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トラマガ

Vol.352 <前編>映像翻訳者 古瀬由紀子さん

社内で映像翻訳をするという働き方
フリーランスとの環境の違いとは?

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(2015年9月10日更新)
 今回はあの人気ドラマシリーズ『24』や『プリズン・ブレイク』の吹替翻訳を担当された、古瀬由紀子さんにお話を伺いました。英語と映画が好きで、高校生の頃に映像翻訳家に憧れを持ち、まっすぐに目指してきたという古瀬さん。どうすれば翻訳者になれるか模索して、選んだのは日本語版制作を手がける会社の社内翻訳者になるという道でした。そこから、どんなふうに映像翻訳者として成長していったのでしょうか。普段あまり聞くことのない、社内翻訳者の仕事ぶりについてもお聞きしました。

英語に魅了された子ども時代、目指すは映像翻訳者!

――英語と映画が好きなお子さんだったそうですね。英語を好きになったきっかけは?

 おそらく小学校低学年だったと思いますが、『モクモク村のけんちゃん』というテープを親に買ってもらったんです。子ども向け英語教材で、主人公のけんちゃんが魔法の国を冒険するのですが、その魔法の国で使われている言葉が英語で、けんちゃんは九官鳥の九ちゃんに英語を教わりながら冒険を続け、だんだん英語が話せるようになっていく、というお話です。これが気に入って、毎日聞いていました。それで自然と英語が好きになり、親にせがんで小学4年生から英会話教室に通わせてもらったんです。少人数のクラスで、アルファベットを書いたり、フラッシュカードで英単語を覚えたりするところから始めて、英語で日記を書いたり、スピーチをしたりもしました。小さい頃の、こうした経験のおかげか、中学に入ってからも英語がいちばん好きで、英語だけは飽きずに勉強した記憶があります。

――映画についてはどうでしたか?

 洋画好きの父の影響で、小学生の頃から海外の映画やドラマをよく見ていて好きになりました。田舎だったので、近所に映画館がなく、当時はレンタルビデオ店もなかったので、もっぱらテレビでしたね。あの頃は、ゴールデンタイムに週2,3本は放映されていたと思います。初めて観たのは『ネバーエンディング・ストーリー』。ある晩、怖い夢を見て眠れなくなった時に、たまたまテレビでやっていて。すぐに引き込まれて怖い夢のことなんて忘れてしまって、映画の力ってすごいなと思いました。海外ドラマでは、『シャーロック・ホームズの冒険』や『名探偵ポワロ』、『ジェシカおばさんの事件簿』など、推理ものが特に好きでした。

――映画やドラマの翻訳をしたいと思ったのは、この頃ですか?

 いいえ、小学生の頃は翻訳なんて意識せずに、ただ好きで見ていただけです。翻訳を意識したのは、高校生くらいだったと思います。英語が好きで映画が好きだったので、その両方が関係する仕事はなんだろうと考えたときに、映像翻訳家だと思いつきました。ちょうど戸田奈津子さんが活躍なさっていて、雑誌のインタビュー記事などを読んで、意識するようになったんだと思います。それで、大学でも英語を勉強しようと思って英米文学を専攻しました。実は、この選択は後になってちょっと後悔したのですが……。ただ、高校生の私は、「映像翻訳者になりたい、だから英語を勉強する」と一直線に考えていましたね。

大学生になって、何か映像翻訳に関わる勉強などしましたか?

 大学の授業では特に翻訳に関するものはなかったのですが、実は卒業論文のテーマとして「映像翻訳」を取り上げました。映像翻訳と文書の翻訳の違いや、映像翻訳の中でも字幕と吹替の違いなどを、自分なりにまとめた内容です。いま振り返ると、当たり前のことを理屈をこねて書いただけで恥ずかしいのですが、その間はとにかく映画を大量に観た時期でしたね。毎週のように映画館に通いましたし、レンタルビデオは同じ作品を字幕と吹替の2本同時に借り、巻き戻しと早送りを繰り返して、字幕と吹替のセリフの違いを調べたりしました。

どうすれば映像翻訳者になれる? 思いつく限り行動を

――卒業後の進路については、どんなふうに考えていましたか?

 翻訳をやりたいということは決めていたので、大学の就職課に行って、翻訳をやらせてもらえそうな会社を選んで新卒採用の資料請求をしました。返事が来るところ、来ないところ、いろいろでしたが、返事が来ても「うちは社内で翻訳をしていません」という回答もあったので、何も知らずにトンチンカンなところにも資料請求をしていたんでしょうね。
 それと同時に、翻訳学校の体験レッスンに行ってみたりもしました。その時の講師が、たまたま私が資料請求をした制作会社の社長さんで、レッスン後に声をお掛けしたところ、「じゃあ、翻訳見習いをやってみますか?」と言ってくださって、その制作会社でお手伝いすることが決まったんです。映像翻訳については、翻訳雑誌を読んで得た基本的なルールなどの知識しかなかったので、この会社で本当に多くのことを教えていただきました。

――見習い期間を通して、どのようなことが勉強になりましたか?

 ハコ切りといって、1枚の字幕に収められる長さにセリフを区切っていく工程があるのですが、これを初めて経験したのも、この見習い期間でした。ドキュメンタリー作品だったのですが、「1秒4文字ルール」は知っていたものの、慣れない私はすごく長く区切ってしまって……。実際に字幕を載せた映像を見せられて、「ほら、長いでしょ」と。未熟ながら下訳もさせていただきましたし、社長自身、翻訳者として活躍されていた方なので、テレビ局の収録にも連れていっていただいて、現場を体験することもできました。
 まだ大学生で、結果的に4カ月ほどの短い期間でしたが、このときに学んだことは本当に大きな財産になりました。

――いい機会に恵まれましたね。就職のほうはどうなりましたか?

 その制作会社で働きたいという希望はあったのですが、当時はそのまま就職しても即戦力にはなれなかったので、資料請求をした中から何社かの試験を受け、最終的に映像翻訳をやれるチャンスがあった、ブロードメディア・スタジオに就職することを決めました。

――希望通り制作会社に就職できたのですね。仕事はどのような内容でしたか?

 私が入社したのは今から15年ほど前になりますが、そのころはまだ社内に翻訳者がおらず、ちょうどこれから社内翻訳者を育てたいという、ありがたいタイミングでした。
 とはいえ、いきなり翻訳は無理なので、まずはドキュメンタリー作品の字幕制作を担当しました。仕事の内容は、素材の手配、スポッティング、翻訳者の手配、上がってきた字幕原稿のチェック・校正などです。字幕制作の工程を覚える、プロの翻訳者さんの原稿をチェックするなど、制作業務を通して翻訳を学ぶことができました。
 半年くらい制作を担当して、それから少しずつ翻訳の仕事もさせてもらえるようになりました。徐々に翻訳の仕事が多くなり、2年目からは翻訳の仕事一本で、今に至っています。

――最初にした翻訳の仕事は、どのような内容でしたか?

 最初は、制作も担当していたドキュメンタリーの字幕翻訳でした。確か、動物もののドキュメンタリーで、カタカナの動物名がやたらと長くて、それを入れたらあっという間に字数が足りなくなり、苦労したのを覚えています。
 字幕の次に、ボイスオーバーの翻訳をしたのですが、字幕とは違って翻訳した文章が音声として流れるので、しゃべっている内容を画面の動きに合わせなければならない、という難しさがありました。例えば、映像で何かを指さしながら話をしている場面では、ボイスオーバーの音声もその動作にぴったり合ったところで「これは、〜」と聞こえてこなければなりません。
 ドラマの吹替翻訳を担当したときは、今度はナレーションではなく会話なので、ボイスオーバー以上に、口の動きや動作、表情に合わせた翻訳をしなければならないところが大変でした。例えば、年配の役柄なら若者よりもゆっくり話すようにセリフを少し短めにするのですが、あるとき映画の設定では年配だけれども吹替を担当する役者さんは若い方ということがあって、私が書いたセリフでは足りなくて……。映像ではまだ口が動いているのに聞こえてくる声が先に終わってしまう、ということがありました。映像の口の動きとセリフの長さを合わせることを「尺を合わせる」と言いますが、いまだに尺には苦労しています。

――少しずつ経験を積みながら、学んでいった感じですね。そこは、社内翻訳者のメリットかもしれませんね。多くの方に教えていただけるという。

 そうですね。フリーランス翻訳者にも社内翻訳者にも一長一短があると思いますが、社内翻訳者のメリットはやはり、現場のスタッフと非常に近くて、コミュニケーションを取りながら仕事を進められるところだと思います。特に新人の頃は、上司や先輩に本当にいろいろと教えていただきました。今は吹替をメインに仕事をいただいていますが、それは直属の上司が吹替のディレクターだったので、一緒に組んで仕事をさせていただくことが多く、その方に根気強く指導していただいたお陰だと思っています。最初は映画の字幕翻訳に憧れてこの世界に入ったので、今でも字幕の仕事は楽しいですが、よりチームで作り上げる感覚のある吹替の面白さには、社内で仕事をしていたからこそ気づけたと思います。
 それから、もうひとつ社内翻訳のいいところとして、オフィスで仕事をしているのでスタジオに近く、収録現場に足を運びやすいというのがありますね。なるべく自分が訳したものは収録を見に行くようにしています。収録の時には、翻訳してからある程度、時間が経っていますので、より客観的に、視聴者に近い感覚で自分の訳したセリフを聞くことができます。ディレクターに直していただいたセリフや、翻訳している最中は悩みに悩んで、何度も作り直したセリフでも、違和感なく作品に溶け込んでいると、「なるほど、これでよかったんだな」と確認できて、次回にも活かせるんです。


大学卒業後、日本語版制作を手がける会社に就職し、まわりのスタッフに育ててもらいながら一人前の翻訳者に成長していった古瀬さん。後編では、ご自身が手がけた作品について、また翻訳の仕事のやり方についてお話を伺いました。お楽しみに。

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古瀬由紀子<ふるせゆきこ>

鳥取県出身。大学では英米文学科を専攻。卒業後、ブロードメディア・スタジオ株式会社に入社。字幕制作担当を経て、社内翻訳者に。二年目より、翻訳業務一本に絞って仕事をこなす。これまでに、海外ドラマ『24』『プリズン・ブレイク』『グレイズ・アナトミー』『弁護士イーライのふしぎな日常』『ボルジア家 愛と欲望の教皇一族』、映画『ブラック・スワン』『リダクテッド 真実の価値』『ファウンテン 永遠につづく愛』など、多くの作品の吹替・字幕翻訳を手がける。

<関連リンク>
ブロードメディア・スタジオ株式会社

<翻訳作品>

<ドラマ(吹替)>


『エクスタント』(シーズン1〜担当)


『24』(シーズン4〜担当)


『プリズン・ブレイク』(全シーズン担当)

<映画(吹替)>


『ブラック・スワン』


『サン・オブ・ゴッド』

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