(メールマガジン『Tra-maga』Vol.155、Vol.156より)
◆まず翻訳に興味を持ったきっかけを教えてください。
【木田】本が好きで、とくに翻訳ものが好きでした。学生時代に翻訳に関する本やエッセイを読んだこともあるので、前から興味はあったのだと思います。でも、英語力に自信がないので、仕事にしたいとは思っていませんでした。具体的に翻訳のことを考えるようになったのは、仕事を辞めることにしたときです。一生続けられる職を身につけたいと思い、いろいろ考えて、翻訳に挑戦することにしました。33歳になっていたので、仕事に就きやすい資格を取ることも考えましたが、本当にやりたいことをやろうと思いました。
【佐藤】私も英語の本を読むのが好きで、昔から翻訳になんとなく憧れはあったのですが、職業としては考えていませんでした。具体的に考え始めたのは、木田さんと同じで会社を辞めたときです。お酒が好きでお酒の会社に入りましたが、営業の仕事を経験して、「もっと自分に合った仕事があるんじゃないか」と痛切に感じて。「これからどうしようかな」と思ったときに、書店で翻訳関係のムック本を見つけて、「あ、これかな」と。
◆木田さんはフェローの総合翻訳科「カレッジコース」で、佐藤さんは総合翻訳科「フリーランスコース」で翻訳の学習をスタートしたのはなぜですか? 受講してよかった点は?
【木田】とにかく英語力に自信がなくて、最低1年は英語の勉強をしっかりやらないといけないと思っていました。フェローを選んだのは、1年間みっちり翻訳を学べる全日制の「カレッジコース」があったからです。
【佐藤】私はもっと単純な理由です。8月末に会社を辞めて、翻訳の学習をしようと考えたのが秋だったので、翌年の1月に開講された「フリーランスコース」にしました。文芸翻訳をやりたいと思っていましたが、翻訳のことを何も知らなかったので、まずは総合的に学習したい、という思いもありました。3カ月で週3日のコースなので、正直最初はお手軽かなと思ったのですが、大きな誤解でした(笑)。「カレッジコース」はどうだった?
【木田】はじめの半年間は勉強ばかりしていて、夏休み明けに伸び悩みというか行き詰まってしまって(笑)。机に向かってばかりでもだめで、いろいろ経験して知識をインプットしないと、翻訳をしたときに適切な日本語がでてこないんですね。そのことに気づいてからは気持ちを楽にして、適度に友達と遊んだりしながら勉強しました。でもやっぱり予習に追われていましたけど。「カレッジコース」は入学試験(旧:選抜試験)があったので、入る前に受験勉強のようなこともしました。
【佐藤】「カレッジコース」って、入学試験があるの? 「フリーランスコース」はなかったですね。「基本的な英語力のある人」という自己申告のみでした。「フリーランスコース」も大変でした。週3回でも予習だけでいっぱいで、復習する時間がありませんでした。
【木田】「カレッジコース」で実際に翻訳を学んでみると、思った以上に難しかったですけど、楽しかったですね。
【佐藤】私も楽しかったです。文芸翻訳をやりたいと最初から決めていましたけど、「フリーランスコース」で映像翻訳や実務翻訳の学習もして、「翻訳ってこんなに幅広いんだ」と思いました。どれも楽しかったのですが、初志貫徹でやっぱり文芸翻訳かなと。やってみて合わないこともあるかと思いましたが、いろいろなジャンルの翻訳を学習して、文芸翻訳が一番おもしろかったので、確信が持てました。
【木田】私も実務翻訳には最初は興味がなかったんですけど、選択した授業の先生がすごく熱心で、緊張感もあっておもしろくて、楽しかったし、いろいろためになりました。でも、最終的には文芸翻訳です。
◆「カレッジコース」「フリーランスコース」修了後、お二人とも真崎義博先生の文芸コース実践クラス「エンタテインメント(1)」に進まれましたね。
【木田】真崎先生のクラスを選んだのは、パンフレットの担当講師のコメントに「日本語の基本も勉強します」というようなことが書いてあって、それが決め手でした。翻訳の学習をしていて、日本語の難しさを痛感することが多かったのと、日本語の授業を受けたことがないので興味があって。あとは勢いと勘です(笑)。
【佐藤】私はもっといい加減です。すみません、先生(笑)。「フリーランスコース」の最後に、事務局の方が今後の進路について相談に乗ってくださったのですが、そこで真崎先生のクラスを紹介されました。「どんな先生ですか?」と尋ねたら、「受講生同士がファーストネームで呼び合うのよ」と言われて、リベラルな感じの先生なのかなと。
【木田】実際にファーストネームで呼び合っていますよね。
【佐藤】授業の進め方は、まず二人の受講生が課題を訳してきます。訳す人は「被告」と呼ばれて(笑)、あと二人「検事」が指名されます。検事は被告の訳文に赤字を入れてきて、それを見ながらああでもない、こうでもないと全員で検証します。
【木田】最初は緊張しましたね。みんな、被告よりも検事のほうが嫌だって言いますね。赤字を入れたのがダメでまた元に戻されたり。
【佐藤】クラスは11〜12人なんですが、私たち二人が出産で抜けたときは、検事になる回数が多くなり、クラスメイトは大変だったそうです(笑)。
【木田】真崎先生は、パンフレットのコメントにあったように、日本語の表現についても、丁寧に説明してくださいます。小説を翻訳するうえでの姿勢というか、そういうお話もためになりますし、実際に翻訳する際のテクニック、と言っていいのかわかりませんが、それを「意図的誤訳」とか「論理的誤謬」といったインパクトのある言葉を使って説明されていたのもすごく印象に残っています。
【佐藤】授業の初日に「英語を読んだらまずそれを頭の中で映像に変換して、その変換した映像を日本語にしなさい」という話をしてくださるのですが、それもやっぱり、意図的誤訳につながるのかな。訳していて何か不自然、というときは、このビジュアライズをやっています。それから、先生は日本語のリズムをすごく大事にされる方で、「自分が書いた訳文を必ず声に出して読んでください」ということも言われます。
【木田】クラスメイトの訳が聞けるのもためになりますよね。「そこをそう訳したんだ」とハッとするときがあります。
【佐藤】同じ英文を訳しても全然違うことがありますね。
【木田】自分が苦労して訳したところを、すごくすっきり訳してきた人がいると、とても参考になりますね。
◆ところで、お二人ともほぼ同時期に出産、休学されていますが、そのときの心境は?
【木田】フェローで託児サービスが始まるとは思っていなかったので、当分通学できないな、とは思いましたけど、休学することに関してマイナスには感じませんでした。英語力も読書量も足りないし、やることはいっぱいあるので、とりあえずできることを家でやろう、と。「カレッジコース」に入ったときは「なるべく早く仕事」という気持ちがありましたが、学んでいくうちに「それは無理だな(笑)」と。腰を落ち着けてじっくりやるしかないと思っていたので、休学する時点ではさっぱりしていました。
【佐藤】私は実家が近いので、出産後早目に復帰できるかな、と楽な気持ちでいたのですが、産んでから「甘かったな」と。育児は想像以上に大変でした。クラスメイトはどんどん前に進んでいくのに・・・と、気ばかり焦ってしまった時期もありました。親に預けるか保育所を探して、なんとかして復学しなきゃ、とけっこう気負っていましたね。その反面、育児に専念したほうが子どものためにはよいのかな? とも思ったりもしました。
◆フェローでは、今年の2月から全ての講座で託児サービスを利用できるようになりましたが、それを知ったときの感想は?
【佐藤】去年の秋頃、フェローで託児付きの短期集中講座が開催された時は、予定があって参加できず、本講座でも託児サービスがあればいいのに、と思っていました。復帰するなら真崎先生の講座と決めていましたが、授業のある夜の時間は、子どもを実家に預けるのが難しいかもしれないと思っていたので、託児ルームが常設されると知ったときはとても嬉しかったです。ただ、毎週きちんと通学できるのか不安で弱気になったりもして、復学の時期はけっこう迷いましたね。でも、本講座は4月期を逃すと10月期まで待たなければいけないので、今年の4月から復帰しようと決めました。
【木田】私は託児ルームができることを3月に聞いて、「これで4月から通学できる」と思ったんですけど、家事も育児も中途半端なのに、ここで翻訳学習を再開すると子供にしわ寄せがいくかなとか、授業料に託児料が加わるので、それに見合うだけの学習ができるかな、という不安があって一時は悩みました。4月期は見送ろうかとも思ったんですけど、最終的には通学してダメだったらまた休学して通信講座を受けてもいいしと。
【佐藤】夫も、家にこもりきりよりは、好きなことをやってたまには出かけた方がいいよ、と協力的でした。託児ルームができて一番喜んだのは夫かも?
【木田】うちも子どもが生まれた時に、学校に通ったほうがいいんじゃない、って。彼も自分のしたいことがあるので、お互い好きなことをやっていたほうがストレスにならずにいい、ということもありますね。
◆実際に託児ルームを利用した感想を聞かせてください。
【佐藤】最初はどこにあるんだろう? と思って。事務局のすみにデパートのコーナーみたいのがあるのかと(笑)。
【木田】私も教室をちょこっと改造した一時預かりという感じかと思っていました。でも、初めて行ったときはびっくりしました。ちゃんと保育所みたいになっていて。シッターさんもきめ細やかで、帰る時その日の息子の行動を書いたメモを渡してくれるんです。家に帰ってそれを読むのが楽しみです。
【佐藤】私も集めています。それを見て、もうこんな遊びをするんだ、こんなおもちゃが好きなのか、とわが子の成長を知ったりします。
【木田】うちの子は泣いてばかりみたいで(笑)。でも翻訳会館内に託児ルームがあるので安心です。普段、私か夫とずっと一緒なので、本人にとってもいい経験になると思っています。
【佐藤】利用形態も1回ごとにお願いできるので、この先実家に預けて通学するようになったときも、実家に預けられない日だけお願いすることも可能で、便利だと思います。むしろ大変なのは行き帰りの電車ですね。夜の講座なので、行きはいいけど、帰りはラッシュの時間帯なのでドキドキです。子どもを連れていると席を譲ってくれる人もいて、今は周りに感謝しつつ通学しています。
◆育児と勉強はどのように両立されていますか?
【木田】子どもが寝ている間は勉強できるという気持ちがあったのが、そうはいかなくて。この時間帯は勉強するとか、一日何時間勉強しようと決めてしまうと、その通りにいかないとストレスがたまるので、何も考えないで時間がぽっと空いたときに勉強して、子供が泣いたら勉強はしないという感じでやっています。でもやっぱりそれでは課題の期限が間に合わないときは、夫に子どもを見てもらって、何時間かひとりで集中して勉強します。
【佐藤】私も最初は時間を作って勉強できるかと思っていましたが、難しいですね。4月に復学してから、授業があるから勉強しなきゃと思うとイライラして、子どもに当たったりして。これではいけないと反省して、それからはのんびりやるように心がけています。
【木田】子どもって、机に向かうと寄ってきますよね。
【佐藤】パソコンが大好きで、パソコンを開くと「やった〜」という感じでそばに来ちゃうんですよね(笑)。まだ10カ月なんですけど。
【木田】パソコンに触りたがりますねえ。
【佐藤】よっぽど楽しそうに見えるんでしょうね(笑)。せめて毎日原書だけでも読もうと思うんですけど、それすらできないこともあります。夜、寝ながら訳文を考えたりもします。
【木田】私も寝かしつけるときに考えています。
【佐藤】うまく訳せなかったところを延々と。
【木田】思いついたら忘れないようにしないと。寝たら忘れちゃうので(笑)。
【佐藤】電話の横にメモを貼ったり。
【木田】やっぱり、好きなことだからできるんでしょうね。
【佐藤】子育てしながら翻訳の学習もできるなんて、贅沢かなと思うこともありますね。
◆ところで、今までに翻訳のお仕事をされた経験はありますか?
【佐藤】妊娠中に40ページくらいの下訳のお仕事をいただきました。先生の訳書ではありませんでしたが、数名で分担して下訳をやらせていただきました。
【木田】私も佐藤さんと一緒に下訳をやらせていただいて、出産後に別の下訳のお仕事をいただきました。
【佐藤】私はたまたま家族旅行があって、2回目は泣く泣くお断りしたんですけど、大変だった?
【木田】あの時は子どもにティッシュの箱でもなんでも大盤振る舞いして(笑)、とにかく翻訳する時間をちょうだい、という感じで、すごくきつかったです。その経験があるので、自分の時間をしっかり確保できる状態になるまでお仕事を引き受けられないと思っています。保育園か幼稚園に行って一段落した頃に、少しずつお仕事がいただけたらな、と思います。
【佐藤】私はチャンスがあれば仕事をしたいと思っています。でも、この状況を理解していただいて、納期の長いお仕事だったらトライしたいですけど、そんな都合のいい仕事はないですからね・・・。
【木田】私のような学習中の身では、一度仕事を断ると二度とお仕事をいただけないのでは、という危機感はあるんですけど、お引き受けしてできないほうが怖いので、ジレンマがありますね。お引き受けしたからにはきちんとやらないと次はないな、というのもありますし。
◆お二人にとって翻訳の魅力、これからの目標を教えてください。
【木田】原文を読んでイメージした世界を日本語で表現するという、創作ではないですけど、何かを表現することが好きなのかな、と自分では思います。
【佐藤】私は文章を書くのが好きなので、楽しいですね。訳すとなると、ていねいに読んで、辞書もたくさん引くので、何気なく読むときとは違った味わいもあります。何度も考えて「これだ」という訳が見つかったときも素直に嬉しいですね。でも、すごく考えた訳を授業であっさり却下されたときは悲しい(笑)。自分が思いもつかなかったいい訳をクラスメイトが出してきたときや、ものすごく誤訳していたときはもっと悲しい(笑)。学び始めたころよりは成長したかな、と思う反面、自分に足りないものも見えてきます。情報誌「Amelia」で先輩方の学習法を読んでも、一人ひとり違うじゃないですか。翻訳の学習にこれが正解、王道はないと思うので、自分なりの学習法を見つけて、進んでいかなきゃいけないな、と思っています。
【木田】英語を話せなくても翻訳はできる、という先生もいらっしゃるようですが、やっぱり会話を訳すのは難しいので、できれば話せるようにもなりたいですね。どれくらいやればいいのかと考えると、ものすごく道のりが長くて、ふっと「つらい」と感じてしまいますけど(笑)。
【木田】【佐藤】そして、目標はやっぱり文芸翻訳家。自分の名前で訳書を出すのが夢ですね。
【佐藤】私はフィクションを訳したいですね。ストーリーがあるものを訳すのが楽しいですし、今まで自分が読んできたものも圧倒的にミステリーが多いので。
【木田】デビューできたときは旧姓をペンネームに使うつもりです。ちょっと別人格でいきたいというか。誰もそんなこと気にしないのに自意識過剰で(笑)。
◆最後に、同じように子育てしながらがんばっている翻訳学習者に、メッセージ、アドバイスをお願いします。
【木田】私の場合は出産後に全然勉強する余裕がなくて、ちょっと子育てが落ち着いてから学習を再開しました。その時なかなか思いどおりの訳文が書けず、明らかに翻訳力が後退しているというか、勘が鈍っていて、継続して学習することがすごく大事だと思いました。すぐに復学できなくても、自分の好きな原書を訳したり、今までの課題を復習したりしていれば、翻訳力を落とさずに復帰後授業についていけると思います。
【佐藤】フェローの通信講座を受講した時も丁寧に添削していただけて、とてもよかったんですが、復学した時に「リアルタイムで先生に質問できる」「クラスメイトの訳文が聞ける」など、通学講座のよさを実感したので、託児ルームを利用して通学を続けるのもいいと思います。
【木田】託児料も最初は高いと思いましたが、リフレッシュ料と割り切れば、そんなに高いとは感じないですね。週1回2時間で2,000円ですから。
【佐藤】他に比べたらかなり安いですよね。最初は学校に子どもを連れてくるのは無理かも、と思って、近所の保育所などに問い合わせたりしましたが、もっと高いんですよ。フェローの託児ルームには本当に満足しています。
◆お忙しいところ、ありがとうございました。