ホンヤクこぼれ話
今回は山本晶子さんが翻訳を手がけたソーレン・カプラン著『驚きがブレイクスルーをもたらす』をお届けします。本書の翻訳を依頼された経緯や、ノンフィクションとフィクションの翻訳のちがいなどを山本さんにうかがいました。
『驚きがブレイクスルーをもたらす』
山本晶子【訳】
ソーレン・カプラン【著】
マグロウヒル・エデュケーション

ビジネスに飛躍的な発展をもたらす「ブレイクスルー」の達成には、「ポジティブな驚き」が欠かせない。そう主張する著者が、驚きがブレイクスルーにつながるまでの段階を5つに分け、そのプロセスを紹介していく。「自分の声に耳を傾ける」「失敗を恐れない」そして「古い慣習にとらわれない」といった要点を、実際にブレイクスルーを果たした人物や企業の例も豊富に紹介しながら、具体的に解説していく。
●訳者の山本さんに聞きました
まずは、本書について紹介をお願いします。
山本
さん:
ブレイクスルーを求める企業のリーダーたちにとって、不確かなものや曖昧なものは極力避けるということが常識となっています。しかし20年にわたり多くの企業でコンサルタントとして働いてきた著者ソーレン・カプランは、そういった計画的なものとは相反する「ハッとするような気持ち」を大切にしようと提唱します。「驚きを感じること」から出発すれば、真のブレイクスルーを得られるというのがカプランの考えです。ブレイクスルーに至るプロセスで起きる五つの局面に対して、取るべき五つの行動を示し、それらの頭文字をつなげてLEAPSモデルとしました。そして成功に向かって、勢いよく跳びあがる(leapfrog・リープフロッグ)」という言葉から、その具体的な方法を「リープフロッギング手法」と名付けました。本書で紹介されるリーダーたちは、驚きの気持ちを大切にして、価値観や思い込みを変え、前進していきます。彼らのブレイクスルーまでの道のりを描くエピソードと、「驚きの気持ち」や「ポジティブな気持ち」を持ち続けることの大切さを裏付ける研究者たちの調査、実験結果により、「リープフロッギング手法」がわかり易く解説されていきます。
本書で特に注目して欲しいポイントを教えてください。
山本
さん
日本企業にとってもブレイクスルーのヒントになると思われる、米国のビジネスシーンでの新しい考え方や取り組みに注目していただけたら嬉しいです。全編を通して流れる、「古びた考えを捨て、一歩を踏み出そう」、「自分のなかに起きる驚きの気持ちを大切にしよう」というメッセージは、ビジネスに携わる方だけでなく、多くの読者の方々に勇気を与えてくれるでしょう。
本書の翻訳を依頼された経緯を聞かせていただけますか?
山本
さん
ミステリー翻訳を学ぶフェロー・アカデミーの通学講座「田口ゼミ」を受講して2年になります。師匠の田口俊樹先生は日頃から、「フィクションが上手に訳せたらノンフィクションも同じようにうまく訳せるものだ」とおっしゃっています。これまでにいただいたリーディングのお仕事のなかで5冊目にあたるのが本書です。シノプシスを提出して3か月後、今年2月に出版が決まった際、先生のご厚意で翻訳を任せていただくことになりました。ビジネス書としては比較的柔らかい内容であり、リーディングの段階から興味を持って読み進めていましたので、ご依頼いただいたときは、たいへん幸運だと感じるとともに、原書の良さを伝える翻訳をしなければならないと、身が引き締まる思いがしました。
ノンフィクションを初めて翻訳されたご感想はいかがでしたか?
山本
さん
原書の『Leapfrogging』は200ページあまりの本で、読む分にはそれほど苦労しなかったように思います。しかし、いざ一冊の本を訳すとなると、リーディングや下訳とはこうも勝手が違うものかと、その難しさを思い知らされました。ビジネス書翻訳の最大の使命は、著者の伝えたいメッセージをわかり易く読者に届けることです。訳文には、著者の主張の力強さが感じられなければなりません。田口先生からは「ノンフィクションはとにかく意訳を心がけなさい。ことばよりフレーズ、フレーズよりセンテンス、センテンスよりパラグラフを訳すつもりで」とのアドバイスをいただきました。一語一語を漏らすことなく、すくいあげ、日本語でのひとつの物語に仕上げる文芸翻訳とは異なると、身をもって学びました。
訳出にあたっては具体的にどんな点を工夫しましたか?
山本
さん
著者のカプランは40代と若く、ユーモアやジョーク、幼い娘さんとの微笑ましいエピソードも何カ所か見受けられましたが、ビジネス書としてのトーンを損なわないよう心がけました。反対に、企業のエピソードは、短いものもきっちりと訳出しました。著者がオランダの大学で講義をしているため、あまり馴染みのない人名、地名がいくつも出てきて、表記には苦労しました。仏語、蘭語に詳しい友人に尋ねたり、ゼミの先輩の助言により大使館に問い合わせたりしました。また、本文中には、登場人物が体験を語る箇所も多く出てきます。その際、著者と友人関係にある場合は親しげな調子に訳し、本人がネット上のインタビューなどに答えるのを聞ける場合はそれに準じた日本語にしました。スティーブ・ジョブズなどは、既に多くの本で取り上げられているので、それに習って気さくな口調にし、その他は概ね敬体としています。会話文については、フィクションの授業で学んだことが大いに役立ちました。
編集者の方には「翻訳調になっています」「わかりにくいので補足、説明を加えてください」とそのつど的確なご指示をいただき、刊行までの日々を一緒に走り抜けてもらったように思います。初校だけでなく再校でも、漢字を使うかひらがなにするかの不統一や、固有名詞の表記ミス、意味の繋がらない箇所の訳し直しなどが出てしまい、反省しています。事実関係を早めに確認する、表記に関しては細心の注意を払う、常に作品全体の把握を心がける、など学んだことを今後に活かしたいと思います。
山本さんご自身は、最近ブレイクスルーを感じた商品やお店などはあったでしょうか。
山本
さん
立ち上げる手間がかからず、既読の機能が新しいLINEです。メールとチャットの両方の性質を兼ね備え、より伝わり易く、より気軽です。可愛いスタンプ欲しさにおまけとしてつけている商品を買う、あるいは企業を友達として追加するなど、ビジネスモデルとしても注目大です。LINEはその例にはなりませんが、ブレイクスルーするものは、最初に見たとき少しぎょっとするくらいのインパクトがあるものが多いのではないでしょうか。今年、人気の出たタレントや、ゆるキャラを見てそう感じます。
最後に、学習中の方へメッセージをお願いします。
山本
さん
訳書を出して感じたことをふたつあげたいと思います。ひとつめは、心から尊敬し、信頼できる師に出会い、コツコツと勉強に励むことの大切さです。田口先生は、言葉に対する感覚のズレや、間違った使い方はどんな小さなものも見逃さず、厳しく指導なさいますが、「自分がいちばん好きだと思うように訳しなさい」と常に生徒の個性を最大限に引き出そうとしてくださいます。授業ではいつも、クラスメートの訳文に刺激を受けています。気取った文章を書きがちな私にとっては、「ごく当たり前の大人が、ふつうに読んでふつうに分かるように訳しなさい」という教えも、たいへん心に響くものでした。 ふたつめは、大好きな日本人作家を見つけて、作品にハマることが翻訳の勉強に役立つのではないかということです。私はスピード感のある文章を書く桐野夏生、小池真理子両氏の作品が好きで、少なからず影響を受けているように感じます。 これからも焦らず諦めずに修業を続け、自分らしい訳のできる翻訳者になりたいと思っています。
山本晶子さんのプロフィール:
大学卒業後、航空会社に勤務。子育てを終え、40代後半でフェロー・アカデミーに入学。「フィクション」クラスを経て、現在「田口ゼミ」を受講中。
山本さん、ありがとうございました。
「ことばよりパラグラフを」という田口先生のお話は、これまで数々の作品を訳してきた先生の言葉だけに、とても重みがありました。実際、本書は読んでいてスッと頭に入ってくる文章で、先生の教えは山本さんの中に息づいているように感じました。
また「驚きを大切に、自分を変えていく勇気を持つ」という本書のメッセージは、ビジネスの世界にいるわけではない自分にとっても、心に残るものでした。2013年ももう残りわずかとなりましたが、来年からといわず、いまからポジティブな驚きを探して、色々なものにアンテナを張り巡らせていたいと思います!

(written by Takasaki)
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