佐藤由樹子さん
会社勤務を経て、2005年フェロー・アカデミー入学。ベーシック3コース、出版翻訳コース「フィクション」、「真崎ゼミ」修了。訳書に『一年でいちばん暗い夕暮れに』(共訳)、『マルチーズ犬マフとその友人マリリン・モンローの生活と意見』がある。
高校時代からエンタテインメントのペーバーバックを読み始め、翻訳家という仕事に「なんとなく憧れていた」と話す佐藤由樹子さん。結婚を機に会社員生活にピリオドを打った際、漠然とした気持ちは「プロになる」へと変わり、明確な目的意識を持ってフェロー・アカデミーの門を叩いた。
「初めての翻訳学習だったので、様々な分野を一通り勉強してみようと、ベーシック3コースから始めました」
同コースで各分野の翻訳に触れ、進むべきは出版翻訳だと再確認。好きなエンタメ小説の翻訳を学ぼうと、真崎義博先生のクラスで勉強を始めた。授業は、毎回2人の受講生がそれぞれ“検事役”と“被告役”に指名されるというユニークな進め方。被告役の受講生は他の受講生より早めに訳文を提出し、検事役はその訳文を自宅で添削。授業では検事役が訳文の気になる箇所を指摘し、それに対して被告役が反論する。もちろん、議論には他の受講生も参加し、“被告役”の提出した訳文は講師の添削後に返却される。
「自分で訳した上で他の人の訳文をじっくり吟味すると、考え方の幅が広がるんです。いい勉強になりました」
真崎先生は「『僕に敬語は使うな』とおっしゃるほどフランク」だが、「日本語にはすごく厳しい」。読点の打ち方ひとつでリズムや意味が変わるといった基本から、小説としての日本語を徹底的に叩き込まれた。受講1年後には、初期の自分の訳文を読み返して「文章の流れやリズムが悪い」と自己批判できるほど、日本語のセンスが向上。講師経由で下訳も経験し、それがきっかで2010年に『一年でいちばん暗い夕暮れに』(共訳)でデビューした。
「下訳をしたときの担当編集者さんから直接ご連絡をいただいたんです。嬉しかったですね」
子育ての関係で現在は通学していないが、在籍した5年弱を「先生への信頼は少しも揺るがなかった」と振り返る。昨年6月には単独訳『マルチーズ犬マフとその友人マリリン・モンローの生活と意見』を上梓し、プロ生活も上々の滑り出し。それでも「まだ先生のもとで学びたいことがあるし、好きなエンタメ作品も翻訳してみたい」と、ますます意欲盛んな佐藤さんだ。
『通訳翻訳ジャーナル SPRING 2012』(イカロス出版発行)より転載
(Text 金田修宏 Photo 小久保陽一)