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トラマガ

Vol.384 <前編>英米・スペイン文学翻訳家 宮﨑真紀さん

スペイン語翻訳者として、訳すだけでなく
面白い作品を見つけ出し、紹介することも重要な使命

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(2017年1月6日更新)
大学時代にスペイン語を学び、現在はスペイン語圏・英米文学の翻訳家として多くの小説を翻訳している宮﨑真紀さん。しかし、最初はスペイン語の仕事などあるとは思わず、英語作品だけを翻訳していたそうです。そんな宮﨑さんがスペイン語の翻訳をするようになったのは、どのような経緯だったのでしょうか。英語以外の言語の翻訳需要は確かにそう多くはありません。それを仕事として成立させるために、どのような工夫や努力をしているのか、宮﨑さんにお話を伺いました。

少女時代は本好き、語学好き。社会人になって翻訳に目覚める

――本は昔から好きでしたか? どのような本を読んでいましたか?

はい、子どもの頃から本が大好きでした。小学館の「少年少女世界の名作文学」という全50巻の全集があり、表紙をとても美しい世界の名画が飾っていて、見ているだけでも楽しくなる本だったのですが、それがたまに近所の古本屋さんに並ぶんです。値段は小学生の子どもでも買えるくらい、確か1冊100円ほど。いちばん仲の良い友だちも本好きだったので、見つけるとすぐ競うように買って、交換して読んでいました。振り返ってみると、私にとっての翻訳書の原体験はこの本だったと思います。
中学に入ると友だちの間でアガサ・クリスティが流行りました。『アクロイド殺し』や『そして誰もいなくなった』など、この頃アガサの本に出会わなければミステリーを好きにならなかったかもしれません。翻訳ものに限らず小松左京や星新一など日本人作家の本も読み漁り、ミステリーやSFといった、いわゆるエンタメ小説をたくさん読みましたね。

――英語、スペイン語についてはどうでしょう。いつ頃、好きになりましたか?

英語はごく普通に中学から学び始めました。教科の中ではいちばん好きでしたね。それで語学に関心を持ちました。さらには、きっかけは覚えていませんが、中高生の頃にインカ帝国など古代文明になんだか心を惹かれて。それで、大学進学で学部を選ばなければならないときに、とても単純なのですが、スペイン語も面白そうだなと思いついたんです。そういうわけで、東京外国語大学のスペイン語学科に進みました。

――では、将来翻訳家になりたいと思ったのは、大学生の頃でしょうか?

それが、学生時代に特に翻訳に興味を持ったということは、正直言って、ないんです。強いていえば、短編小説を読んで内容をまとめるという授業があって、その授業が楽しかったことくらいでしょうか。全部を訳すわけではないので翻訳とは違うのですが、作品の内容を読み取ってまとめる、という作業が面白くて。ただ、それを将来の仕事に結びつけて考えることはないまま、普通に就職活動をして大学卒業後は外資系の食品メーカーに就職しました。

――では、翻訳を仕事にと考え始めたきっかけは?

たまたま友人の家に遊びにいったときに翻訳に関する雑誌が置いてあって、それを見せてもらったんです。翻訳を仕事にするなんて、それまで考えたことがなかったので、とても新鮮でした。会社では仕事に慣れてきて、「ずっとこのままでいいのかな」と思い始めていた時期でもあり、「自分は語学が好きで、本も好き。だったら翻訳を仕事にするという選択肢もあるのかな」と思ったんです。どうすれば翻訳家になれるかとか、どんな種類の翻訳があるかといった知識はまったくなく、漠然と「本が好きだから小説を訳したい」という思いで、通信講座の文芸翻訳のコースを受講することにしました。会社に入って3年目か4年目くらいだったと思います。
やってみるとすごく楽しくて、翻訳をすること自体がとても好きになりました。自分がどこまでできるのか、翻訳を仕事にできるかどうか、といったことはわかりませんでしたが、「1冊でも訳書が出せればいいな」とそんな憧れのような気持ちで、通信講座がひととおり終わると通学講座に切り替えました。
そのうちに、勤めていた会社の本社が東京から神戸に移転することになったんです。東京オフィスは残ったものの、所属していた部署は神戸に。私は既に結婚していたので神戸には行かず、東京オフィスの別の部署に異動になったのですが……。翻訳のほうで次に受けたい上級クラスが平日の昼間だったこともあり、この機会に会社を辞めて翻訳の勉強に本腰を入れようと決めました。

需要は少ないが競争も少ない、スペイン語の翻訳にも道が拓ける

――初めての翻訳の仕事は、どのようなきっかけで、どんな内容でしたか?

『NIRVANA THE LEGACY』(シンコーミュージック) 上級クラスになると、師事していた先生の下訳をやらせていただいたり、クラスメイトの紹介でリーディングの仕事がまわってきたりして、少しずつ翻訳周辺の仕事をするようになっていきました。
最初の翻訳の仕事は、友人からの紹介がきっかけでした。友人の友人が翻訳者で、その方から下訳の仕事を受けていました。そして、その方の知り合いの編集者が翻訳者を探しているときに私を紹介してくださったんです。音楽系の出版社で、ロック・ミュージシャンのムック本を1冊、初めて単独で訳しました。翌年には、別のミュージシャンのムック本をもう1冊訳しました。

――続けて依頼があったということは、翻訳を気に入ってもらえたのですね。では、その後は順調に仕事の依頼がありましたか? 

いいえ、そう甘くはありませんでしたね。この出版社は音楽専門ということもあり、そんなにたくさん翻訳書を出しているわけではなかったので、2冊で仕事は途切れてしまいました。
その後、新聞広告でハーレクイン社が翻訳者を募集しているのを見つけて応募したところ合格しました。以来、1冊訳して納品したら次の依頼と、長くお仕事をいただいています。
その間に子どもが2人生まれて、育児期間中は仕事を積極的に増やすことはせず、ハーレクインの翻訳やリーディングの仕事などと育児を両立させていた時期がありました。

――翻訳学校で学んだのは英日翻訳で、仕事もずっと英日のものを受けていたようですね。スペイン語の翻訳はどのようにして依頼されるようになったのですか?

仕事をするようになって、翻訳者ネットワーク「アメリア」に入会したのですが、アメリアの紹介で角川書店さんからスペイン語のリーディングを受けるようになったのがきっかけでした。
それまで日本で翻訳出版されているスペイン語の本といえば純文学や古典的な作品で、翻訳しているのは大学教授など大御所の方ばかり。エンターテインメント系のものがあっても、たいてい英語からの重訳で、私のように大学でスペイン語を勉強しただけの者に仕事がまわってくるわけがないと思っていたので、リーディングの依頼があったこと自体驚きました。
これをきっかけにちょくちょくリーディングのお話をいただくようになったのですが、スペイン語は大学卒業以来、まったく使っておらず錆びついていたので、コンスタントにまとまった量のスペイン語を読む機会を与えられたことは私にとってとてもありがたいことでした。
角川は出版だけでなく映画の配給もしているので、リーディングの仕事を1年ほど続けた頃、スペインで公開されて国民的大ヒットとなった映画『女王フアナ』の日本公開に合わせて関連本を出版したいから何冊かリーディングしてほしい、と依頼がありました。その中から1冊出版することが決まり、翻訳を依頼されました。編集者さんいわく、映画に合わせたスケジュールで非常にタイトだから大学教授の先生に頼むのは難しい、ということだったようですが、私にはラッキーだったわけです。それが初めてのスペイン語の翻訳本となりました。

――スペイン語の翻訳は、順調に増えていきましたか?

その後、アメリア経由で別の会社からスペイン語の翻訳者を探しているとお話をいただいて、お引き受けすることになりました。それもかなりタイトなスケジュールだったので、分訳だったのですが、それ以来、その会社からスペイン語の書籍の翻訳があると声を掛けていただき、徐々にスペイン語の仕事が増えていきました。
それが今から5、6年前のことです。下の子が小学校高学年になって手が掛からなくなってきたので本格的に仕事を増やしていきたいと思い始めていた頃で、非常にありがたかったです。
英語以外の言語の仕事はそれほど多くはありませんが、翻訳者の数が限られているので、比較的チャンスがめぐってきやすいと思います。私は英語の書籍の翻訳のご依頼も受けているので、両方を合わせると、ありがたいことにあまり途切れることなく、仕事を続けられています。

――スペイン語の翻訳と英語の翻訳を両方なさっていますが、違いはありますか?

『NIRVANA THE LEGACY』(シンコーミュージック) スペイン語の小説は英米の小説と構造そのものがちょっと違っている気がします。たとえば、導入部分がゆっくりしていて、周辺の説明や登場人物の描写などを丁寧に重ねながら、少しずつ話が進んでいくことが多い。そして最後になって一気に畳みかけるようにエンディングを迎えるとか。英米のミステリーやエンターテインメント小説を読み慣れている人には、新鮮に思えるのではないでしょうか。展開の仕方も英米の小説とはちょっと違って、「ここで、こうなるの!?」「なんでいきなりこれ!?」なんてことがちょくちょくあって(笑)。そんな意外性もまた面白いと思います。スペイン語圏のエンタメなんて読んだことがないという方には、ぜひ一度手に取ってみていただきたいです。


子どもの頃から本と語学が好きだった宮﨑さん。会社員から翻訳者へうまく転身を図ることができ、ご自身の専門だったスペイン語の翻訳の仕事も徐々に増えていきました。後編では、これまで訳した作品のエピソードや、翻訳を学習中の方に向けてのメッセージをいただきました。どうぞ、お楽しみに!

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<みやざきまき>

東京外国語大学外国語学部スペイン語学科卒。大学卒業後は外資系メーカーに勤めるが、翻訳家を志し翻訳学校で学ぶ。現在、スペイン語圏・英米文学翻訳者として数多くの訳書を持つ。主な訳書に『ヴェサリウスの秘密』(集英社)、『最果てのイレーナ』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、『偽りの書簡』(東京創元社)、『トレモア海岸最後の夜』『ブエノスアイレスに消えた』(早川書房)、『黒い司法』(亜紀書房)などがある。


<主な翻訳作品>


『ヴェサリウスの秘密』(集英社)


『黒い司法 黒人死刑大国アメリカの冤罪と闘う』(亜紀書房)


『トレモア海岸最後の夜』(早川書房)


『偽りの書簡』(東京創元社)


『ブラックボックス』(ハーパーコリンズ・ジャパン)


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