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トラマガ

Vol.394 <前編>サウザンブックス

翻訳書の読み手と作り手をクラウドファンディングでつなぐ
新しいスタイルの出版社

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(2017年10月5日更新)
世界では年間およそ100万点もの本が出版されています。しかし、そのなかで日本語に翻訳されるものはたった5000点前後。世界には、まだ私たちが知らない価値ある本があふれているのに……。そこで立ち上がったのがサウザンブックスです。サウザンブックスは、クラウドファンディングで制作費の一部をまかなうことで、これまでの出版の仕組みだけでは刊行がかなわなかったような本の翻訳出版を可能にしています。目安は初版部数1000部。ニッチでマニアックな本こそ大歓迎。読者の支援を受けて翻訳出版を実現させます。そんなサウザンブックスの代表、古賀さんにお話を伺いました。

先行予約で読者を集める、新しいスタイルの出版

――まず、サウザンブックスのサービスについて教えていただけますか。

サウザンブックスはクラウドファンディングを活用して、これまでの仕組みだけでは翻訳出版が難しい本を出版しようというサービスです。候補の原書が決まり権利が取れたら、クラウドファンディングに「翻訳出版プロジェクト」を立ち上げ、翻訳出版に賛同して資金を支援してくださる方を募ります。資金が目的額に達してプロジェクトが成功すると、その資金を活用して本づくりを始めます。
2016年7月にサウザンブックスのサービスを開始しましたが、これまでに6つのプロジェクトが成立し、既に5冊の本が出版(2017年10月時点)されています。

――クラウドファンディングを活用するとは、新しいスタイルの翻訳出版ですね。

そうですね、クラウドファンディングを活用しているということで注目していただくことが多く、それはありがたいことだと思っています。ただ、実はそれほど変わったことをしていると私たちは思っていないんです。というのも、クラウドファンディングの部分を除けば、これまでの翻訳出版の流れとほとんど変わりませんから。クラウドファンディングを活用して先行予約を取っているだけ。昔は何十巻もある百科事典などは先行予約を取ってから刷り部数を決定していたようです。それが現在はクラウドファンディングという便利なシステムがあるので、それを使って読みたい人を先に集めているというわけです。

――これまでの翻訳出版の流れと変わらないというと。

原書は版権エージェンシーからの情報や翻訳者からの推薦などで候補にあがったものを検討して選び、リーダーにリーディングを依頼し、シノプシスを書いてもらうこともあります。それを元に編集会議を開いて、わが社として翻訳出版したい作品を決めます。作品が決まったら権利を取る手続きをします。ここまでは通常の翻訳出版の流れとまったく同じです。
権利が取得できたら、これまでの翻訳出版ではすぐに翻訳者に翻訳を依頼することになりますが、サウザンブックスの場合は、まずクラウドファンディングにプロジェクトを立ち上げる。ここだけが通常の翻訳出版の流れと違うところです。
資金が集まったところで翻訳者に翻訳を依頼し……と、ここから先もまた通常の翻訳出版の流れと同じです。

――では、通常の翻訳出版と異なるクラウドファンディングの部分についてですが、このようなかたちで先行予約を取ることのメリットは何でしょう?

ある程度、資金が集まってからのスタートになりますので、大赤字は避けられます。もちろんプロジェクトを立ち上げる前に権利を取る必要があるので、もしプロジェクトが成立しなければ、権利費や事前の営業コストは会社の赤字になるわけですが、リスクのない事業などありませんからね。もう一点、事前にマーケティングができるという点で無駄な動きも減らせますし、よりいい本も制作できるので、正直、コスト面よりもこちらの方がメリットを感じています。
先に読者の反応を見られることは最大のメリットです。読みたいと言ってくれる方が一定数いて、まずはその方々に届けるために制作することになりますから。もちろん、その後は普通にネットや実店舗の書店で販売もします。

――まったく新しいシステムということで、苦労したことはありますか?

正直いって、苦労の連続でした。原書の権利者に交渉して権利を取得しなければなりませんが、一般的な翻訳出版と違い「クラウドファンディングで資金が集まったら出版します」と説明しても、過去に似たような事例がないのですぐには理解してもらえません。説明するのに苦労しました。返事がないことも少なくありません。契約書のひな形もないので、出版エージェンシーと協力して新たに作らなければなりませんでした。
1年かけて、ようやく関係する方々にひととおりの説明が終わり、サウザンブックスのしくみを徐々に理解していただいているところです。

読者の声と本の作り手の声が響き合うプラットホームに

――本づくりの流れとしては通常の翻訳出版とあまり変わらないということですが、サウザンブックス独自の考え方ややり方というものもありますか?


『Guruji』は2017年12月に刊行予定

そうですね、パブリッシングを広い意味で捉えている、というところでしょうか。形態は必ずしも本じゃなくてもいいと思っているんです。例えば、先日ヨガの本のクラウドファンディングが成功しました。アシュタンガヨガの創始者パッタビ・ジョイスの教えを今に伝える1冊です。この本の企画があがったときの私の率直な感想は「アシュタンガ? 何のこと?」です。ヨガは知っているけれど、アシュタンガヨガとなるとよくわからない。そこで始まるのが“アシュタンガヨガの世界を日本にパブリッシングする”というプロジェクトです。この本の翻訳出版はもちろんですが、それ以外にもヨガのワークショップを開催したり、有名なヨガ講師を迎えてのトークイベントを企画したりして、「本だけでなくさまざまな方法でこの機会にアシュタンガヨガについて学ぼう!」というプロジェクトにするのです。本に加えて、体験型・参加型のイベントも同時に読者に提供する、それがサウザンブックスの考えるパブリッシングです。

――体験型・参加型となると、読者と本を作る側の交流、読者同士の交流も生まれますね。

その通りです。クラウドファンディングが成立し、最終的に本が出来上がったときには出版記念パーティを開いています。クラウドファンディングでは、支援金額によっていくつかのコースを用意しているのですが、そのなかに出版記念パーティへの参加が付いたコースがあるんです。その本の翻訳者や企画者、同じ本に興味を持った読者が集まるわけですから大いに盛り上がりますし、本に関するさまざまな声を聞くこともできます。

――読者にとても近いところにある出版社という感じがします。

そうありたいと思っています。実際、弊社のサイトに問い合わせフォームを用意していますし、出版記念イベントで翻訳者や読者など多くの人と直接お話する機会もありますので、この1年でさまざまなご意見をいただきました。
翻訳者の方から、「訳したい原書があるのですが」とご提案いただくことも少なくありません。読者の方からは、「このシリーズが好きだが第3巻で出版が止まっている。第4巻以降を出してほしい」というようなご要望や「この作品をあの翻訳者の訳で読みたい」といった翻訳者ご指名のご提案もあります。もちろん、全部検討しています。

――いろいろな立場の方から具体的なご提案が集まるのですね。

はい、ありがたいことです。私どもは翻訳者の方々にもサウザンブックスをフル活用していただきたいと思っています。サウザンブックスは出版社ですが、翻訳者や編集者、デザイナーなどの作り手の皆さんにとってはプラットホームでありたいと思っています。ご自身がやりたいと思う仕事を企画として持ち込んでいただける場所として使っていただきたいと。
とくに新人翻訳者からのご提案は大歓迎です。翻訳者が自分の訳書を1冊出すのはすごく難しい。でも1冊出せれば、次の仕事は得やすくなるでしょう。そのような実績づくりに使っていただければ、それもまたうれしいです。

――サウザンブックスという出版社名ですが、いくつか理由があるそうですね。

弊社の名前に付いている「サウザン」の意味ですが、1000人読者がいたら本を作れるだろう、という思いがあります。普通の出版社では、初版部数1000冊では企画は通りません。初版部数5000冊や、少なくとも3000冊くらいは見込めないとビジネスにならないというのが一般的な考え方だからです。でも、クラウドファンディングで確実に資金が集まるのなら、1000冊でも作ることができるんです。これがサウザンの名前の由来のひとつです。
それからもうひとつ、「八百万の」「幾多雑多の」の意味のほうのサウザンです。世界中の「八百万の」「幾多雑多の」コンテンツを読者に届けたい。これまでの出版の仕組みだけでは埋もれてしまっていた作品を読みたいと望む人に届けたい、という思いも込められています。


クラウドファンディングを利用した新しい出版のかたち。確かにそのシステムには斬新なところがありますが、未知のことを知りたいと思う人に届ける、本を読みたいと強く思ってくれる人に向けて作るというところは、出版の原点だなと感じました。後編では、実際にどのような本が生みだされているのか、ご紹介します。お楽しみに。

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<株式会社サウザンブックス社>

モットーは「言葉や文化の壁を越え、心に響く1冊との出会い」。専門的な本や新刊中心のマーケットの中で埋もれてしまった古い本など、これまでの仕組みだけでは翻訳出版が難しかった本に目を向け、クラウドファンディングのシステムを活用して購読希望者を事前に募った後に、実績ある制作チームの元で翻訳出版していく。2016年7月にサービスをスタートし、これまでに5冊の本を出版している。

古賀一孝さん:同社代表取締役社長


<関連リンク>

サウザンブックス


<同社発行の書籍>


『魔法にかけられたエラ』


『エリザベスと奇跡の犬ライリー』


『かぞくがのみすぎたら』


『ゴーストドラム』


『外国の本っておもしろい!〜子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック〜』

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