文芸翻訳家 高橋知子さんのreco本『大鴉の啼く冬』

 出版翻訳家が最近読んだおすすめの本=“reco本”を、毎月リレーで紹介していきます。「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!

 前回の青木悦子さんからバトンを受け取ったのは、青木さんのごはん友達でもあり、翻訳ミステリーを読む際のプチ指南役でもあるという高橋知子さんです。
 今回もぜひお楽しみください!

高橋知子さんのreco本

  • 『大鴉の啼く冬』書影

    『大鴉の啼く冬』

    アン・クリーヴス 著
    玉木 亨 訳(東京創元社)

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     シェトランド諸島ってどこ? スコットランドの北東? 寒そう。
     
     本書を書店で見かけたとき、まずそう思った。装幀から受けるイメージもあっただろうが、頭のなかには荒涼とした雪景色が広がり、雪に閉じ込められた小さな島が舞台ならば、きっと濃密な人間関係が描かれているにちがいない、と設定に惹かれてすぐにレジに向かった。
     
     以来、クリーヴスは好きな作家のひとりになっている。一番の魅力は情景を浮かびあがらせる描写だ。本書は年が明けて間もない1月5日、地元の高校生キャサリンが雪原で遺体となって発見され、地元署の警部ペレスが事件の真相に迫るというのが物語の軸になっている。この遺体発見のシーンが、実に印象的なのだ。彼女はマフラーで絞殺されたのだが、そのマフラーは真っ赤。白と赤のコントラストが目に浮かぶようだった。
     
     こういった描写の妙は点として存在するのではなく、全編を通して感じられる。ペレスが主人公ではあるが、章ごとに視点が変わり、ペレスをはじめ、犯人と目された知的障害のある老人マグナス、キャサリンの友人サリー、遺体の発見者であるフラン、計4人の日常や思いが描かれる。この多視点が立体感を生み、読者の想像力をかき立てるのだろう。
     
     本書は〈シェトランド四重奏〉の1作目だ。シリーズは冬に始まり、つぎが春、そして夏、秋と季節を一巡する。描写から浮きあがってくる情景に浸り、シェトランドの人たちの人間模様をぜひ味わってもらいたい。

     

高橋知子さんのプロフィール

文芸翻訳家。ロバート・アープ『世界の名言名句1001』(共訳)、ジョン・サンドロリーニ『愛しき女に最後の一杯を』、フィリップ・ケンプ『世界シネマ大事典』(共訳)、ウィル・シュワルビ『さよならまでの読書会』、マイケル ディルダ『本から引き出された本』、リー・ゴールドバーグ<名探偵モンク・モンク シリーズ>など訳書多数。

担当編集者のコメント

宮澤正之さん

 本書を第一作とする〈ジミー・ペレス警部〉シリーズの舞台となるシェトランド諸島は、グレートブリテン島の北方に位置し、緯度はむしろフィンランドやノルウェーに近い場所です。そのせいもあるのか、このシリーズは英国と北欧のミステリの美点および雰囲気を併せ持つようにも感じます。人間関係の綾や島々の風景を描きだす著者クリーヴスの抑制のきいた筆致と、巧みに組み立てられた謎解きの妙味を、どうぞじっくりご堪能ください。

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おすすめの本です。
お楽しみに!

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