ホンヤクこぼれ話

このエントリーをはてなブックマークに追加

第128回『AFTER season2 壊れる絆 #4』の巻
今回は、飯原裕美さんが翻訳を手がけた『AFTER season2 壊れる絆 #4』をお届けします。インターネットの創作サイトに投稿されたところから、欧米で人気に火が点き、日本でも刊行に至ったというこのシリーズ。訳者の飯原さんに、シリーズの概要や作品の読みどころをうかがいました。
『After season2 壊れる絆 #4』
アナ・トッド【著】
飯原裕美【訳】
小学館

「season 1」と「season 2」、あわせて8冊が刊行されている『AFTER』シリーズのseason 2完結編。まじめなテッサと奔放なハーディンは、ふとしたことから大学で出会い、テッサは関わり合いになってはいけないと思いつつもちょっと危険なハーディンに惹かれていってしまう。season 1の最後でハーディンのひどい裏切りに遭ったテッサだが、ハーディンの過去を知り、もういちどふたりで生きていこうと決心する。ハーディンも生まれ変わったような様子を見せるが、果たしてふたりの恋は成就するのだろうか?
●訳者の飯原さんに聞きました。

高校生〜大学生のリアルな恋愛を描いた作品、
アメリカの恋するティーンの夢物語が満載

──このコーナーでシリーズについて紹介するのはこれがはじめてですので、まずはシリーズ全体について簡単な解説をお願いできますか?
飯原
さん:
もとは、誰もが自由に創作物をアップロードして読者と交流を楽しめるサイト〈Wattpad〉で発表された小説で、のちに書籍として出版されました。AFTERシリーズとしてはメインのシリーズ4作と、ヒーローがヒロインと出会う以前の日々から語るBefore、そして重要な脇役のひとりを主人公にしたスピンオフ2作で完結しています。ジャンルとしては、ヤングアダルトより少し上の年代(高校生〜大学生)をターゲットにした「ニュー・アダルト」に分類されるもので、よりリアルな彼らの姿が描かれています。
シーズン1では、親元を離れて大学の寮に入ったマジメな文学少女のヒロインが、まったく好みではないタイプ(ちょっとオラオラ系の美形のイギリス人)のヒーローと出会い、反発しながらも惹かれていき、結ばれたものの……というところまでが、彼女の視点から語られています。
──続けて、Season 2や本作のあらすじと、読みどころについて解説をお願いします。
飯原
さん:
シーズン2では、ヒーローのひどい裏切りを受けたヒロインがそれでも離れがたく、人とのつき合い方に問題を抱えている彼をなんとか更生させたいとするいっぽう、自分も(いろいろな意味で)さらに大胆に変身していく様子が描かれています。シリーズ全体のなかでは、ふたりの関係が深まりつつも、ちょっとした行き違いや思い込みで事態が悪化していく感じの流れになっています。 また、2では全体の3分の1ほどがヒーローの視点から語られる章となっていて、同じ出来事でもふたりの捉え方がいかに違っていたかが、より明確に伝わってきます。
──このシリーズを手がけることになった経緯を教えていただけますか?
飯原
さん:
原著が2014年秋のフランクフルト・ブックフェアで話題となった直後、日本での版権を取り扱うエージェントからリーディングを依頼されました。最初は、ヒーローのあまりの「クズさ加減」にドン引きしたのですが、シリーズ2まで読むと、彼の不憫な生い立ちやそれにまつわるトラウマがわかり、きれいごとだけではない恋愛を描いた作品だと判断しました。そういった点をまとめてシノプシスを書き、ほどなく翻訳も依頼されることになりました。
1の原書は600ページ、2は700ページだったので、毎日同じペースでの訳出作業を長期間続けるのに苦労しました。
──海外でもかなり話題を呼んでいる作品とのことですが、飯原さんは、好評を得た理由はどのあたりにあるとお感じですか?
飯原
さん:
もとは、イギリス出身のアイドル・グループ、ワン・ダイレクションのハリーをヒーローにしたファン・フィクションなので、彼らのファンの間で話題になったところも大きいかと思います。ヒロインに自分を重ねながら、ヒーローと少しずつ気持ちが通っていくさまを追えるロマンスというのは、どの国の読者にとっても最高の夢物語ではないでしょうか。
──先ほどもお話にあったとおり、キャラクター同士のかけ合いに特徴がある作品だと思うのですが、ユーモラスな会話というのは意味を取るのがかなり難しいのではと思いました。実際はいかがでしたか?
飯原
さん:
1作目でこの人はこんなことを言う人というイメージができあがっていて、それぞれのキャラクターがはっきりしていましたので、会話だけを取り出して特別むずかしいということはなかったように思います。ただユーモア作品なので、全編を通して面白さが伝わる日本語になるよう意識はしました。かけ合いという意味では、アメリカのシチュエーション・コメディなども参考になりました。
──主人公たちの年齢設定や、良くも悪くも青臭いところに、これまでのロマンスとはちがった新鮮さを感じました。日本の少女漫画に近いのかなとも思ったのですが、飯原さんは最初この作品にどんな印象を持ちましたか?
飯原
さん:
マジメ少女が不良男子に惹かれるというのは、少女漫画の典型ですよね。
本作は「20代前半の女性が書いたファン・フィクション」で、読者のフィードバックが得られるネット上で発表されたということもあってか、アメリカの恋するティーン(高校生〜大学生年代)の夢物語がてんこ盛りです(ちょっと詰め込みすぎかな……というところもありますが)。
シーズン1は、ヒーローとヒロインの思いが通じ合うまでの展開もスピーディーで、先を早く読みたいと思わせるものがありました。うぶだったヒロインがヒーローとつき合ううちに少しずつ大胆になっていくのですが、著者は「女性が自分のセクシュアリティ(性的な欲望や関心)を素直に出すのは恥ずかしいことではない」というメッセージを、とくに若い年代に伝えたいようです(ただし、セーフセックスを心がけることもきちんと作中で触れています)。
──では、中心的な読者としては、どういった層を想定しているのでしょうか。
飯原
さん:
今回は担当編集者ともいろいろ話し合い、ターゲットに『CanCam』を読んだり、欧米のセレブに関心をもっている年代を想定しました。ロマンス作品になじみのない人にも読みやすいよう、通常なら漢字にする語もひらいたり、口語的な表現を(とくに台詞部分では)多めにしたりしました。
──そのセリフを中心に、文体がかなり現代的というか、ほぼ話し言葉に近い形なのがとても印象的だったのですが、そのあたりは苦労なさったのではないですか?
飯原
さん:
あまりかっちりした訳にすると、原文の「らしさ」が失われてしまうので、口に出してみて無理のない台詞になるよう心がけました。ヒーローとヒロインが語る一人称小説なので、地の文もそれは同じです。正しくはないけれど普通に通用している言い回しをとり入れたり、周りにいる大学生年代の子たちの話し方や、twitterなどSNSでのやりとりを見て参考にしたところもあります。また、本作のヒーローのモデルとされる人物のキャラをつかむために、ワン・ダイレクションのインタビュー記事や、彼らを扱った書籍にも目を通しました。
私が師事している先生がよくおっしゃるのは、翻訳している作品を映像化するとしたら、誰に演じてもらいたいかを考えてみる、ということ。たしかに、ぴったりの俳優やタレントを思いつくと、口調などが自ずから決まってきます。
──今後のシリーズ展開について、何かお話しできることがあれば教えてください。
飯原
さん:
原著シリーズは7作品で完結しており、日本では最初の2作品が刊行されたところです。シリーズものはやはり、売れ行きが思わしくないと打ち切られてしまうこともあるので、日本の読者のみなさんに最後までお届けできるかどうかは、出版社の意向次第というところでしょうか。本国では映画化の話も進んでいるということなので、今後どうなるか、私もドキドキしながら見守っているところです。
──最後に、学習中の方にメッセージをお願いいたします。
飯原
さん:
中学時代に創元推理文庫のクリスティを全作読破し、その後、原書との比較をやってみて、英語を日本語で表現し直すことの楽しさや奥深さを知り、翻訳を仕事にしたいと思いました。実は、勉強を始めたころはノンフィクションに進みたいと思っていたのですが、台詞や文体を考えることで登場人物の性格付けがより明確にできるフィクションの楽しさにはまり、今に至っています。
フェローでは、通信講座のマスターコース「ロマンス」が印象に残っています。講師の丁寧な添削で、ロマンスを訳すときの注意点をもう一度整理できて、得るところの多い半年でした。
翻訳についてはいまだに悩むことも多いのですが、「原文を読んで感じたままを、その世界観を壊さない日本語で表現し直す」ことなのかな、と思っています。一語一語の意味を丹念に調べることと、文全体を大づかみにして無理のない日本語にすることのどちらも大切にしながら、とにかく量を訳すということをやってみると、あるとき、ぐんと伸びたと実感できると思います。文に人柄は表れますので、フィクションにせよ、ノンフィクションにせよ、自分に合ったジャンルを見つけるとお仕事につながるのではないでしょうか。
飯原裕美さんのプロフィール:
翻訳家。訳書に『AFTER』シリーズ(小学館)、『胸騒ぎの舞踏会』、『婚礼の夜に』(ハーレクイン)、『隠し味は罪とスパイス』(ヴィレッジブックス)など。
飯原さん、ありがとうございました。元々は創作サイトに投稿されたファン・フィクションとのことですが、完成度の高さにビックリしました。これがアメリカのティーンのリアルな姿なのかは、申しわけありません、ちょっと想像の範囲外なのですが(笑)、人間のリアルな気持ちの揺れ動きを丹念に描いていると思いました。
また、原書のほうはすでに完結しているとのことですが、映画化も含めて、シリーズの動きはまだまだ続いている様子。日本でのシリーズ続刊はもちろん、映画の日本版公開もあれば楽しみですね。
(written by Takasaki)
飯原さんが受講した講座はこちら
この記事もおすすめ!
PICK UP

通学講座説明会 体験レッスン 資料請求で全員にプレゼント

PAGE TOP