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多分野の翻訳スキルが生きる「ビジネス系映像翻訳」とは?
「実務翻訳」というと、文書の翻訳を思い浮かべる方が多いと思います。でも、中には映像つきの情報を翻訳する場合もあります。たとえば、新開発されたアプリケーションのプロモーション動画などを流している企業のサイトを目にしたことはないでしょうか。エンタテイメントのイメージが強い「映像翻訳」の中でも、実務翻訳と同じようにビジネスを支える仕事が増えてきているのです。今回は、実務翻訳と映像翻訳両方のスキルが求められる「ビジネス系映像翻訳」をご紹介します。

映像の持つ力を利用してビジネスの幅を広げる! 需要は増加傾向に

文書では伝えきれない情報も、映像で見ると一瞬にして理解できるということがあります。そんなメリットを活用したいという企業は年々増えています。まずは、「ビジネス系映像翻訳」の案件を請け負っている翻訳会社の方々にお話を伺いました。

専門知識に加え、こなれた日本語力も必要!
これから確実に増加する動画コンテンツにスピーディに対応

■トライベクトル株式会社 矢柳 祐介さんのお話:

● 受注するコンテンツには、どのようなものが多いのでしょう?

製品のプロモーション映像や、CEOが企業理念について紹介している映像などです。映像を使う目的も様々ですが、例えば、自社のホームページで視聴できるようにしたり、製品の展示会会場でスクリーンやモニターに投影し、訪れた人に見てもらったりといった用途があります。
● どんな企業から受注するのですか?

外資系企業からの受注が多く、例えば海外の本社で作成されたプロモーション映像が100本あったとして、そのうちの10本を選んで日本でも紹介できるようにしたいので依頼される、というケースもあります。
● 現状では、どんな翻訳者に依頼しているのでしょうか?

ビジネス目的の映像ですので、専門性のある言葉にも対応できる方に依頼しています。それに加えて、こなれた日本語を使いこなせることが重要です。出版翻訳の経験がある方はボキャブラリーが豊富で、多彩な日本語表現が得意な方が多いので助かります。
● 報酬はどのように決めていますか?

映画やドラマなどのエンタテイメント系映像作品は、多くの場合10分単位で翻訳料の価格を計算することが多いのですが、製品紹介などの映像は3〜5分のものがほとんどなので、当社では料金プランをいくつか提示して、クライアントの要望にあったものを選んで頂いています。大体3分までの映像なら字幕のみの翻訳で20,000円、ナレーションをつける場合は55,000円が目安です。
● 翻訳者に、映像翻訳の知識(ルールなど)は求められるのでしょうか?

エンタテイメント系の映像作品ほど細かいルールや制限を守ることは求めません。映像の目的は、「映像をきっかけに製品や企業理念などを知ってもらう」ことにあります。いかにクライアントの希望どおりのPRができるかどうか、それを重視しなければなりません。そのため、字数や尺にとらわれ過ぎず、かつ分かりやすい字幕やナレーションにするために、「原文を前から順番に訳しているか」「冗長になりがちな場面でもなるべく短くまとめているか」ということを心がけて訳文のチェックをするようにしています。
● 矢柳さんには、自社サイトに掲載されている下記の記事もご紹介いただきました。

・字幕編集・字幕翻訳サービスについて
・壁が壊れるとき(映像翻訳と実務翻訳との垣根が壊れつつある点について)

クライアントのニーズに合わせ、翻訳のスタイルも柔軟に変化させています

■ブレインウッズ株式会社 笹波 和敏さんのお話:

● 受注する案件には、どのようなものが多いのでしょうか?

製品・サービスのプロモーション映像、事業内容の紹介などが多いですが、中には、企業CEOのスピーチを収録したメッセージビデオ(啓蒙活動の一環として現地法人の社員向けに作成)の翻訳といった「社内向け」のものや、海外における緊急医療の最新技術を教える講義の映像を、大学の講義で使用するため和訳するといったものもあります。
また、自社製品が紹介された海外のテレビ番組(ドキュメンタリー、バラエティなど)を訳して日本でも紹介したいというケースもあります。 エンタテイメント系の映像と違い、尺が短いものが多く、依頼を受けて2〜3日後に納品ということも珍しくありません。
翻訳会社ブレインウッズ【アジア言語や英語の実務・技術・映像翻訳者を募集中】
● 報酬はどのように決めていますか?

エンタテイメント系の映像作品のように分単位で報酬を決める場合と、「一式いくら」というように案件ごとに料金を設定する場合の両方があります。映像の長さは、プロモーションビデオのように5分前後のものが比較的多いですが、研修映像などでは、1時間を超える長尺のものまであります。
● どんな翻訳者に依頼しているのでしょうか?

映像翻訳者か、実務翻訳者に依頼します。映像翻訳者に頼む場合は、クライアントから渡された映像をそのまま回して、一から字幕やナレーションを作ってもらう事が多いです。
一方実務翻訳者の場合は、映像翻訳のルールについての知識がなく、字幕制作ソフトも所有していないため、映像スクリプトの忠実な訳のみ依頼し、スポッティング作業や字数の調整などの部分は映像翻訳者にお任せすることもあります。
● 英日と日英、字幕と吹替ではそれぞれどちらの方が多いですか?

言語方向については英日・日英それぞれ5割程度というのが現状です。字幕と吹替については、コストが安く抑えられるという理由で、字幕の依頼が多いです。また、見本市や展示会などのブースでは、様々な制約もあるため、字幕を選ぶことがほとんどです。あとは、視聴者が仕事中にネットで映像を見ることを想定して、音を出さなくても内容が分かる字幕が好まれるということもあります。一方、医療・医薬分野では、吹替やナレーションも需要が高く、情報を漏れなく伝えたい、というニーズもあります。
● 映像翻訳には特殊なルールがありますが、そういった知識は必要でしょうか?

基本的には、エンタテイメント系の映像翻訳と同じルールで字幕やナレーションを作るので、知識はあった方が良いと思います。
ただ、大切なことは「クライアントがどういう目的で映像を使用するか」をよく把握し、ニーズに合わせた翻訳をすることです。
例えば、一般の方が見る映像の場合は、誰もが分かりやすい字幕を作ることや、情報が多い部分でもなるべく文字数を少なくすることなどに気を配る必要がありますが、B to B、つまり企業間の取引目的等で、専門家が見る場合は、専門的な名称や用語もそのまま伝える必要がありますし、吹替の場合は同音異義語などにも注意しなければなりません。そのため、依頼を受けた時点で、訴求対象や映像によるコミュニケーションの目的を明確にするための打ち合せを行うことが必須となります。
それをふまえたうえで、映像翻訳のルールである文字数や行数の制限などを適用します。企業によっては、文字数が通常の映像翻訳の制限数より大幅に超えてしまうことになっても、正確に情報を伝えてほしいという要望もあります。内容をくまなく伝えたいか、それとも誰にでも分かりやすい字幕やナレーションで映像を見てもらうか、どちらを重視するかによって訳文の作り方も変わってきます。

字幕を入れる「場所」もポイント

■株式会社ヒューマンサイエンス 望月祐紀さんのお話:

● 御社では、IT系の動画を多く手がけているとのことですが、翻訳の過程で重要なポイントはどんな部分でしょうか?

たとえば、ソフトの導入事例などを紹介するアニメ動画などでは、キャラクターが台詞を話しながら説明するため、エンタテイメントの要素が強く、見る人を惹き付けるストーリーに仕上げるセンスも必要です。
また、PVやCMの映像を翻訳するためには、単なる翻訳ではなく、製品を理解しどれだけ魅力を伝えられるかといった、コピーライティングの能力も必要になります。
制作の流れですが、まず映像の原音を聞き起こして原文のスクリプトを作り、スポッティングを取ったものを翻訳者に映像と一緒に渡します。字幕やナレーションが納品されてきたら映像に乗せてクライアントに見てもらい、細かく調整して完成となります。
特にIT系の製品紹介ビデオなどの場合、URLなどの英文を文字情報として映像に乗せていることが多いので、文字数の制限よりも、むしろ「映像のどの場所に字幕を入れるか」に気を配ります。
字幕で背景がつぶれ、大切な情報が見えなくなってしまってはいけませんので、映像も字幕もどちらも見やすいように工夫する必要があるのです。
どの翻訳会社も、「ビジネス系映像翻訳」の場合は、まずクライアントの要望を重視することを最優先に制作に当たっているとのこと。その上で、映像に乗せる文字数や行数を調節するため、エンタテイメント系の作品では考えられないような文字数オーバーなどもあり得るそうです。
とは言え、あまりに情報量が多くて読みにくかったり聞き取れなかったりしては良いPR映像になりません。そのため、実務翻訳者でも映像翻訳のスキルや知識がある人の方が助かる、ということはあるようです。


通学講座「アンゼ特別ゼミ」修了生
林真子さんのパーソナルヒストリー

では実際に、こういった「ビジネス系映像翻訳」を手がけた方はどんなことに気を配りながら翻訳したのでしょうか? 当校の「アンゼ特別ゼミ」修了生で、エンタテイメント系の映像翻訳でも活躍されている林真子さんに、ご自身が手がけた「ビジネス系映像翻訳」の仕事について教えていただきました。

● コンテンツの内容はどのようなものでしたか?

クライアントが立ちあげた、海外で提供されている学習コンテンツの一部として、指導者向けの映像の日本語版を作るということで翻訳を受注しました。すでにネット上で公開されている、学習コンテンツサイトの指導者向けの映像で、学習サイトの使用例や、理念を説明しているものです。実際にサイトを利用している指導者のインタビューやプレゼン内容などもありました。ボイスオーバー用で、既にネット上で英語の聞き取りデータが公開されているので、それを加工して、英語と日本語の対訳原稿を作成するというものでした。
● 翻訳から納品までのフローを教えてください。

映像とスクリプトは既に公開されていたので、納期と公開形態(字幕版にするかボイスオーバー版にするか)が決定してから、翻訳をしていきました。翻訳できたものから納品し、クライアントのチェックをいただいて、何度か修正のやり取りをしました。テロップの字幕用の翻訳をどうするかなどについても、クライアントと相談しながら進めました。
● エンタテイメント系の映像翻訳との違いを感じた点はありましたか?

ドラマなどと違って、話者が話すことのプロでないこともありますので、話している長さに合わせるのに、少し手間がかかりました。プレゼンの映像では、映像からのヒントがないという点でも、普段とはちょっと違って手ごわかったです。
あと、公開されているスクリプトは、ボランティアの方が聞きとった内容で、抜けがあったり、スペリングミスがあったりということが…。普段の映像のスクリプトでもないとは言えないのですが、さすがに聞きとるのに苦労して、知人に一部、聞き取りを手伝っていただきました。
林さん、ありがとうございました。
ビジネス系映像翻訳の場合は、クライアントとの打ち合わせをこまめに行って情報をより的確に伝えることが優先され、時には映像翻訳の決まりごとなどを適用できないこともあるようですね。そんな時、いかに柔軟に対応できるかどうかが翻訳者の腕の見せどころかもしれません。今後も需要の増加が予想される「ビジネス系映像翻訳」。実務翻訳や映像翻訳を学習中の方にとっては、これから注目のジャンルとなっていきそうです!
(Written by 事務局 松本)
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