シネマ掘り出し市

受講生・修了生が翻訳を手がけた映像作品をクローズアップ。
翻訳裏話もたっぷりお届けします。
あなたは読んでから観る?それとも観てから読む?

シネマ掘り出し市

今回の作品
『CSI:サイバー2』

字幕翻訳:久保田愛さん

16年にわたり放映され、数々のスピンオフ作品が飛び出した米国の人気ドラマシリーズ。『CSI:科学捜査班』『CSI:マイアミ』『CSI:ニューヨーク』に続く最新のシリーズを字幕翻訳された久保田愛さんにお話を聞きました。

  • 『CSI:サイバー2』
  • 【作品紹介】

    アメリカで2000年の放送開始以来、絶大なる人気を誇ったテレビドラマ『CSI:科学捜査班』シリーズ。最新の科学技術を駆使して凶悪犯罪に挑む捜査員を描いてきたドラマの最後のシリーズとなる『CSI:サイバー』は、FBI本部にあるサイバー犯罪課が舞台だ。インターネット上で暗躍するハッカー達の攻撃を食い止めるために、ITの最新技術はもちろんのこと、心理学などを駆使した科学捜査が展開される。

    ■製作総指揮:ジェリー・ブラッカイマー
    ■出演:パトリシア・アークエット、テッド・ダンソンほか
    販売元:株式会社KADOKAWA
    (R)and TM CBS Broadcasting Inc. (C)2017 CBS Broadcasting Inc. and Content Partners Cyber, LP. All Rights Reserved. CBS Broadcasting Inc. and Content Partners Cyber, LP are the authors of this program for the purposes of copyright and other laws.

サイバー犯罪の実状に詳しくなれて
カッコいい専門用語にひたれる人気クライムドラマ

  • 人気ドラマ『CSI:科学捜査班』シリーズ最後の作品となった『CSI:サイバー』ですが、まずは見どころを教えてください。

    久保田さん

     本作はFBIサイバー犯罪課が、ブラックハッカーによる最先端の犯罪と闘うドラマです。『CSI』シリーズならではの科学捜査をベースにしていますが、さらにサイバー犯罪がテーマというのが特徴です。毎回ハッキングの恐ろしさが懇々と語られ、自然にサイバー犯罪の実状に詳しくなれる点と、これまで聞いたことのないカッコいい専門用語が出てくるので、見ていて賢くなった気がする点が見どころかと思います。
     私のお気に入りのキャラは、課のトップを務める熟練捜査官エイヴリー・ライアンですね。(見た目にも)重厚感のあるパトリシア・アークエット演じるエイヴリーの敏腕ぶりは見ていて痛快です。

  • このドラマのように、シリーズものの翻訳は何人かで分担されていることも多いですよね。分担作業ならではの苦労はありますか?

    久保田さん

     まず、私は『サイバー2』から翻訳をしましたので、『サイバー1』の用語リストを参考にしました。それから、今回は2人で分担したのですが、もう一人の翻訳者さんのエピソードも見て、用語、表記、人称などをメモしておき、自分なりのリストのようなものも作りました。人称は話しかける相手によっても変わるので把握が大変です。ただ、こういったことは一人で担当する場合でも気をつけるべき事柄なので、統一の必要があるものに関しては常に意識してメモしておくようにしています。
     今回私は特典映像も翻訳したのですが、担当でないエピソードについてキャストが熱く語っているシーンがあって、調べるのが少し大変でした。
     逆に分担のメリットは、他の翻訳者さんの上手な原稿に刺激を受けるという点ですね。

  • サイバー犯罪がテーマのドラマということで、特殊な用語が多く使われていましたが、翻訳する上では、どんな難しさがありましたか?

    久保田さん

     事件の謎解きの部分がかなり専門的でIT用語が満載なわけですが、それを日本語でどう言うのか、どんな名詞をどんな動詞とセットで使うのか、的確な表現を探すのが難しかったですね。ただ、監修の方がついてくださったので安心して訳せました。
     それから専門的で小難しい用語や言い回しを、どの程度かみ砕いて訳すかといった部分でも悩みました。たまたま番組を見ているクラスメイトから「専門用語は意味が分からなくても、出てくるとそれっぽい雰囲気にひたれるからそのままでいい」との貴重な意見を頂き、聞きなれない用語でもあえて出すことを心掛けました。
     また、月並みですが、とっても長いIT用語がわんさか出てきて苦労しました。最初は「“ブラックハッカー”って文字数多くてつらいなー」なんて思っていたら…甘かったです。「クラッキングツール」「シングルボード・プロセッサ」「ハイバネーション・ファイル」など、次々と字幕翻訳者泣かせの長い専門用語が登場。悪戦苦闘しましたね。それぞれの用語の意味はというと…だいぶ忘れました(笑)。

  • ほかに、翻訳中のエピソードがあったら教えてください。

    久保田さん

     なんと、翻訳中に実際にハッキング被害に遭ってしまったんです。十数年、交換せずにたまりにたまっていたクレジットカードのポイント(商品券にして約3万円分!)が知らない間にアマゾンギフト券に交換されていたのです。ドラマで描かれる事件とは比較にならないような些細な一件ですが、身につまされる思いでした。(ちなみに盗まれたポイントは、ハッキングが証明されて無事に戻ってきました)

よりよい翻訳を求めて、
行ったり来たりしながら日々格闘しています

  • 翻訳者を目指されたきっかけは何ですか?

    久保田さん

     何といっても映画が好きだからです。これに尽きてしまうのですが、細かい話をすると、学生時代に海外留学して英語を学び、それを生かしていったん国際法律事務所に勤めたところ、自分のやりたいこととは違うと実感。同じ英語を使うにしても、もっとエンタテイメント性のある仕事がしたいと、実務翻訳ではなく映像翻訳の道に進みました。

  • アンゼたかし先生の「アンゼゼミ」を受講し、現在も「アンゼ特別ゼミ」を受講中ですね。最初の受講の動機を教えていただけますか。また、学んだことでお仕事に役立っているのはどんなことですか?

    久保田さん

     映像翻訳の道を目指し、字幕制作会社に勤めていたのですが、フリーの翻訳者になろうと決意して、自分の翻訳を磨こうと思ったのが受講のきっかけです。
     アンゼ先生のゼミは、脚本として書かれている英語のニュアンスをいかに大切にするかを突き詰める授業だと感じます。普段、納期に追われて仕事をしているとつい忘れがちなこの意識を、授業に出るたびに取り戻しています。

  • フリーランスとしての初仕事はどんなきっかけで獲得したのですか?

    久保田さん

     制作会社のホームページ経由でトライアルを受け、数カ月後に初仕事をもらいました。その最初のクライアントさんからは、ずっとメインでお仕事をいただいており、とてもお世話になっています。

  • 1日のうち、どんなスケジュールでお仕事をしていますか?

    久保田さん

     朝起きて、子供を送り出し、軽く掃除機をかけて9~10時ごろ仕事開始。そこから18時までぶっ続けで翻訳。途中、お昼やおやつを食べながらひたすら続けます。
     18~22時は家事育児。いったん寝てしまい、往生際悪く夜中に起きだして、もう一仕事することもあります。ハコ切りなどをしてはみるのですが、寝ぼけて30秒くらいの長すぎるハコをいくつもとっていたりして(笑)。そんなときはあきらめて寝ます。

  • フリーランスの翻訳家としてキャリアを積んでこられましたが、「やりがい」を教えてください。

    久保田さん

     ウィットに富んだ脚本を見ると、それをどう訳そうかワクワクしますし、そのチャレンジに取り組んでいる時はやりがいを感じます。

  • 逆に難しいことも教えてください。

    久保田さん

     難しいのはやはりスケジュール管理でしょうか。素材は遅れることも多いので、できるだけ仕事を途切れさせないために、常に少し多めに引き受けておく必要があり、そこが精神的につらい時もあります。

  • 映像翻訳者として心がけていることは何ですか?

    久保田さん

     コロコロ変わります。以前はニュアンスや日本語表現を重視して、つい盛り込みすぎていましたが、上手な翻訳者さんの原稿を見ると、ちゃんと字数が制限内に収まっているんですよね。それに感化されて、やっぱり字数は大切だと思ったり。
     よりよい翻訳を求めて、行ったり来たりしながら日々格闘しています。

  • 今後手掛けてみたい作品はありますか?

    久保田さん

     何といってもコメディです。私はお笑いも好きですし、日常生活でも笑いに頼って生きています。だからそんな自分をぶつけてみたい! なんて言うと大げさですね。単にコメディが大好きだからです。

  • 現在映像翻訳者を目指して学習中の方にアドバイスをお願いします。

    久保田さん

     英語はもちろんですが、日本語表現のバリエーションをたくさん持っているとよいと思います。特に字幕は文字数の制限があるので、原文をニュアンスまで完璧に理解できても、それを制限字数内で日本語にするとなると、壁にぶつかります。その際にものを言うのは日本語表現のたくわえだと思います。単に文字数制限の都合で情報を削っただけの字幕、強引な体言止めや助詞止めの字幕、ややニュアンスのズレた“まるっとした”字幕――。そんな字幕を作らないためには、いろいろな表現を持っていると便利だし、翻訳のスピードも格段に上がります。
     なかば自分に対して言っているようなものですが、日本語磨きは常に取り組んでいきたいところです。

久保田愛さんプロフィール

久保田愛さん

学生時代に海外留学をして英語を学び、帰国後は国際法律事務所に勤務。もともと映画好きということもあって映像翻訳を目指す。字幕制作会社勤務を経てフリー。2013年からアンゼゼミ、17年からアンゼ特別ゼミを受講。ドラマ「ドクター・フー」シーズン8、10、「シカゴ・メッド」シーズン1、「ウェントワース女子刑務所」シーズン5、「クラス -ねらわれたコールヒル高校-」など字幕翻訳作品多数。

  • 久保田さんの翻訳作品『ドクター・フー』S8、S10

  • ■久保田さんの翻訳作品
    『ドクター・フー』S8、S10(それぞれ複数話を担当)

    「シニカルなのに芯はアツいドクターの人柄についつい感情移入してしまいます。SFですがコメディなので笑えるセリフは訳しがいがありました。」

  • 久保田さんの翻訳作品『シカゴ・メッド』S1

  • ■久保田さんの翻訳作品
    『シカゴ・メッド』S1(複数話を担当)

    「臨場感あふれる医療ドラマ。医師たちがイケメンなのもモチベーションが上がりました。」

久保田さん、ありがとうございました。英語力をエンタテイメントにいかしたいと映像翻訳を目指された久保田さん。アンゼゼミで腕を磨きながら、抱腹絶倒のコメディを翻訳される日も近いでしょう。

top btn