学生さんの長い長い夏休みシーズンが到来しました! どこに出かけようか、はやる気持ちで計画を立てている方も多いことでしょう。
さて今回紹介するのは、これから動物園に出かけるのがちょっとスリリングに感じられそうな一冊『CLAW 〔爪〕』です。なんの爪かというと、鷹の爪……じゃなくて「虎」の爪。動物園の虎が突然人々を襲いだすという、真夏にヒヤッとしたい人にはもってこいのパニック・ミステリーです。
本書を翻訳した当校受講生・青木千鶴さんに、「クロウ」話も含め、さまざまなお話をうかがいました。
『CLAW 〔爪〕』
ケン・ユーロ&ジョー・マック著/青木千鶴訳
早川書房/735円(税込)
2007年7月25日より発売中
 訳者の青木千鶴さんに聞きました
まずは本書の内容の紹介からお願いします。
青木さん:LAの動物園で、ラージャという名の虎が突然飼育員の女性を襲って殺害。やがて動物園を脱走し、街じゅうをパニックに陥れます。女性の獣医メグは調査を進めるうちに、ラージャが並外れた運動能力と知性、異常な凶暴性を備えていることを発見。その真相を追いますが、彼女に協力する人間が次々に不審な死を遂げていきます。ラージャに隠された秘密とはいったい何なのか? 動物パニックものにサスペンス、さらには主人公のロマンスと、いろいろな要素が詰めこまれた小説です。
翻訳にあたってどんなことを工夫しましたか?
青木さん:原文はわりとシンプルな言葉で書かれていて、それをそのまま素直に訳すようにしたので、だいたいどんなスタイルで訳すかは特に悩みませんでした。ただ原文のように簡潔な仕上がりを目指して、読みやすい語順を考え、冗長な文にしない、などの工夫はしましたね。あと原文には建物内の構造や物の位置関係など、説明的な描写があっさりしすぎている箇所もありましたが、そこは必要に応じて言葉を足したり説明を加えたりして、読者が状況をイメージしやすいようにしました。
それでは、何か苦労した点はありましたか?
青木さん:主人公が調査をする過程で、脳細胞とか、電子顕微鏡のこととか、医学に関する専門的な記述が出てきました。そういう部分はなじみが薄かったのでいろいろと調べましたね。それから、今回の仕事で初めて「訳者あとがき」の執筆を体験しました。どんなふうに書けばよいものかと、自分が持っている本のあとがきをいろいろ研究しましたね。
本書で長編の翻訳デビューを果たした青木さんですが、これまでに短編集の中の何編かを訳していますよね。今回の長編と以前の短編とでは、訳すときにどんな違いを感じましたか?
青木さん:まず納期ですね。最初の短編集では約60ページを2ヵ月ほど、次作では約15ページを2週間ほどでしたが、今回は300ページ超を3ヵ月少々。長編の納期は大抵そんなものだと思いますが、やってみるとなかなか大変でした。それから短編集のときは田村先生に訳文を見ていただく機会がありましたが、今回の長編はそのときの編集者からリーディングや部分下訳を経て直接依頼されたので、完全に先生の手を離れて自分で訳しあげた、というのも大きな違いです。
また作品を最後まで読み通したうえで、全体的にふさわしい表現に揃えることの大切さも実感しました。例えば主人公のメグは若く美しいイメージですが、読み進めるうちに力強さも兼ね備えたキャラクターだとわかり、彼女の口調にもそれを反映させることにしました。ほかにも本書でパニックを引き起こす「とら」は、カタカナの「トラ」にするか、漢字の「虎」にするか。そういう表記のふさわしさにも注意を払いましたね。
田村義進先生のゼミを受講中の青木さん。先生の指導でとりわけ仕事に役立っているのはどんなことですか?
青木さん:先生の姿勢で一番尊敬するのは、翻訳に対する謙虚さです。訳文を読んでおかしいなと思ったらすぐ原文に戻ってみる、どうしてもかっこよく訳してしまいがちになるのを抑えて読みやすく訳す――。このように原文や読者を大事にする姿勢は、自分が翻訳をするときでも心がけています。
いま翻訳学習中の方々の参考に、青木さんおススメの学習法をお聞かせください。
青木さん:一度直された間違いを繰り返さないことが大事だと思うので、私の場合、授業中に習得した大事なポイントをノートに整理しておき、あとから見返すようにしています。実際の仕事では翻訳のテクニックだけでなく、文字の表記の決まりについてもおろそかにはできません。そういう決まりはノートにまとめておくと、のちのち参考にしやすいですよ。
ちなみに学習法ではないんですが、私の妹が大の読書家で、選ぶ本の好みも自分と似通っているんです。その妹によく自分の訳文を読んでもらっていますね。客観的な感想を聞かせてくれる存在が身近にいると、とても参考になるので助かります。
青木さん、ありがとうございました。みなさんはずっと続けている自慢の学習法、ありますか? いずれにせよ、コツコツと積み重ねた努力こそが最後に実を結ぶのかもしれませんね。最近怠けがちなそこのアナタ、青木さんの爪の垢でも煎じて飲みなさい!
えっ、「爪」にひっかけてそう言うと思った? それはどうも、ツメが甘くてすみません……。
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