とされる知識をピンポイントで教えてもらえたことは非常に大きかったと思います。葛飾北斎は90歳近くまで生きていたそうですが、人生を終える間際まで次々と肉筆の大作を描いていたといわれています。名作の傍らで、昨日の訳より今日の訳を良いものにしたい、という気持ちで臨んでいました。
大好きなアートの世界で、英語を使った仕事がしてみたいという方はきっと多いと思います。実際に、今年(2017年)フェローで開催した短期集中講座「日英アート翻訳」は、募集開始からわずか5日で定員に達し、キャンセル待ちになったほどです。北嶋さんのように、1点ものの芸術品に翻訳で関わることができる! という実例があると、心強いですね。

芸術は、私にとって人生を豊かにしてくれる大切な存在

広告代理店から一転、美術業界に飛び込んだ北嶋さん。そもそも翻訳にはどのような経緯で携わるようになったのでしょうか。現在のお仕事についても、もう少しお話をうかがいました。

井上望さん ■北嶋ゆきえさんのプロフィール:
大学卒業後、外資系広告代理店での勤務を経てアートギャラリーにて翻訳業務に携わる。現在は東京国際映画祭事務局で海外宣伝・広報業務に携わる。フェロー・アカデミーの通学講座「日英基礎」「ビジネス英訳」を受講。

翻訳者もチームの一員。プロジェクトを成功させるためにはどうしたらいいのか、という視点を持っていたい

私は大学卒業後、外資系の広告代理店に就職し、業務の一環として日英・英日の翻訳を行っていました。社内には翻訳専門の部署もあり、外部の翻訳者ともやり取りしていたので、プロの翻訳をお手本にしながら無我夢中で取り組んでいたことを懐かしく思い出します。その後、美術業界に転身した際に、職場の期待にできる限り応えたい、と思ったことが最も大きな理由で、フェロー・アカデミーの「日英基礎」と「ビジネス英訳」の講座を受講することにしました。仕事を通じてお会いした海外の研究者の方が、美しく知的な日本語をお話しになる方ばかりで驚き、その姿からも刺激を受けました。
授業は充実の一言で、通うことにして本当によかったと思いました。先生からは、豊かな文法の知識を元に細部にわたる解説をいただくと共に、現役の翻訳者として活躍されているからこその実務的なご指導をいただいて、英語力が磨かれていく実感がありました。私は10代の頃海外に住んでいたため、感覚的に英語を使っている部分があったのですが、先生のご指導によって文法の知識が整理され、より洗練された英文にたどり着けるようになったのではないかと思っています。日英翻訳を行う際の漠然とした迷いが減り、どのように文章を着地させるか、という方法論を身に付けることができました。また、とても雰囲気のよいクラスで、クラスメイトの方々との出会いも励みとなりました。仕事の場では、同じ文書を複数の人が翻訳することはまずありませんので、皆さんの表現を見せていただくだけで、多くの気付きがありました。ここで思い出したのですが、皆で集まる際の幹事を仰せつかっておりましたので、久々にご連絡したいと思います!
東京国際映画祭の事務局で海外宣伝・広報 現在は画廊を離れ、東京国際映画祭の事務局で海外宣伝・広報に携わっています。映画祭の準備は大変に複雑で、上映作品の選定、スケジュール組みをはじめ、レッドカーペットや授賞式に出席してくださる関係者の方との調整、チケット販売まで大変多岐にわたる分野のエキスパートが集まっています。私は主に海外のジャーナリストたちとのやり取りを行っているのですが、事前の打ち合わせはすべて英語なので、日々、様々な翻訳が発生します。作品を海外の映画祭に出品する際は、作品のあらすじや監督のプロフィール、外国人キャスト用の脚本を英訳することもあります。
美術や映画、音楽などの芸術は、私にとって人生を豊かにしてくれる大切な存在ですが、仕事にするのは難しいだろうと思っていました。私の場合はビジネス英語のスキルを評価していただき、憧れの分野で職を得られたように思いますので、これからも勉強は続けていきたいです。また、語学を仕事にする上では、柔軟性を失いたくないと思っています。翻訳者といっても業務は翻訳のみということはなく、チームの一員としてプロジェクトを成功に導くためにはどう動けばよいか、という視点は持っていたいです。そして、翻訳というコツコツ型の仕事を楽しむためには、体調を崩さないように気をつけるということも、大事なことですね。
 
北嶋さん、ありがとうございました。契約書でも本でも映画でも、結局はビジネスや文化を支えるための翻訳であり、就業形態に関わらず、翻訳者も大きなチームの一員であることをあらためて実感させられました。視野を大きく持つことは、大切ですね!
北嶋さんが受講した講座はこちら
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