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2017年4月3日カテゴリ:インタビュー

「プロの翻訳メソッドとは?」
吹替・字幕両方の翻訳を手がける有尾先生にお伺いしました

――先生はフェローでの学習経験がおありですが、特に印象に残っている講師のアドバイスなどはありますか?

有尾先生:
フェロー・アカデミーの通学講座で5年間、吹替を学びました。当時は吹替の講座しかなく、恩師いわく「吹替翻訳ができれば字幕もできる」と。今ではちょっと乱暴な物言いだなと思いますが、突き詰めればそのとおりです。
アンゼたかし先生からは「雑学王」になれと言われました。映像翻訳ではありとあらゆる分野に接します。今ではインターネットが普及して調べ物はずいぶん楽になりましたが、それでも雑学があるのとないのとでは大違い。なんとなくでも知っていれば気付けたハズのセリフのキモを、知らなかったばかりに完全スルー、ヘタをすれば誤訳しかねません。 また、矢田尚先生からは「字面ではなく心を訳せ」と教わりました。これが本当に難しい。常に念頭にはあっても、実践できているかどうか、客観的な目も養わなければなりません。 学習全般について強く印象に残っているのは、どのクラスも開講当初は教室いっぱいにいた生徒が、修了時には数人にまで減っていたことです。やめていった理由はいろいろあると思いますが、最後まで残っていた中の数人が、今でも翻訳者として活躍しています。まさに「継続は力なり」です。


――最初の仕事はどのように獲得して、その後どのように増えていきましたか?

有尾先生:
初めての仕事はパソコンゲームのテキスト翻訳でしたが、実力が足りず次の仕事につなげることはできませんでした。出産後、しばらく育児に専念しようと思っていたのですが、驚くほど手のかからない子でヒマを持て余していました。そんなときに、出産前に受講したフェローの短期集中講座で、講師として招かれていた制作会社がシリーズドラマの字幕翻訳のトライアルをやっていると聞き、思い切って受けたところ合格。それが本格的なデビューになりました。字幕翻訳の経験は学習も含めて皆無でしたが、恩師の言葉どおり「吹替翻訳ができれば字幕もできる」んだなと思ったものです(笑)。
ですが実際のところ、出来は本当にヒドいものでした。担当者からチェックバックがあるのですが、ほぼすべてに赤が入っていました。指摘された点を丁寧に直していく中で、字幕のコツを覚えていきました。言い換えれば、その担当者に字幕翻訳を教えていただいたも同然です。
以降は、同時期にデビューした仲間と仕事を紹介し合った他、仕事が仕事を呼ぶ形で増えていきました。


――どのようなジャンルの映像作品を翻訳されることが多いのでしょうか?

有尾先生:
ざっくりとジャンル分けするとSFが多い印象ですが、同じSFでも舞台が実在の都市や宇宙、架空の世界など、時代設定も現代、古代、近未来、扱っている内容もスーパーナチュラルや最先端技術、物理、化学、数学などなど、実に様々です。そのうえ、医療、軍事、政治、経済、宗教、司法などの要素が入り混じってもいますし、それがコメディタッチであることも、とことんシリアスなこともありますので、翻訳の立場で見ればジャンル分けはあって無いに等しいように思います。
これはSFに限ったことではなく、シットコムや社会派ドラマ、ドキュメンタリーでも同じですので、気持ちとしてはあらゆるジャンルをまんべんなくやっている感じです。


――吹替と字幕の仕事のバランスはどれくらいでしょうか。

有尾先生:
現在は半々です。同じ制作会社さんから続けて依頼をいただくことが多いので、吹替ばかりが数年間続き、字幕からはすっかり遠ざかった時期もありました。
再び字幕もやるようになったのは、担当していたシリーズドラマが予算の関係で吹替から字幕に変わった際、「字幕もできますか?」と聞かれ、「ブランクはありますがやれます!」と言ったのがきっかけです。以降は、同じ制作会社さんから両方の依頼をいただけるようになりました。


――字幕・吹替翻訳はそれぞれ訳し方が異なりますが、それぞれ翻訳する際にこだわっているポイントを教えてください。

有尾先生:
字幕は、そのセリフが何を伝えたいのか、中心となる単語を見極めて字数と読みやすさを考慮し文を整えています。 吹替も何を伝えたいのかを見極めるのは同じですが、役者の身振り手振りや目線などの動きとセリフが合っていないと話になりませんので、ポイントになる言葉の位置を決め、前後を埋めるような形でセリフにします。

例えば、拉致された女性がイスにつながれ、床には電流が通っているシーンでこんなセリフがありました。渡された缶飲料を意を決して飲み、相手に言い放ちます。

If you put a truth serum in this, trust me, I will do a tap routine on this floor rather than tell you anything.

字幕の場合、文字数は最大25文字、1行13.5文字という制約がありますので、そのまま訳しては収まりません。

試訳「もし自白剤が入ってたら/床でタップダンスしてやる」

このセリフは、床の電流が映っているカットから遠いため、なぜタップダンスをするのかが分かりづらいとの指摘を受けました。
「床の電流でタップしてやる」としても、「タップ」がダンスのことだと瞬時に伝わらない可能性が大きく、意味不明な字幕になってしまいそうです。
結局、下記のように意訳しました。

「たとえ自白剤が入ってても/とことん抵抗するだけだから」

吹替では、字幕のような意訳だとアクションと合いません。「on this floor」で目線を床に投げるのです。
そこでこんなセリフにしました。

「もし自白剤が入ってたら何か喋り出す前に 床に降りて タップダンスを見せたげる」

目線を投げるアクションと「床に降りて」という一言がピタリと合うことで、視聴者に「床の電流」を思い出してもらえ、タップダンスの意味が通じるようになります。さらには声優の反抗的な「声の芝居」で字幕の「とことん抵抗する」という姿勢も伝わります。
このように、字幕では「パッと見てセリフの意味が分かること」、吹替ではアクションや声の芝居も含めたすべてでそのセリフの真意を伝えることを大切にしています。


――やっていて良かったと思ったことや、やりがいがあれば教えてください。

有尾先生:
やっていて良かったと思ったのは、離れて暮らす義父に「ときどきインターネットで検索して、活躍ぶりを見てるよ」と言われたときですね。名前がクレジットされる仕事だからこそ、責任の重さも感じますが、嫁以外の私の一面を知ってもらえ理解もしてもらえました。
やりがいを感じるのは、やはり褒められたときでしょうか。とは言っても、できて当たり前のプロの世界ですから、面と向かってお褒めの言葉をいただくことはそう多くありません。どのセリフにも、訳す楽しみと同時に生みの苦しみがあり、自信はと問われれば常にありますが(笑)、チェックや直しが入ることは多々あります。ですから、チェックや直しがない=うまく訳せている、と解釈しています。


――これから翻訳を学ぼうと思っている方、もしくは学習中の方にむけて、メッセージをお願いいたします。

有尾先生:
最初の方でも触れましたが、「継続は力なり」です。そもそも映像翻訳をすることが苦痛になったら継続はできませんよね。つまりは向いていなかったことになります。逆に楽しかったら続けたいですよね。プロとしてどんなことが必要かは、学習でも仕事でも、続けているうちに自然と分かってきます。ですからまずは、調べ物などのプロセスも含めて、セリフを練ることが楽しいかどうか、自分に正直になるのが第一歩だと思います。そして楽しいとなったら、あとはもう「好きこそ物の上手なれ」です。いつどんなチャンスがめぐってくるか分からない世界ですので、焦らずに、その時その時の作品を大切に楽しんで訳してください。それが力になります。


◆有尾先生のプロフィール◆
映像翻訳家。海外ドラマシリーズ、長編ドラマ、アニメ、ドキュメンタリー、趣味・教養・実用DVDなど、ジャンルを問わず手がける。『ダーク・エンジェル』(吹替)、『サンクチュアリ(テレビドラマ)』(吹替・字幕)、『ヘイヴン−謎の潜む町−』(字幕)、『スモールアイランド』(字幕)、『ナルニア国物語 〜秘密の年代記〜』(VO)、韓国時代劇『夜警日誌』(吹替)ほか担当作品多数。


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