ホンヤクこぼれ話
今回は小林由香利さんが翻訳を手がけた、レイル・ラウンデス著『どんな場面でもそつなく振る舞えるコミュニケーション・テクニック90』をお届けします。本書の魅力や翻訳で心がけた点、授業で得た経験などをうかがいました。
『どんな場面でもそつなく振る舞える
コミュニケーション・テクニック90』

小林由香利【訳】
レイル・ラウンデス【著】
阪急コミュニケーションズ

ほんのちょっとした気遣いで、あなたが人に与える印象はがらりと変わる。また会いたいと相手に思わせる方法や、パーティーでひとりぼっちにならない方法、会議で一目置かれる人間になる方法など、人間関係をスムーズにするポイントを紹介する。
●訳者の小林さんに聞きました。
──まずはどういった内容の作品なのか、解説をお願いします。
小林
さん:
ビジネスでもプライベートでも好印象を与え、人間関係をスムーズにするコミュニケーションのちょっとしたコツを、具体的なエピソードやユーモアを交えて紹介する本です。みんなの話についていけない、大事な会議に遅刻してしまった──そんな日常生活で陥りがちなピンチからの脱出法もアドバイスされているので、男女を問わず気軽に手に取っていただきたい一冊です。
──とても繊細なコミュニケーション術が紹介されていて、微妙な距離感を気にする日本人にはぴったりなのではないかと思いました。
小林
さん
そうなんです。アメリカ人は外向的で自己主張が強いというイメージがありますが、本書を読んでみると、意外に繊細な面も持ち合わせているのだなという印象を受けました。相手に対する思いやりが大事という点は日本でもアメリカでも同じということでしょうか。私自身、口下手であまり社交的とはいえないので、無理に社交性をアピールしなくてもいいという著者のメッセージは心強かったです。
──名刺の扱いなど、日本人に馴染みのある話題に直接触れている箇所もありますよね。小林さんが、本書を読んで実践するようになったコツなどはありますか?
小林
さん
人の顔と名前を覚えるのが以前から苦手なのですが、このところ加齢のせいか、その現象にますます拍車が掛かっており……。本書で紹介されている「会ったことのある人の名前がどうしても思い出せないときのコツ」は、いつかぜひ実践してみようとひそかにチャンスをうかがっています。
──文章の話題に移りますが、本書はまるで自分に直接語りかけてくるような、自然なトーンが印象的でした。著者はやはり、講演者としての経歴を持つ方なのでしょうか?
小林
さん
著者のレイル・ラウンデスは、アメリカはもちろん国際的にも高い評価を受けているコミュニケーションのエキスパートです。動画などでアップされている、現在の自信にあふれる話しぶりからは想像もつかないのですが、公式サイトのプロフィールによれば、著者は子供時代から非常にシャイで、大学卒業後もしばらく「社交不安障害」に苦しんだそうです。そんな彼女が母親の死をきっかけに自分を変えようと一念発起。それからは航空会社の客室乗務員、舞台女優、クルーズ旅行の責任者など、不特定多数の人間を相手にせざるを得ない仕事をあえて選んで、コミュニケーションスキルを磨いたといいます。
──なるほど。では翻訳に際して、この文章のリズム感や歯切れのよさを出すために、どのあたりを工夫したでしょうか。
小林
さん
講演の様子やテレビに出演した際の動画を見ると、明るくて豪快に笑っていたりもして、姉御肌というか、どことなく女優の高畑淳子さんのようなイメージがあったので、全体としては、女性っぽくなりすぎず、男女を問わず抵抗なく読めるようなトーンを心がけました。
──具体的にはどういったところでしょうか?
小林
さん
普通、日本語ではあまり人称代名詞を多用しないのですが、この作品では語りかけるような雰囲気を大切にしたかったので、「あなた」はあえて多めに使っています。あとは、言葉以外のしぐさや表情についてアドバイスしている箇所で、ネットなどで調べても今ひとつピンとこないものについては、ネイティブに確認し、実際にやってみてもらったりもしました。
──小林さんはフェローの芹澤恵先生のクラスでフィクションの翻訳を学習していたそうですが、本書の翻訳で、その経験が生きた点はあったでしょうか。
小林
さん
普段の翻訳そのものは基本的に単独作業ですから、自分では気をつけているつもりでも、つい独りよがりで読者に不親切な訳文になってしまいがちです。授業で先生の訳例はもちろんのこと、同じ原文をクラスメートのみなさんがどう訳されたかを見て、それについて意見を言い合うのはとてもいい刺激になりましたし、自分が見落としていたことに気づかされたり、訳しにくい箇所で「その手があったか!」とはっとさせられたり、新鮮な発見がいろいろとありました。
──ありがとうございます。それでは最後に、今後に向けての意気込みをお願いします。
小林
さん
月に行われた文楽の住大夫師匠の引退公演、筋書の巻頭エッセイで時代小説家の田牧大和さんが紹介されていた師匠のこんな言葉が心に残りました──「仕事は、『好き』というのが一番ですわ」。翻訳の仕事は決して楽ではありませんが、私も「好き」という気持ち(と、いつかはフィクションも、という野望)を忘れずに、これからも真摯に翻訳と向き合っていきたいと思っています。
小林由香利さんのプロフィール:
一般企業勤務を経て、30歳の節目にフェロー・アカデミーのフリーランスコースへ入学。その後、芹澤恵先生の講座に進級し、出版翻訳家デビュー。10年以上のキャリアを経てから「芹澤ゼミ」を受講し、さらなるスキルアップに努める。
訳書に『どんな場面でもそつなく振る舞えるコミュニケーション・テクニック90』『人を引きつけ、人を動かす きらりと輝く人になるコミュニケーション・テクニック70』(阪急コミュニケーションズ)、『ロボット兵士の戦争』『2050年の世界地図 迫りくるニュー・ノースの時代』『サイコパス 秘められた能力』(NHK出版)などがある。
小林さん、ありがとうございました。
書ではたくさんのコツが紹介されているので、どんな人でも「これは!」という目からウロコのコツが見つかるのではないでしょうか。個人的には、大勢が集まる席で堂々と振る舞うコツを、チャンスがあれば実践してみたいと思っています。

(written by Takasaki)
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