『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』-翻訳者インタビュー/吹替翻訳:遠藤美紀さん|翻訳の専門校フェロー・アカデミー

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今回の作品
『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』

吹替翻訳:遠藤美紀さん

アメリカ発のストップモーションアニメでありながら、息を呑むような迫力ある日本絵巻が展開する『KUBO』。古き日本の風習や文化、わびさびなどの美意識までが取り入れられ、公開後にその素晴らしさがSNSなど口コミで広がりロングランヒットとなりました。本作を吹替翻訳された遠藤美紀さんにお話を聞きました。

  • 『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』
  • 【作品紹介】

    三味線の音色で折り紙に命を与え、意のままに操る能力を持つ少年クボ。幼い頃に、闇の魔力を持つ祖父の意思によって家族が襲われ、父は命を落とし、母は片目を失ったクボを連れて最果ての地まで逃げてきたのだった。しかし、再び刺客に襲われ母も亡くしてしまう。面倒見のよいサルに助けられたクボは、途中で弓の名手であるクワガタとも出会い、みんなで仇討ちの旅に出る。

    ■監督:トラヴィス・ナイト
    ■吹替版声の出演:矢島晶子(クボ)、田中敦子(サル)、ピエール瀧(クワガタ)、川栄李奈(闇の姉妹) ほか
    発売・販売元:ギャガ
    価格:3,800円(税抜)
    (C)2016 TWO STRINGS, LLC. All Rights Reserved.

思わず見とれてしまうほどの流麗なアニメーション
翻訳に関われて幸せだったと思える作品です

  • 『KUBO/クボ 二本の弦の秘密』は、公開後口コミでファンが拡大し、ロングラン上映されました。多くの観客の支持を得たことについて、どんな感想をお持ちですか?

    遠藤さん

     本作の一ファンとして、純粋にうれしいです。大好きな作品を大勢の人が気に入ってくれたわけですから。古き日本をテーマにした海外作品はそれほど多くないので、それだけでも人の興味を引くとは思いますが、観客の支持を得た理由はやはり普遍的で人の心を打つ物語だからだと個人的には感じています。

  • 古き日本を舞台にした作品ということで、日本語訳は全体的に時代がかったセリフ回しになっています。このセリフ作りの方針はどのように決まっていったのでしょうか。

    遠藤さん

     通常ですと翻訳の際、あまりにも日本をイメージさせるような言い回しは避けることが多いのですが、今回は舞台が日本という和風の世界、しかも中世という時代背景で昔話風でもあり、口調は結構悩みました。普段だと特に洋風だとは思っていなかった言葉も、この物語の中に置くと、なんだか違和感があったりしたんですね。そういったものも含め、気になった箇所は細かくクライアントさんと相談をし、少しずつ方針を決めていきました。

  • セリフ回しを考えるために、何か参考にしたものはありますか?

    遠藤さん

     もともと私は洋の東西を問わず歴史に興味があり、歴史小説や歴史劇なども好きですので、そういうものが影響しているところはあるかもしれません。セリフを作る上でもいろいろと参考にしました。

  • キャラクターの中で、特にセリフ作りを工夫したのは誰ですか?

    遠藤さん

     クボとサル、クワガタでしょうか。クボはしっかりしていて凜々しいけれど、子どもらしい無邪気な面も大切に。サルは厳しいけれど優しさが見え隠れするように。クワガタは口調こそサムライ風だけれど、お調子者っぽく……というのを意識してセリフを作りました。

  • 本作の見どころを教えてください。

    遠藤さん

     流麗なアニメーションは必見です! キャラクターの細かな動きや表情は言うまでもないですし、風景や小物も本当に美しく、折り紙の質感や水面に映る灯籠の光など、思わず見とれてしまうほど。それに三味線の音色がすばらしいんです。力強く、時に切なくて。また、ストーリー的にはファンタジー風で冒険活劇の要素もあり、手に汗握る面白さですが、同時に、込められているテーマは深いものだと思います。子どもが見ても楽しめますが、大人が見ると、いろいろな感慨を抱くのではないでしょうか。
     私個人としては、もともとストップモーション・アニメが好きな上に、舞台となっているのは和風の世界、そして心に残る物語と、三拍子が揃って大好きな作品です。さらに本作のエンディングテーマは、自分が子どもの頃から好きだったザ・ビートルズ『While My Guitar Gently Weeps』のアレンジ版だったんです。偶然とはいえうれしくて、ちょっとじわっときました。
     本当に、関わることができて幸せだったと思います。

登場人物の表情の動きやさりげなく存在するアイテムなど、
映像をしっかり見て訳すことを心がけています

  • 金融業界にお勤めの後、翻訳者を目指されたそうですね。社会人経験を経て、翻訳を学ぼうと思われたきっかけを教えてください。またフェロー・アカデミーを選んだ理由は何ですか?

    遠藤さん

     もともと私は、英語とも映像とも関係ない仕事をしていたのですが、映画や本が子どもの頃から好きで、海外にも興味がありました。それで、英語が分かればより楽しめるのではないかと思い、英語の勉強を始めたんです。最初は純粋に趣味だったんですが、そのうち好きなものを仕事にしたくなり、自然と翻訳という選択肢が浮かびました。フェロー・アカデミーを選んだ理由は、映像、出版、実務の3分野を同時に学ぶことができるベーシック3コースがあったからです。その頃はまだ、映像翻訳の他に出版翻訳にも興味があったため、両方同時に学べるというのはとても魅力的でした。実際に勉強してみたことで、映像1本に絞ろうと決められました。

  • その後、単科の中級・上級講座で字幕翻訳と吹替翻訳を両方学習されましたが、受講してどんなことが役に立ったと感じていますか?

    遠藤さん

     字幕と吹替を両方勉強することで、その違いをしっかり理解できたと思います。また、先生方にいろいろ教えていただいたのはもちろん、クラスメイトの訳文を見ることもいい勉強になりました。先生方やクラスメイトとは今でも連絡を取り合い、相談に乗っていただいたり、近況報告をしたりしています。そういった人間関係を構築できたのもありがたかったですね。

  • 翻訳の初仕事や、そのあとの駆け出しの仕事はどのように獲得していったのでしょうか。

    遠藤さん

     当時受講していた「峯間ゼミ」のクラスメイトの紹介で、翻訳会社から仕事をいただいたのがきっかけです。クラスメイトにもそちらの会社にも、本当に感謝しております。

  • 1日の仕事のタイムテーブルを教えていただけますか?

    遠藤さん

     朝7時ぐらいに起床し、朝食をとったら散歩がてら少し外を歩きます。その後帰宅して洗濯や掃除などをざっと済ませ、10時ぐらいから仕事開始です。だいたい13時過ぎぐらいになるとお腹がすいて頭も回らなくなるので、昨夜の残り物などで簡単に昼食。休憩を挟みつつ、18~19時ぐらいまで仕事を続けます。その後必要なら買い物に出かけ、夕飯の準備をし、夫の帰宅を待って食事。予定どおりに仕事が進まなかった場合は、食後に仕事を再開します。

  • 映像翻訳者として心がけていることは何ですか?

    遠藤さん

     当たり前のことではありますが、映像をしっかり見ることを心がけています。翻訳という作業の性質上、どうしても言葉に意識が集中しがちなのですが、やはり、映像あっての映画やドラマですから。たとえば、セリフにはなっていない登場人物の心情がかすかな表情の動きから読み取れるかもしれませんし、背景にさりげなく存在するアイテムが物語のキーかもしれません。作品を理解する上でも、翻訳する上でも、映像は大きなヒントになります。それに個人的には、吹替の場合、登場人物のジェスチャーとセリフをできるだけ合わせたいという思いがあるので、そのためにも、首を振る、指さすなどの印象的な動きには気をつけています。理想は、映像に寄り添い、なおかつ自然な日本語訳ですね。とはいえ、これが難しくて、いつも悩んでいるのですが…。

  • 現在映像翻訳者を目指して学習中の方にアドバイスをお願いします。

    遠藤さん

     リサーチ力を磨いておくとよいのではないかと思います。登場人物のセリフが古典や別の作品からの引用やパロディだったということもよくありますし、自分が詳しくない分野が作品内に登場することも珍しくありません。もちろん知識があればそれが一番なのですが、そうでなくても、きちんと調べることでカバーできることも多いと思います。

遠藤美紀さんプロフィール

久保田愛さん

短大卒業後、金融業界で働いた後、2008年3月よりフェロー・アカデミーで翻訳学習を開始。総合翻訳科「ベーシック3コース」、単科「峯間ゼミ」「田中ゼミ」などを修了し、現在は映像翻訳者として活躍中。ネット配信のドラマシリーズなどの翻訳を手がけている。主な作品に『FはFamilyのFシーズン2』『ハイ・ライフ』『スーパースティション: 悪霊退治』【以上Netflix、吹替翻訳、複数話を担当】など。

  • 遠藤さんの翻訳作品『恋はしないより、したほうがマシ』

  • ■遠藤さんの翻訳作品
    『恋はしないより、したほうがマシ』

    「不器用というか、いろいろこじらせてしまった感のある男のラブストーリー。たとえつらくても、人を好きになるのはいいことだなあと思える作品です。」

遠藤さん、ありがとうございました。今後は自分が好きな歴史ものの翻訳も手がけてみたいという遠藤さん。フェローの講座のステップをひとつひとつ昇って翻訳家となり、幸せを感じる作品を手がけられている姿に学習中の方も勇気づけられることでしょう。

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