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トラマガ

Vol.395 <後編>サウザンブックス

翻訳書の読み手と作り手をクラウドファンディングでつなぐ
新しいスタイルの出版社

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(2017年10月16日更新)
世界中に埋もれている価値ある本を初版部数1000冊から出版しよう。そんなコンセプトで生まれた出版社、サウザンブックス。クラウドファンディングという新しい手法を使い、次々と翻訳出版プロジェクトを成功させてきました。このシステムの成功の秘訣はどこにあるのでしょう。また、実際にどのような本が翻訳出版されたのか、ニッチでマニアックな本を得意とするという同社の出版物をご紹介します。これから新しいプロジェクトも続々と始まる予定。2年目を迎えたサウザンブックスの次なる目標も伺いました。

サウザンブックスが手がけるべきは、ニッチでマニアックな本!

――クラウドファンディングの成功率はどれくらいですか?

お陰様で、クラウドファンディングはこれまでのところすべて成功しています。ありがたいことに、クラウドファンディングのプロジェクトでは、支援者が活動家になるタイミングが出てくるんです。支援者の方は、この本を読みたいからプロジェクトが成立してほしいと思い見守ってくれています。でも、どのプロジェクトでも大抵、中盤でなかだるみというか支援額が伸び悩む時期があるんです。そんなとき、支援者が自身のFacebookやTwitterで広めてくれるようになるんです。  
スペインのゲイ小説『ぼくを燃やす炎』がそうでした。最初は順調にスタートしたのですが、途中で支援額がほとんど伸びなくなった時期がありました。その頃から支援者の方の自主的な営業活動が始まり、最後ラストスパートがかかり、残り10日ほどで無事成立したんです。独自の一体感が生まれて毎回感動します。

――なるほど、読み手の強い思いが感じられますね。では、これまでに出版された本にはどのようなものがあるか、ご紹介いただけますか?

『かぞくがのみすぎたら』はアルコール依存症をテーマにした絵本です。実際に家族がアルコール依存症で、思い悩んでいる子どもたちに読んでもらいたいと、米国認定臨床心理士の方が推薦してくださいました。
『エリザベスと奇跡の犬ライリー』は翻訳者からご推薦いただいた本です。母子感染症により障害を持って生まれた少女。16歳で夭折した少女のあとを追うように愛犬も逝ってしまったという実話を元にした物語です。母子感染症は知識があれば予防できる可能性がぐんと高くなります。物語として楽しんでいただきたいのと同時に、母子感染症の副読本としても活用していただきたい1冊です。

――クラウドファンディングを活用していない本もありますか?

1冊あります。『ゴーストドラム』はクラウドファンディングではなく、普通に翻訳出版した本です。これは実は復刊本なんです。原書は3部作で、海外ではベストセラーなのですが、日本では第1部しか出版されませんでした。それも絶版になってしまっていたのですが、翻訳家の金原瑞人さんが是非とも全3部を翻訳出版したいということで企画を持ち込んでくださったんです。
だったら、第2部、第3部はクラウドファンディングにするとして、第1部は多くの人に知ってもらうためにも、すぐに翻訳して出版しましょうということになって。紙版は通常価格ですが、電子版は540円という特別価格で提供しています。多くの人に読んでもらって、「続きが読みたい!」と思ってもらえればうれしいなと思っています。

――翻訳書ではない本もありますね。

はい。『外国の本っておもしろい!』ですが、これは子どものための翻訳書ガイドです。2010年から翻訳家などが中心になって開催されている「読書探偵作文コンクール」というものがあります。子どもの頃から翻訳書に親しんでほしいという趣旨で始められたコンクールで、それをまとめて本にしたらおもしろいのではないかというご提案をいただきました。ファンタジー・冒険、外国のくらし、科学、ミステリーなどのジャンルごとに、そのコンクールの受賞作品に加え、コンクールを運営する翻訳家らによる「いま子どもに読んでほしい翻訳書案内」も付いていて、大人も楽しめる翻訳書ガイドになっています。

――現在、クラウドファンディングが進行中の本はありますか?

現在進行中のプロジェクトは、『Designing for Service』というビジネス書です。近年、注目されている「サービスデザイン」について最先端の研究を行っているワーキンググループの論文を編纂したものです。サービスデザインとは、企業組織のイノベーション文化を開発する、公共領域では市民の参加を促進するといった目的で活用するデザイン実践活動です。欧州においては注目されている領域のひとつですが、日本ではまだあまり馴染みがありません。この活動についてもっと知りたい人が日本にもいるはずだと、日本のデザイン会社のサービスデザイナーの方からご提案いただきました。

――今後、予定している本はありますか?

現在準備中のプロジェクトがいくつかあります。『Smaller and Smaller Circles』という作品は、フィリピン初の本格犯罪ミステリーです。フィリピンの出版文化はまだ成熟しているとはいえず、つい最近まで輸入文化がメインだったようです。そんななかで、この作品はフィリピン人作家が発表して初めてベストセラーになった短編作品だそうです。その後、長編として加筆されたものがアメリカで出版され世界中に広まりました。フィリピン・ノアールの傑作といわれています。  
それから、『i see the rhythm』はJAZZやHIP HOPなどブラックミュージックとアメリカにおける黒人の歴史をひもとく1冊です。このプロジェクトでは、実際にライブハウスで音楽イベントを行い、支援者の皆さんに参加していただくことも考えています。

――本当に、さまざまなテーマを持つ本が揃っているのですね。

ニッチであればあるほど、マニアックであればあるほど、サウザンブックス向きだなと思っています。万人に受け入れてもらえそうな本、ベストセラーになりそうな本は、大手の出版社が出せばいい。サウザンブックスでは、大手出版社が選ばない本をあえて選んでいます。ですから、企画段階の本も含めてテーマは実に多種多様です。生涯をかけて1000のテーマをやるのが私の目標です。

翻訳者にも本にまつわるあらゆることに興味を持ってほしい

――本の買い方としても、サウザンブックスは新しいスタイルを確立したといえると思いますが、今後の出版市場はどのようになっていくと思いますか?

本は電子版と紙版とどちらがいいか、本を書店で買うかネットで買うか、など比べられることがあるかと思いますが、私はその議論は出版社としてはあまり意味がないものだと思っています。本の形態も、買い方も、それは読者が好きなように選べばいいんです。紙の本を買う人が減って書店の数が少なくなったとしても、時代の流れとして仕方のないことじゃないのかなと。それよりも大事なのは、本を読む人が増えること。どんなスタイルでもいいので、本を楽しむ人がもっと増えてくくればいいと、そう思っています。

――翻訳出版を始めて1年あまりが経ちましたが、今後やってみたいことはありますか?


『ぼくを燃やす炎』は
2018年2月に刊行予定

いくつかあります。現在、制作中の『ぼくを燃やす炎』(2018年2月刊行予定)はスペインの少年どうしの恋と性を描いたゲイ小説で、原語はスペイン語なのですが、今後は英語以外の本をもっとやりたいですね。  
それから、外国の映画に日本語字幕を付けるプロジェクトのご提案をいただいたこともあります。翻訳というキーワードにさえ合っていれば、アウトプットは本に限らず、イベントでも、映画でも、アニメでも、何でもいいと思っています。
日本の本を外国語に翻訳して出版するプロジェクトもやりたいと思っています。まだ2年目ですので、これから少しずつ広げていければと思っています。


――最後に、翻訳者へのメッセージをお願いします。

私自身、出版取次にて流通や、出版社や編集プロダクションにて編集やマーケティングなど、この業界でさまざまな仕事に携わってきましたが、翻訳出版に関しては専門にしてきたわけではありませんので、翻訳者の方にメッセージというとおこがましいのですが、ひとつだけ。出版業界では、それぞれ専門職の分業が成り立っていて、隣の人の仕事を意外と知らないな、と思うんです。編集者は編集のことだけ、書店員は書店のことだけ、しか知らない。翻訳者の方でも、編集の仕事をよく知らない、本の流通の仕組みをよく知らない、利益構造について考えたことがない、という人が多いのではないでしょうか。  
現在、翻訳の勉強をしている方には、翻訳そのものだけではなく、業界全体の勉強をして視野を広げていただけるといいのではないかと思っています。リーディングをして、完璧なシノプシスを作って、出版社数社に持って行ったけどダメだった、という翻訳者がいたとします。「いい本なのに、どうしてわかってくれないの!」では、いつまでたっても翻訳出版は実現しません。「何がダメだったんだろう」と考えられる人には未来があると思うのです。  
ダメだった理由が、持ち込んだ出版社が大手で「初版部数が1万部でないと出せない」のであれば、「3000部でも出してくれる出版社」を探せばいい。「こんなに分厚い本は値段が高くなってしまって買ってもらえない」が理由なら、「上下巻で分けて出してみましょうか」と検討してくれる出版社ならいけるかもしれない。業界のことを知れば、次の一手が思いつくはずです。
そんなふうに考えられる翻訳者とサウザンブックスは相性がいいのではないか、と思っています。何とか世に出したい本がある人は、ぜひご提案ください。障壁があったとしても、それをクリアできないかどうか、一緒に考えていきましょう。



編集後記

その本を読みたいという人が1000人集まれば翻訳出版が実現する。本当に画期的な出版システムですね。これまで出版された本のラインナップも多彩ですが、今後もさらに幅広い本が翻訳出版されることを期待しています。私も読みたい本やテーマが見つかったらお願いしてみたいと思います。皆さんも、いかがですか?

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<株式会社サウザンブックス社>

モットーは「言葉や文化の壁を越え、心に響く1冊との出会い」。専門的な本や新刊中心のマーケットの中で埋もれてしまった古い本など、これまでの仕組みだけでは翻訳出版が難しかった本に目を向け、クラウドファンディングのシステムを活用して購読希望者を事前に募った後に、実績ある制作チームの元で翻訳出版していく。2016年7月にサービスをスタートし、これまでに5冊の本を出版している。

古賀一孝さん:同社代表取締役社長


<関連リンク>

サウザンブックス


<同社発行の書籍>


『魔法にかけられたエラ』


『エリザベスと奇跡の犬ライリー』


『かぞくがのみすぎたら』


『ゴーストドラム』


『外国の本っておもしろい!〜子どもの作文から生まれた翻訳書ガイドブック〜』

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