ホンヤクこぼれ話


第126回『ノラのボクが、家ネコになるまで』の巻
今回は、横山和江先生が翻訳を手がけた『ノラのボクが、家ネコになるまで』をお届けします。作品の読みどころのほか、これまで出版された訳書の大半が持ち込みだという横山先生に、持ち込みの際のポイントもうかがいました。
『ノラのボクが、家ネコになるまで』
ヤスミン・スロヴェック【作】
横山和江【訳】
文研出版

ノラネコの「ボク」は自由で気ままな暮らしが大好き。ソクバクされるなんてまっぴらごめんと、ヒトをうまくあしらいながら楽しく生きている。ところがある日、それまで誰も住んでいなかった空き家に、新しく家族が引っ越してきた。家の女の子に食べものをもらったことから、ヒトと触れ合うのもそんなに悪くないと思うようになり……。
●訳者の横山先生に聞きました。

ネコの気持ちに入り込んで訳した作品
読書が苦手なお子さんや、ネコ好きの大人にも
読んでほしい

──まずは、作品について簡単な解説をお願いします。
横山
先生:
ノラネコ暮らしが長いせいで、ちょっとひねくれた性格のネコが主人公です。友だちのイヌやネコ、ネズミたちには人間の家族がいますが、主人公にはいません。ところがある日、おいしそうなにおいに誘われて新しく引っ越してきた家に入ってみたところ……という感じで話が展開していきます。
物語はネコの語りで進行し、こだわりの強いネコが人間の子どもと交流するうちに、考えを変えていくようすが丁寧に描かれています。挿絵や吹き出しが豊富にあるおかげで、読書が苦手なお子さんでも気軽に楽しめると思いますし、主人公のネコの気持ちに入りこんで訳しましたので、ネコ好きな大人にも読んでいただければうれしいです。
──絵が中心で、キャラクターのセリフが吹き出しで描かれるなど、絵本とも、マンガとも、児童書ともとれるような構成だなと感じたのですが、分類するとすればどんなジャンルになるのでしょうか。
横山
先生:
特殊な構成に思えるかもしれませんが、小学校中学年向けの児童書です。邦訳版は原書とまったく同じ形式をとっておりまして、海外の児童書ではたまに見かける気がします。
──この作品の翻訳を手がけることになった経緯を教えていただけますか?
横山
先生:
小学校中学年のお子さん(絵本から読み物へ移行する年代)に読みやすい作品を探していたなかで、この本に出会ったのが一昨年の秋でした。読んでみたところ、文研出版に合うと思って紹介し、1か月ほどで刊行が決まりました。先に本文を完成させ、絵に文章が入ったものを見てから、改稿や調整をしました。横書きの読み物を出したことがなかったにも関わらず、邦訳も原書と同じ体裁で出すことを決めてくださった文研出版さんに、深く感謝しています。
──先生の訳書の中には、持ち込みから日本語出版に至ったものが多くあるそうですが、持ち込みのポイントになる部分があれば教えてください。
横山
先生:
イラスト中心の児童書については、本文はもちろんですが絵が重要だと思います。その点では絵本と同じですよね。本作で17作目の訳書になりますが、そのうち13作が持ち込みから刊行にいたりました。現在、高学年向けの読み物と絵本が進行中ですが、どちらも持ち込み作品です。おもしろい本を見つけると人に紹介したくなるのですが、出版社に紹介する際には日本での刊行意義はもちろん、自分が訳したい作品かどうかも判断基準にしています。いつの日か、自分が持ち込むだけでなく、出版社から「こんな作品を探している」と相談していただけるような翻訳者になれるよう、実績を積み重ねていきたいです。
──絵について、作者のブログを見たところ、そちらはイラストに色がついていてカラフルな感じだったのですが、本書は原書も白黒だったのでしょうか。
横山
先生:
この本については原書も白黒でまったく同じです。原書のイメージを大切にしたかったので、今回はデザイナーさんを指名させていただきました。
──こういったイラストが中心の本は、文字を書き込めるスペースに制限があると思うのですが、その点で難しさはありましたか?
横山
先生:
一般的には、英語を日本語に訳すと文字数が多くなるはずですが、この作品に限っては吹き出しが大きく割と余裕があったので文字数の調整はさほどたいへんではありませんでした。逆に日本語の文字数が少なくても吹き出しを小さくすることはできないので困りました。
──動物のセリフの語尾が印象的だったのですが、これは原文にもこういったニュアンスがあったのでしょうか。
横山
先生:
日本語ではセリフの最後に「ニャ」や「チュ」などが付いていますが、原文にはそれに該当するものはありません。ただ、動物たちの話し方には特徴がありましたので、それぞれのキャラクターに合うような会話文になるよう心がけました。同じネコでも、主人公と友だちのネコでは雰囲気がちがいますし、ネコにとって鳴き声は言葉の代わりなので、バリエーションを考えるのが楽しかったです。
──ほかにも、翻訳で何か心がけたところはありましたか?
横山
先生:
原題の『My Pet Human』で想像できるように、主人公のネコは「人間をペットにする」とあくまで強気です。そのまま訳すとかわいげのないネコになりそうでしたので、ノラネコの寂しさも伝わるよう「家族になる」という方向へシフトさせました。
 
──本の最後に、続編について少しコメントがありますが、差しつかえない範囲でどんな内容かを教えていただけるでしょうか。
横山
先生:
原書が3月に刊行されるため本は読んでおらず、ネットからの情報だけですが、主人公のネコの飼い主が転校先の学校に通いはじめます。飼い主の女の子がペットクラブに入り、動物保護団体にお金を寄付するために、主人公といっしょに学校の発表会の舞台に立つことになるようです。主人公は目立つのが嫌いな性格なので、ひと騒動ありそうですね。
 
──最後に、学習中の方にメッセージをお願いいたします。
横山
先生:
わたしが翻訳を意識したのは学生時代に原書と邦訳を読み比べしたことがきっかけだったと思います。絵本や児童書が好きだったので、いつか自分で訳した本を出したいと夢見るようになりました。そして社会人になってから、文字数の限られた実務翻訳をしていたときに、同じ文字数が限られているなら絵本を訳したいと強く願い、結婚で地方へ転居したのを機に翻訳の勉強をはじめました。子どもが小さかったので通信講座のマスターコース「児童文芸」を2回受講しました。特に印象に残っているのは1回目に受講した、もきかずこ先生の講座で、最終回のスクーリングで初めてお目にかかり、授業が終わったあとにお茶を飲みながら先生を囲んでたくさんお話できたのが、うれしかったです。
翻訳の勉強をはじめて訳書を出すまで、ほぼ10年かかりましたが、それまでの人生経験が何らかの形で役に立っていると感じます。あせらずじっくり取り組むことでいつか道が開けると思いますので、粘り強くがんばってください。「あきらめたら、おしまい」です!
横山和江先生のプロフィール:
児童書翻訳者。『ノラのボクが、家ネコになるまで』(文研出版)、『300年まえから伝わる とびきりおいしいデザート』(あすなろ書房)、『14番目の金魚』(講談社)、『サラとダックン』シリーズ(金の星社)、『わたしの心のなか』(鈴木出版)、『クマさんのおことわり』シリーズ(岩崎書店)など訳書多数。
横山先生、ありがとうございました。先生のおっしゃるとおり、ネコが最初は人間を利用するものと見ていたところから、考え方が少しずつ変わっていく様子がとても愛らしく、主人公の気持ちに入り込みながら読ませていただきました。
また、持ち込みのお話では、自分が訳したい本だと思うかどうかというお話も印象的でした。日本の読者に受けそうかという広い視点ももちろん大切なのですが、個人的に気に入ったかどうかというのも、持ち込む際の熱意につながる大事なポイントかもしれませんね。
(written by Takasaki)
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