翻訳こぼれ話

小説、ノンフィクション、児童書……フェローの講師や受講生が手がけた翻訳書にまつわる貴重なエピソードをご紹介。これを読めば本が2倍楽しめること間違いなし!

今回の作品
『ARでバーチャル飼育』シリーズ

今回は、佐藤淑子さんと志村美希子さんが翻訳を手がけた『ARでバーチャル飼育』シリーズについてお届けします。AR(拡張現実)を活用し、アプリと連動させながら読むという新しい試みが詰まったシリーズについて、翻訳の裏話などをうかがいました。
また記事の最後には、この本の担当編集者さんに本書の魅力も教えていただきました。
  • ケイ・ウッドワード【著】佐藤淑子、志村美希子【訳】
    フレーベル館

    <梗概>

    本の中のこいぬやこねこのマークにスマートフォンやタブレットをかざすことで、自分だけのこいぬやこねこを手に入れられる。画面の中の彼らと友だちになり、名前をつけて一緒に遊んでみよう。

疑似体験にも、飼うイメージをつかむにもぴったり
とても「いまどき」な本

  • まずは、本書について簡単な解説をお願いします。

    志村さん

     おもに小学校低学年くらいのお子さんを対象に、スマホアプリのAR(拡張現実)機能を用いて楽しく遊びながら、こいぬやこねこを飼う際のお世話やしつけ、遊ばせ方などについて学べる絵本です。
     見開きごとにテーマがあり、本文の内容に対応した疑似体験がアプリ内でできるような構成になっています。アプリを通して体験自体を楽しむこともできますし、実際に飼う前にイメージをつかむのにも役立てられるかと思います。

     今回、ARというものに触れたのはわたし自身初めてでしたが、より具体的に内容やイメージを伝えることができるので、このような自然科学系の児童書ではARの利点をより強く生かせると感じました。

    佐藤さん

     私の担当した『ハローパピー! こいぬとあそぼう』は、子ども向けの子犬の飼い方の本です。かわいらしい子犬の写真が満載で、しつけ、食事、散歩のしかたなど、飼ううえで知っておきたい事柄がわかりやすく説明されています。
     特筆すべきは、専用の無料アプリをダウンロードすると、AR機能をつかって、スマホ・タブレットで自分だけの子犬を飼えること。アプリをひらくとカメラが起動し、絵本のなかのマークを読み取ることで、本文の内容に沿った疑似体験ができます。

     子犬に名前をつけて、お世話をしたり、芸を教えたり。遊びの要素がはいった楽しい絵本で、自然と子犬について学ぶことができる流れになっています。生まれたときからスマホやタブレットが身近にある子どもたちに向けて、今後、このような本は増えていくのではないでしょうか。そういう意味で、とても「いまどき」な絵本だといえます。

  • 翻訳を依頼された経緯を教えてください。

    佐藤さん

     現在受講中のゼミクラスのこだまともこ先生から、お話をいただきました。同じクラスの志村さんとご一緒でしたので、心強かったです。「こいぬ」と「こねこ」の担当わけに関しては、子どものころに犬を飼っていた経験あるわたしが「こいぬ」担当とさせていただきました。

    志村さん

     フェローのゼミでお世話になっているこだまともこ先生からのご紹介です。わたしは動物を飼った経験がなく、どちらにしてもゼロからのスタートでしたので、訳については佐藤さんが犬、わたしが猫、という担当分けになりました。本文訳のチェック、アプリの動きを確認しながらのテキストチェックなどでは、佐藤さんとわたしのそれぞれがお互いのものにも翻訳協力というかたちで関わらせていただきました。

  • 翻訳の流れや苦労を教えてください。

    佐藤さん

     はじめに数ページの試訳をつくり、編集者の方、志村さんと話し合いながら、子どもに語りかけるような口調にすることや、「こいぬ」はどちらかというと男の子寄りにして、「こねこ」のほうは女の子寄りにするという方向性を決めました。
     また、わたしは「こいぬ」、志村さんが「こねこ」を担当しましたが、訳文ができあがった段階で互いの原稿もチェックして、シリーズとして共通する部分に齟齬が生じないようにしました。

     これから犬を飼おうとしている子どもに間違ったことを伝えてしまっては大変ですから、犬の飼育についてはいろいろと調べましたが、楽しい作業でした。最後に監修の先生にもチェックしていただけたので、内容については安心しています。
     本書はAR機能を使用しているため、アプリ内に出てくるテキストも訳す必要があり、そこがおもしろくも大変でした。画面の動きと原文が合っていないところもあり、編集者さん、志村さんと、なんども画面上の子犬、子猫の動きを確認しながら訳出作業を進めました。また、日本の飼育環境に合わせて訳文の変更が必要な箇所もありました。

    志村さん

     はじめに編集者の方から、本文の語り口のイメージとして「『こねこと~』は女の子寄りで」とのお話がありました。翻訳作業は佐藤さんの『こいぬと~』の方が先行していましたので、共通する部分ではそちらにならいながら、ほかの部分では用いる言葉や語尾などで女の子のテイストを出すように心がけました。ただ、今の時代は、女の子の話し言葉自体が中性化しているので、「女の子寄り」のさじ加減が難しく、「薄め」から「濃いめ」にしたり、また少し「薄め」に修正したりと、とても苦心しました。

     原書のページのデザインをそのまま使用して、あらかじめ決まったスペースに訳文をはめこむという形でしたので、枠からはみ出てしまった箇所は、原文の内容を踏まえつつも、そのページのテーマとの整合性や流れ、文字数を優先させて削ったり、直したり、という作業もありました。 
     こねこの生態や飼育上の留意点などについては、監修の先生のチェックを受けられることにはなっていましたが、翻訳の段階でも、猫の飼育本を何冊か読んだり、猫の動画を調べたりして、原文にある内容や自分がイメージしている動きが正しいのか確認をしながら訳を進めていきました。
     また、日本での飼育上のルールに沿っているかということも配慮が必要な点でした。猫についてほぼ知識のなかったわたしが、いつでも猫が飼えるのでは、というくらいに詳しくなったことは楽しい収穫のひとつでした。

  • 今後、訳してみたいジャンルの本があれば教えてください。

    志村さん

     「ひまわりが光の方を向くような『向日性』が児童文学の特長のひとつ」と、フェローでお世話になっているこだま先生の授業で教えていただいたことがあります。わたし自身も児童文学のそういう面に大きな魅力を感じています。成長する力や前進する力を感じられる物語を訳して、子どもの読者に届けることができたら嬉しいです。

    佐藤さん

     やはり子ども向けの作品を訳したいと思います。絵本は大好きですが、児童向け読み物やYA小説の翻訳にも興味があります。気に入っている未訳の絵本や読み物もあるので、積極的に持ち込みをしていきたいと思っています。

  • 最後に、出版翻訳を学習中の方にメッセージをお願いいたします。

    佐藤さん

     出産後、子育ての合間の時間にあこがれだった翻訳の勉強をしてみようと、通信講座の受講をはじめました。下の子どもの中学入学を機に通学講座に切り替え、現在はこだまゼミに月2回通っています。こだま先生のクラスでは、いろいろな課題を訳したり、シノプシスを作成したりしながら、独学では学べないことをたくさん教えていただいています。クラスのみなさんが優秀なので、毎回刺激をもらっています。

     わたしが本腰を入れて勉強をはじめたのは子育てもひと段落ついてからで、だいぶ遅いスタートでしたが、最近少しずつ仕事につながってきています。やはり大切なのは、あきらめずにこつこつ勉強を続けること、そして少しでもチャンスが増えるように、常にアンテナを立てておくことではないかと思います。

    志村さん

     フェローのフリーランスコース(現在はベーシック3コースに名称を変更)に通いはじめてから、ずいぶん長い時間が経ってしまいました。それでも、まだまだ自分には学習が必要だと感じていますので、学習中の方にメッセージというのも大変おこがましいのですが、わたし自身としては「やめてしまったらそこで終わりだから」と思って学習を続けてきました。今回はじめてお仕事をさせていただいて、こうして一つの形になったことはとても幸せでありがたいことでした。

     たくさんの方がおっしゃっていることですが、フェローで学んだことで何より大切にすべきと感じているのは「原文に寄り添う」という姿勢です。これは、基本中の基本でありながら奥が深くて難しい永遠の課題ですが、常に心に留めて今後も翻訳に取り組んでいきたいと思っています。

フレーベル館 出版営業部 編集部
渡辺舞さんからのコメント

  •  AR(拡張現実)絵本とは、専用のアプリを入れたスマホ・タブレットから絵本のなかのARマーカーを読み取ることで、端末画面のなかで絵本の世界が現実にあるように映しだされるものです。市場にもすでに登場していましたが、ペットが本から飛びだして、擬似的に飼育体験ができるこの絵本は、とても目新しく、画期的に見えました。

     佐藤さん、志村さんには本文をただ翻訳するだけでなく、制作途上のアプリを実際に遊んでいただきながら検証し、不具合を洗いだしたり、遊んでいて迷いやすいところはテキストで補ったりと、およそ翻訳を超えた作業を、きめ細かく、丁寧に対応していただきました。おかげで、日本版は広い年齢層に楽しんでいただけるものにすることができました。

     下記URLにて、「ARでバーチャル飼育」シリーズの紹介PVがご覧いただけます!



    → フレーベル館の公式サイトはこちらから

<編集後記>

佐藤さん、志村さん、ありがとうございました。これまでも3Dメガネをつけて読む本や、イラストが立ち上がる絵本はありましたが、時代はそこからさらに進歩しているのですね。今後のこのジャンルの展開に注目です。
(written by Takasaki)

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