文芸翻訳家 三角和代さんのreco本『遙かなるセントラルパーク』

 出版翻訳家が最近読んだおすすめの本=“reco本”を、リレーで紹介していきます。「次はなんの本を読もうかな」と思ったら、ぜひreco本を手に取ってみてください。バトンが誰に渡るのかも、お楽しみに!

 前回の高橋知子さんからバトンを受け取ったのは、翻訳修行中にオンラインの翻訳関連グループを介して知りあった友人であり、翻訳者としては少しでも追いつきたい先輩でもあるという三角和代さんです。
 今回もぜひお楽しみください!

三角和代さんのreco本

  • 『遙かなるセントラルパーク』書影

    『遙かなるセントラルパーク』

    トム・マクナブ 著
    飯島 宏 訳(文藝春秋)

  •  

     悲しいくらい運動神経にめぐまれず、子供の頃は体育の授業が大の苦手だった。大人になってようやく、他人のペースに合わせることを強要されなければ身体を動かすのは結構いいぞ?と気づいた。とか言いながらスポーツはもっぱら〝観る専〟だ。そんな自分が数年前、ミステリ書評家の川出正樹さんのお薦めで手にしたのが本書だった。全行程3000マイルを走破するアメリカ大陸横断マラソンの話?! 正気ですか参加者たち。
     
     プロのアスリートだけではなく、失業者、貴族、踊り子とそれぞれの理由でこの大会にかける2000人の男女が世界中からロサンジェルスに集結してレースはスタートする。めざすはニューヨーク、遥かなるセントラルパークだ。ランナーはもちろん運営側も苦労を強いられるスケールの大きく過酷なレースが進むにつれて、読み手は参加者、関係者の背景にぐいぐい引き込まれることになる。
     
     マラソンはひとりで走る競技だ。隣にいるのはライバル。それなのに長丁場のレースでいつしか連帯感が生まれてチームのようになっていく過程がチームプレーの強要では味わえない感動を生む。舞台となるのは1931年、実在の人物も配置して当時の世界情勢を反映させ、レース中にはさまざまな事件も勃発、奥行きをもたせた広がりがある。
     
     80年代に新刊では読みのがしていたわたしはお薦めされた当時、古書の文庫を手に入れるしかなかったのだが、本書は2014年に名作の新装版を紹介する海外ミステリ・マスターズの1冊として甦った。運動の苦手なわたしは紙の上でランナーたちと一緒に走ってセントラルパークで涙した。あなたにもゴールしてほしい、読みつがれてほしい名作だ。

     

三角和代さんのプロフィール

文芸翻訳家。ジョン・ディクスン・カー『盲目の理髪師』『緑のカプセルの謎』、アラフェア・バーク『償いは、今』、S・K・ダンストール『スターシップ・イレヴン』、ジャック・カーリイ『キリング・ゲーム』、ヨハン・テオリン『冬の灯台が語るとき』など訳書多数。

担当編集者のコメント

永嶋俊一郎さん

『遙かなるセントラルパーク』を読んだのは文春が同作を文庫化したときのこと。僕は高校生でした。ジャンル小説を中心に読んでいた僕は、「こんな面白い本があるのか!」と驚愕したものです。ジャンル分け不能の、ひたすら力強く純粋な面白さ。あれは凄かった。以来、僕の中で「面白本」といえばこの小説の他にありません。しかし、ジャンル分け困難ゆえに本書は長らく品切れとなっていました。だから海外文庫の復刊の話が持ち上がったとき、すでに文春に潜り込んでいた僕は、何よりも先にこの小説の名を挙げたのです。

文藝春秋のWebサイトはこちら

次(2/15更新)は
三角和代さんからの
ご紹介で中村久里子さん
おすすめの本です。
お楽しみに!

top btn