宮崎晴美さん

出版

津田塾大学英文学科卒。弁護士秘書を経てイギリスへ1年間留学し、帰国後は外資系企業の役員秘書に。フェロー・アカデミーの通信講座に学び、2012年に『バビロンの魔女』(河出書房新社)でデビュー。

受講生インタビュー

リーダーから翻訳者へ。プロになる誇りと責任を胸に翻訳に取り組みました

原書を訳せるのかどうか試しに自力で8冊翻訳
海外ミステリを読むのが好きで、異国の風土や文化を背景に描かれる深く洞察された人間の心理を追っていると、たちまち現実の世界を忘れてしまいます。私にとって読書とは、日常から解放してくれる心の清涼剤であり、精神的な支え。いつしか自分と同じような気持ちで本を手にしている人がたくさんいるのではないかと思うようになり、支えられる側から支える側になりたいと、翻訳に挑戦してみることにしました。

果たして300~400ページもの原書を訳せるのか、ひとつの物語として完成させることができるのか。それを確かめるために、手頃なミステリを1冊自力で訳してみました。その後も次々に新たな原書に手をつけ、気がつけば8冊を翻訳。安定した質とスピードを追い求めた結果ですが、それでもなお独学だけでは限界があると感じ、通信講座を受講しました。技法やルールを体系的に学ぶことができ、足りなかった部分を補うことができたと思っています。

錬金術や神話に関するリサーチに苦戦
デビューのきっかけは、翻訳者ネットワーク「アメリア」で見つけたリーダー募集の求人情報です。それまでに「アメリア」で受けたトライアルで優秀者の認定を受けていたこと、通信講座できちんと技術を磨いていたこと、何より自力で8冊翻訳した熱意を評価していただき、リーダーとして採用していただきました。

リーディングを依頼された『バビロンの魔女』は、メソポタミア文明と旧約聖書とを組み合わせたユニークなミステリです。登場人物が多く謎解きも複雑だったため、わかりやすさを第一に考えてレジュメを作成。また、歴史、宗教、美術、ジャーナリズム、ファンタジー、サスペンスなど、多様な要素が絡み合う物語なので、その魅力をあますところなく伝えることも心がけました。

結果的に翻訳もさせていただけることになり、大変うれしく思いました。同時にプロデビューするという誇りと責任感が芽生え、極限まで自分を追い込みながら翻訳作業を進めました。特に大変だったのはリサーチです。史実に基づく物語であるため、いくつもの資料にあたっては情報の裏を取りました。錬金術や神話については虚実入り交じっているため、見つけた資料の真偽を見極めるだけでも一苦労。ですが、丹念に調べ上げたことで物語の説得力や厚みが増し、読者の方の知的好奇心をくすぐる作品に仕上げられたのではないかと思っています。

原稿ができあがった直後は、まさに抜け殻のような状態でした。それでも、美しく製本された訳書と対面したときには、疲れが一気に喜びへ。そのとき初めて、デビューする喜びを実感することができました。
なにげなく見える日常であっても、人の胸の奥にはあらゆる感情や心理が潜んでいます。それらを解き放ち、共鳴し、寄り添ってくれるのが本ではないかと考えています。以前の私はミステリにその役割を求めていましたが、これからはほかのジャンルにも目を向け、多くの方の心の友となるような1冊をご紹介できるよう、翻訳力をいっそう養っていきたいと思っています。

「好き」という気持ちがあればこそ
好きなだけで翻訳家になれるものではありませんが、遠く険しい道のりだからこそ、なによりもまず「好き」という強い気持ちが必要です。小説がそうであるように、本は基本的に「楽しむためのもの」なので、好きでなければ「楽しさ」を提供することはできないと思います。勉強法については、まずは自分の好きな訳文を探し、その訳文を繰り返し読んで、まねてみるといいと思います。私もそこから出発したので、学習の一助になれば幸いです。

『最新版 あなたも出版翻訳家になれる』(イカロス出版発行)より転載
(Text 金田修宏)