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トラマガ

Vol.360 <前編>大学教授・翻訳家 金原瑞人さん

訳書は400冊以上、本の紹介も精力的に。
面白い本を大勢の人に伝えたいから

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(2016年1月12日更新)
ヤングアダルトの分野を中心に訳書がすでに400冊を超えるという翻訳家、金原瑞人さん。しかし、高校の頃は英語の成績がふるわず、医学部を目指すも大学受験に失敗。文転し英文科に入学したものの、就職難でカレー屋でも始めようかと考えた時期もあったという、思いがけない過去をお持ちでした。そんな金原さんが、なぜ翻訳をするようになったのでしょうか。そして昨年、「翻訳物はおもしろいんよ!」と主張する冊子『BOOKMARK』を自身の個人雑誌として創刊。そのお話も伺いました。

大学受験失敗、挫折の末に入った英文科で翻訳に出会う

――今では訳書が400冊以上という金原さんですが、もともと翻訳者になるつもりはまったくなかったそうですね。

はい。高校の頃は、医者になろうと医学部を目指していました。でも受験に失敗して一浪し、また落ちて二浪目にいわゆる“文転”です。医学部崩れというのかな。とにかく、入れるところならどこでもいいということで、当時人気だった仏文とか、露文とか、いろいろ受けました。それも全部落ちて、唯一合格したのが法政大学の英文科だったんです。だから消去法で英文科に入りました。

――では英語は特に好きな科目、得意な科目ではなかったのですか?

英語は、中学の頃はできました。5段階評価の5。すごく勉強した記憶はないけど、試験前にちょっとやれば問題なかった。でも、高校に入ると急に難しくなるでしょう。ぼくの通った高校は進学校だったし、中学の頃と同じように遊んでいたら、とたんに英語がわからなくなってしまって。高校3年間、5段階評価の3くらいだったと思います。「ああ、ぼくは英語はだめなんだな」という意識はありましたね。

――本はどうでしたか。子どもの頃からよく読まれていましたか?

小さい頃に本をよく読んだという記憶はないけど、中学くらいから翻訳物を好きになって、中学高校の頃は、日本文学はおいといて、翻訳物ばかり読んでいました。だから、英文科に進んでからは、もう一直線に海外文学に向かいました。それまでは翻訳書ばかりでしたが、原書も手に取るようになって、「案外、英文って読めるもんだな」と気づいたのは大学も後半になってからでしたが。

――たくさん読むうちに、原書を読みこなせるようになったということですか?

というより、原書の読み方というか向かい方というか、それに気づいたということです。中高の頃は日本語に訳された本を読んでいたんだけど、原書であってもそれと同じように、英語を読むというよりも、物語を読むというふうに読めば、いっしょなんだなと。ある日、「あ、読めるようになった。この読み方でいいんだ」と気づいた、それが大学3年生か4年生の頃だったと思います。

――この頃に翻訳家を目指すようになったのですか?

いや、それが、その頃は海外の作品を読むのが好きだっただけで、翻訳とはまだ何のかかわりもありませんでした。ちょうど就職氷河期で、就職活動がうまくいかず、受けたところは全部落ちてしまったんです。それで屋台のカレー屋でもやろうかなと、カレーの味を極めるべく、毎日スパイスを変えて試作品を作ったりしていました。あるとき卒論の指導教授に就職のことを聞かれて、「全部落ちたのでカレー屋をやります」と言ったら、「カレー屋もいいけど大学院に来ないか」と誘われて。大学院がどういうところかもよく知らなかったけど、奨学金ももらえるというし、この就職難の時代にありがたいことだと、大学院に進むことにしました。

――では、翻訳をするようになったきっかけは?

ぼくに大学院を薦めてくださったのが犬飼和雄先生。児童書の翻訳をなさっている方で、先生が開く月1回の翻訳勉強会に誘われて、それに参加するようになったのが翻訳との出会いです。大学院で研究に没頭していたら、翻訳はたぶんやっていなかったでしょう。翻訳勉強会で翻訳に触れ、論文を書くよりも翻訳をするほうがおもしろくなっていって、この道を選ぶことになりました。
結局、浪人2年、大学4年、大学院で修士3年、博士3年で計12年、学生をしていたので、大学院を卒業したときは30歳になっていました。卒業後、いくつかの大学で非常勤で英語を教えていましたが、4年後に法政大学で専任の職を得て、現在に至るというわけです。

「この本おもしろかったよ!」をかたちに

――ところで金原さんはご自身で翻訳をするだけではなく、翻訳書をはじめ書評を書く仕事も精力的になさっていますね。

はい、書評のほうも学生時代に始めました。大学の頃から本はよく読んでいたので、大学院生時代に『図書新聞』という本の批評専門紙で書評を書き始めました。非常勤講師をしていた1988年から3年ほど、朝日新聞の「ヤングアダルト招待席」という書評コラムを隔週で担当したり。書評を書くことは今でも続いていて、昨年『10代のためのYAブックガイド150!』(ポプラ社、2015年12月刊)という本が出たばかりです。

――若者の本離れが言われていますが、書評を書くのは若い世代にもっと本を読んでもらいたいという思いからでしょうか?

いや、自分が読んでおもしろいと思った本は、「これおもしろかったよ、読んでみて」と言いたくなるじゃないですか。単純にそういうことです。ただ、その気持ちで書いています。

――2015年には『BOOKMARK』という冊子を創刊されましたが、これもまさにその気持ちから発したものですか?

そうです。あるとき児童文学の翻訳者で書評も書いている三辺律子さんと話していて、「児童書や一般書はいろいろ紹介されているけれど、YA本、特に翻訳書を紹介する場がないね」という話題になって、だったら自分たちで出そうかと。冊子を印刷するにはいくらかかるか、表紙のイラストはどうするか、検討した結果、がんばれば何とか年に4回は出せそうだなと見込みが立ったので、作ることにしました。
CDケース大の小冊子で全24ページ、内容はYAの翻訳書を訳者の方に紹介していただくというスタイルの読書案内です。

――スポンサーを募ることなく、すべてご自身で費用を工面されていると聞きましたが、どうしてですか?

例えば、出版社がスポンサーになってくれたとしたら、その出版社の本を紹介しないといけないでしょう。たとえ「うちの本を載せなくてもいいよ」と言ってくれたとしても、それでも何となく「それじゃあ悪いから紹介しようかな」と思ってしまう。ヒモ付きじゃないほうが自由にできるじゃないですか。
もうひとつは、スポンサーにお金を出してもらうと、執筆者の方に原稿料を払わなくちゃならなくなる。この冊子、表紙イラストなど一部を除いて、基本的には皆さんにタダで書いてもらっているんです。どこからもお金をもらってないと「タダでお願い」って言えるでしょう(笑)。

――創刊号はどのような内容ですか?

第1号は「これがお勧め、いま最強の17冊!」という特集で、現代作家による現代を舞台にした作品17冊を取り上げています。今回は現代物なので、ほとんどが2000年以降の作品ですが、何冊かは数年前に絶版になっている本もあるんです。「こんないい本、(出版社さん)ちゃんと出してよ」というメッセージですね。そのなかの1冊は、ありがたいことに早くも別の出版社が復刊を検討してくれています。冊子を置いてくれている書店さんが、ブックフェアをやってくれたり、年4回出るなら常設の棚を作るよ、と言ってくださったり、いろいろとうれしい反響もいただいています。
今回は5000冊印刷したのですが、2カ月しないうちにほとんどなくなりました。公共図書館、2000館くらいに送っています。今の時代、インターネット上にHPを作って見てもらうようなやり方にすればコストは抑えられるのかもしれないけど、現物があったほうがインパクトが大きいし、それにやっぱり、基本的に紙媒体のほうが好きなんですよね。実感があるし。もちろん、FacebookやWebサイトもあって、PDF版を無料ダウンロードしていただけます。

――昨年12月には第2号も出たのですね。

第2号は「本に感動、映画に感激」と題して、映画の原作本を紹介しています。もちろん、映画も原作もおもしろいものを選んでいます。ほかにも、ファンタジーとか、欧米以外の国の作品とか、いろいろやりたいテーマがあるので、気力とお金が続くかぎり、これからも出していきたいと思っています。

――昨年からはじまった「日本翻訳大賞」の第2回も始まりました。金原さんは審査員をなさっていますね。

はい。「日本翻訳大賞」は翻訳家の西崎憲さんが発起人で、クラウドファンディングで資金を集めてスタートさせた、翻訳作品に贈る賞です。第1回大賞に選ばれた2作品のうちのひとつ『カステラ』は、受賞後にけっこう売れたようで、増刷がかかりました。
一般読者の推薦10作品と審査員5名の推薦5作品が候補作となり、審査員が二次審査を行うかたちですが、第1回は審査員がぼく以外は純文学系の方だったこともあり、候補作も純文学系が多かったです。今ちょうど、第2回の読者推薦を受け付けている期間ですが、ぼくとしてはもっと児童書やエンタテインメント系が増えてくれるといいなと思っています。


ヤングアダルト翻訳の第一人者として名を知られている金原さんが、高校時代には英語に苦手意識を持っていたとは驚きました。興味を持ってたくさんの本を読むこと、そして物語を楽しんで読むことが大事なのですね。後編では自分が探してきた本を出版に結びつける、金原さんの持ち込み術をたっぷり語っていただいています。お楽しみに。

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<かねはらみずひと>

1954年、岡山県生まれ。1985年に法政大学大学院英文学専攻博士課程を満期退学。1998年より法政大学社会学部教授。YA、ファンタジー、エスニックの分野を中心に訳書は400冊を越える。主な訳書は『ジゴロとジゴレット―モーム傑作選―』(新潮社)、『豚の死なない日』(白水社)、『青空のむこう』(求龍堂)、『国のない男』(NHK出版)など。監修した本に『10代のためのYAブックガイド150!』(ポプラ社)など、著作に『サリンジャーに、マティーニを教わった』(潮出版社)、『怪談牡丹灯籠』(岩崎書店)などがある。

<最新情報>

『BOOKMARK』第2号
「本に感動、映画に感激」(2015年12月発行)

<主な翻訳作品/著作>


『さよならを待つふたりのために』(岩波書店)


『ジゴロとジゴレット: モーム傑作選』(新潮社)


『じどうしゃトロット』(そうえん社)


『月と六ペンス』(新潮社)


『今すぐ読みたい! 10代のための YAブックガイド150!』(ポプラ社)

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