トラマガ
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 【前編】 【後編】
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(2007年4月25日更新)
ミステリー翻訳の第一人者であり、当校ゼミクラスの講師も務める 文芸翻訳家 田口俊樹氏にお話をうかがいました。
田口 俊樹 >(たぐち・としき)
月〜金が仕事で、土曜はパチンコ、日曜日が競馬。今までは金曜がパチンコで土日が競馬だったけど、お金が続かないし、ちょっと遊び過ぎかなと反省して、週休2日にした。仕事してるかパチンコか競馬やってるかで、もう見栄は張りません(笑)。

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――英語力は熟読から
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 高校の英語教師をしていた頃、英語力を高めるために翻訳を始めました。高校の同級生が『ミステリマガジン』の編集者をしていて、それがきっかけで仕事がもらえたわけなんだけど、短編の原文のコピーが毎月送られてくるんです。それが楽しみで、何度も郵便受けをのぞきに行ったりしていました。
 勉強法としては、ただひたすら訳すだけ。一番英語力がついたと思うのは、やっぱり熟読です。ひたすら読んで、わからなければ調べる。ネイティブに聞いたり、英語のできる人に聞いたり、その繰り返しです。僕の場合は翻訳の仕事が勉強でしたね。運がよかったと思っています。
 こういう経緯だから、翻訳の師匠はいません。受講生にはいつも言っていて、耳にタコができていると思うけど、「お前らは本当にいい先生に恵まれたなあ」って(笑)。僕なんか先生いなかったんだから。ひとりだったんだよって。

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――僕ならもっとできる!?
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 日本語表現については見よう見まねというか、本が好きで、小説が好きで、小説家になろうと思ったこともある人間ですから、「こういうのがいい小説だ」というフォーマットみたいなものが自分の中にあったんじゃないかな。それで、できるだけそれに近いものにしようと。20代の頃は吉行淳之介が大好きで、毎日のように読んでいた時期がありましたね。そのときに文章の練習みたいなことをしたのかな、とは思いますけど、翻訳のための勉強というのは特にしなかったです。
 翻訳を手がけ始めたころは純文学志向のところがあったので、ミステリーを低く見ていたところがありました。でもやる以上、読んでおいたほうがいいという定番を何冊か編集者が送ってくれたので、それを手がかりに読み始めたものがけっこうあります。当時はディック・フランシスも知らなくて、読んでみたら面白かったですね。でも正直に言うと、「僕ならもっと上手くできる」と思いました。実際に訳してみるとそれほどできないんだけど、若かったし、うぬぼれていたところはありましたね。

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――デビュー作は1年越し
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 僕が翻訳を始めた頃は、『ミステリマガジン』の短編で小手調べをして、使えそうだったら長編を任せる、という流れだったんですよ。短編を手がけて1年くらいたってからですかね、長編の声がかかったのは。いわゆるポケミスでした。枚数で言うと400枚ちょっとの短い本なのに、1年以上かかったの。不思議なくらい筆が進まなくて。短編は嬉しくて、どちらかというと早く訳せていたんだけど、あれはなんだったのか今でもよくわからない。長編と短編の訳し方の違いみたいなものがあったのかな、という気もするけど。それだけ時間がかかったので、さすがに編集者から「ちょっと苦言を呈するようだけど」という電話がかかってきましたね。そのときはわーっとやるんだけど、またダレて(笑)。あの頃は出版計画もけっこういい加減だったから。のんびりしたいい時代だったよね(笑)。

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――翻訳者のやりくり?
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 トータルで11年、教師をやりながら二足のわらじで翻訳の仕事をしました。その頃は訳書を年に2冊くらい出していて、11年で20冊ちょっとになったと思います。 今はかなりハイペースで、平均すると年に6〜7冊は出しているんじゃないかな。もっとかもしれない。もちろん下訳あってのことだけどね。きつい事を言うようだけど、年に4冊だと家族を抱えて生活していくのは難しいと思う。僕だって、ここまで翻訳ミステリーが売れなくなるとは思わなかったもの。昔はミステリーをやらないと喰えなかったけど、今はミステリーをやっていると喰えない時代になっちゃって。 僕が教師を辞めて翻訳で一本立ちした頃は、文庫の初刷が3万部くらいだったんですよ。だいたいそれが目安で、新潮と文春は別格で、最低でも5万部は刷っていた。
いい時代でしょ。今はその半分が平均と思っていいね。単純に収入も半分ということです。印税だから訳書が大ヒットすれば儲かるけど、それは宝くじに当たるより難しいからあまり期待できるものではないよね。

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――詐欺なら辞めます
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▼田口俊樹氏翻訳作品

 伸びる受講生と伸びない受講生の違いは、実はわからない(笑)。コイツよさそうだな、と思っても伸び悩んだり、センスがいいな、と思ってもそのままだったり、なんとも言えないよ。ただ結論として、やっぱり「本当に翻訳が好きなんだな」っていう人は伸びるね。最終的に何らかの形になっていく。
 教え子のSさんは、僕のところにきた段階で、ある程度力があったんですよ。ハーレクインを何冊か訳したくらいの力はあったの。ただ訳してもらうと、型にはまった、いかにも文学です、というクサい文体だったわけ(笑)。本人もそれを自覚していて、何とか打破したいと思っていたようなのね。当時は僕が過去に訳した50〜60枚の短編を2週間くらいを目安に渡して、訳してきた受講生にだけ訳例を渡していたのね。それを2年近くやって、Sさんは2週間ごとに毎回出してきたからね。彼女も学校の先生をしながらだったから、時間が目一杯あったわけでもないだろうし、根性あるよね。それでみるみるうまくなったの。
 僕もね、教員を辞めて翻訳で一本立ちするときにフェローから講師の依頼を受けて、やっぱり生活が不安ですから、渡りに舟とばかりにパクっとつかんだのね。それでもし翻訳を教えるのがつまらなくなったり、詐欺みたいだと感じたら、辞めようと思っていて。やっぱり詐欺に加担するのは嫌でしょ(笑)。そんなとき受講生の中にSさんがいたのは大きかったよね。「実際にうまくなる人っているんだ」と思ったわけ。でもなかなかね、彼女ほど熱心なヤツはいないねえ。要領のいいのはいるけどね(笑)。

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――田口特別ゼミの集大成
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 最新訳書の『身元不明者89号』(東京創元社)は、フェローの「ゼミのクラス」で初めてみんなで一冊訳した記念すべき作品です。今までは長編をやっても、途中で受講生の顔を見ると飽きているんだよね。「じゃあ変える?」と言うと、「変えましょう」って言うからさ。これは「絶対最後までやるからな」と言ってやったの。達成感あるでしょって(笑)。
 土曜日のクラスには下訳をお願いしています。月1回のクラスで、だいたい原稿用紙30枚くらいが1回分なので、1年やっても360枚くらい。だから2年かかりました。
 この作品を選んだのは、エルモア・レナードという作家が、視点の切り換えがすごく上手いからなんです。三人称を訳すというのは、実はすごく難しいことで、日本語でもそうだけど、一人称は視点が決まっている。どこから物を見てしゃべっているかというのが、読者にもわかりやすいし、書いている人間も書きやすい。ところが三人称の視点になると、どこから物を見て書いているかがわからないと、表現できない。英語の三人称というのは日本語の三人称と違って、わりと神の視座なんですよね。俯瞰的に見ていることが多い。ところが日本語の三人称の小説は、三人称であっても、視点を誰かに据えて描くことが多くて、われわれ日本人はそういう三人称小説に慣れているから、神の視座に立った西洋の小説を読むと、視点がばらばらになっているような気がすることがある。そういった視点の問題を勉強するのにこの作家はすごくいいな、と思って。神の視点なんですよ。ただね、この人の場合は登場人物の中にもずるずると入ったり、また出て行ったり、そういう加減がすごく上手くて、いい勉強になります。

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――翻訳パドック
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 フェローで開講する短期集中スペシャルプログラムの講座名「翻訳パドック」は、競馬をやらない人は「あれ?」と思うかもしれないけど、レースに出る前の人、文芸翻訳を実践的に学習する前の人、みたいな意味合いです。
 僕としても、今の翻訳業界の中に自分がいて、大変居心地のいい社会ではあるんだけど、なんとなく緩やかな、和やかな、ある意味で翻訳者自身が均質化してきたような気もしているんでね。もっといろいろなヤツが入ってきてもいいのかなと。
 今は翻訳学校で学んで翻訳者になる人が圧倒的に多いけど、もしかしたらその前段階で門前払いされたり、第一印象が悪くて翻訳に魅力を感じずにやめてしまう人がいるのかなと。そういう人たちに、翻訳はおもしろいよ、ということを伝えたい。ただし、好きかどうかは本人の問題。ああでもないこうでもないと考えたり、文章を書いたら楽しくなっちゃうとか、本読んだら楽しいという人に、翻訳は向いているんだろうな、と思うんですよね。
 講義は、最初の30分位テーマに沿った話をして、そのあとは訳してきた課題を発表してもらい、講評していきます。1回毎の課題量はあまり多くしないで、一人ひとり丁寧に指導するつもりです。講座がひととおり終わったら、最後に個別のカウンセリング。疑問とかいろいろあるだろうと思いましてね。人材を発掘するというか、門戸を広げる意味合いをちょっと込めて、そういうのができればいいなと思っています。

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