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トラマガ

Vol.362 <前編>出版翻訳家 富永晶子さん

スター・ウォーズの壮大な世界をたっぷり詰め込んだ関連本。
詳しい知識をベースに、深く、熱く、伝えたい

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(2016年2月10日更新)
子どもの頃から英語や翻訳を身近に感じながら育ったという富永晶子さん。翻訳者であるお母さんが仕事に没頭する背中を見て、「翻訳は面白いに違いない」と思ったのだそうです。その後、さまざまな関連本を翻訳することになるスター・ウォーズとの出会いは、やはり敬愛するお母さんの訳書でした。本を読み、映画を観るうちに、スター・ウォーズの世界観に魅了されていったといいます。それでは、まずは富永さんがどのように翻訳の道に近づいていったのか、そこからお話を伺うことにしましょう。

英語への興味は、ロックと映画から始まった

――子どもの頃から本が好きだったそうですね。

はい。小さい頃、母がよく読み聞かせをしてくれました。ファンタジー小説の『はてしない物語』やタイムトラベルを題材にした『トムは真夜中の庭で』など、当時難しいと思うような本もありましたが、おかげで想像力が豊かになったと思います。
自分で読むようになって初めて好きになった本は、母が揃えてくれた「赤毛のアン」シリーズです。主人公のアンと私では育った環境も生い立ちもまったく違いますが、アンに感情移入して、物語のなかのエピソードを自分が経験しているように読んだことを覚えています。

――好きな本は、翻訳小説が多かったようですね。

言われてみるとそうですね。ただ、この頃はまだ物語が楽しいから引き込まれて読んでいただけで、翻訳書ということを意識したとか、翻訳をしてみたいと思ったとか、そういうことはありませんでした。

――では、英語に興味を持ったのはいつ頃ですか?

母が英語教室を開いていたので、子どものころから自然と興味をもっていました。年上の生徒さんたちにまじって、小学校高学年頃から一緒に勉強していました。英語はとにかく大好きで、中学、高校と英語の授業には夢中でした。
真剣に英語の勉強をしようと思ったきっかけは、中学生時代に海外のロックミュージックを好きになったことです。ニルヴァーナやホールといった、いわゆるグランジと呼ばれていたバンドが好きでした。そのときに歌詞を原語そのままのニュアンスで理解できるようになりたいと強く感じたのと、英語がわかると理解できる情報の量が格段に増えるだろうと考え、もっと英語を勉強したいと思いました。

――歌詞を自分で翻訳してみたりしたのでしょうか?

はい。歌詞を覚えて口ずさんだり、聴きとって書き起こしたりもしました。また、歌詞カードの対訳を見て、どうしてこの英語がこのような日本語に翻訳されているのかと考えたりもしました。

――映画はいかがでしょう。富永さんは映画関連の訳書が多いようですが、映画も好きでしたか?

はい。映画は大好きで、中学生時代からたくさん観ていました。大学を卒業してからは、せっせと試写会に応募し、新作映画を観にいっていました。
いまでも時間があれば劇場に足を運ぶようにしています。好きな作品はいろいろありますが、ここ数年でとくに印象に残っているのは、オリンピックの金メダリストが殺されるという衝撃の実話を描いた『フォックスキャッチャー』と、もう一作はドキュメンタリー作品の『The Imposter』(日本未公開)です。これはフランス人詐欺師が、数年前に行方不明になった髪の色も目の色も年齢も違うアメリカ人の少年になりすまし、さらには彼らの家族に受け入れられるという、とうていありえないような実際の事件に基づいた映画ですが、途中からストーリーが思いがけなく急展開していき、引きこまれました。

翻訳は見よう見まねの独学からスタート

――洋楽が好きで、映画が好きだった富永さんですが、翻訳家になろうと思ったきっかけは何ですか?

実は、母が翻訳の仕事をしていたので、小さいころからずっと自宅で母が翻訳をする姿を見て育ちました。仕事に没頭する母を見ていて、「翻訳って、よっぽど面白い仕事なんだな」と思っていたんです。子どもながらに、英語の本が日本語になって、そのおかげでそれを読める人が増える、という単純なことに感動したのを覚えています。
大学で英語を専攻し、母の翻訳の手伝いをするようになり、下訳をしているうちに自分もこの仕事につきたい、と思うようになりました。

――ご自身でなさった最初の仕事は何ですか?

最初の訳書は、スター・ウォーズ エピソード2の関連書籍『スター・ウォーズ エピソード2 キャラクター&クリーチャー』です。母が訳したティモシー・ザーン著のスター・ウォーズ「スローン」3部作を読み、スター・ウォーズの世界にはまりました。
もちろん、その前からスター・ウォーズの存在や、ヨーダやR2-D2などの有名キャラクターのことも知っていましたが、好きになったきっかけは「スローン」3部作を読んだことです。その後、映画のオリジナル3部作を観て、さらに夢中になりました。
翻訳本も映画もどちらもそうですが、それぞれのキャラクターに魅力があること、悪役も同じくらいよく描けていること、それまで観たどの映画とも違っていい意味で期待を裏切るストーリーであること、などが素晴らしいですね。とくにスター・ウォーズ エピソード5の『帝国の逆襲』を初めて観たときは、悪役が勝利をおさめたところで映画が終わるという意外な展開がとにかく衝撃的だったのを覚えています。
その後、母の下訳をしているうちに、キャラクターや惑星などにもさらに詳しくなり、その知識を買われて、2001年に「エピソード2の関連書を訳してみませんか」と声をかけていただきました。

――翻訳の勉強としては、どのようなことをしましたか?

大学時代、図書館で借りた原書を自分なりに訳して、実際に出版されている訳書と比べて、独学で勉強しました。サリンジャーの『ライ麦畑でつかまえて』、ドナ・タートの『シークレット・ヒストリー』、スティーヴン・キングの『恐怖の四季』、ブコウスキーの『くそったれ! 少年時代』などを教科書代わりに使いましたが、この勉強法はたいへん役に立ちました。
自分の拙い訳文と実際に商品として売られている訳文を比べることで、英語の直訳ではなく、いかにその文脈にふさわしい日本語で表現するかが大切だとわかりました。例えば、“It is raining today.”という英語も、中学校の授業だと「今日は雨です」ですが、「降ってるねえ」とか、「朝から雨だなんて、ツイてない」など、文脈のなかで、そのときの状況やこの言葉を口にする人の性格により、いろいろな訳し方があるんだな、と気づかされたんです。
母の下訳をしていた頃には、そのときどきに訳していたものをテキストにして、近隣の翻訳者志望の方々と一緒に勉強会をしたこともありました。英語を日本語にするにはかなり想像力を働かせる必要があることや、小説の翻訳の場合には作中の人物になって考える必要があることなどを、この頃の勉強会で知りました。
それから、なんといってもいちばん勉強になったのは、私が下訳した原稿に入った赤字を読んで、どのように直されているのかを見ることでした。

――実際に出版される本を下訳し、そこに入れられた赤字を読むというのは、まさに実践的で、勉強になりそうですね。

 そうですね。自分で翻訳の仕事をするようになってからも、編集の方々が入れてくださった赤字はとても勉強になりました。英語で読んでいる自分にしかわからないような訳ではなく、日本語だけを読む読者にきちんと伝わる訳にしなければならない、という翻訳の基本も、編集者さんの赤字から学んだ気がします。


翻訳するお母さんの背中を見て育ち、ご自身も翻訳に興味を持ったという富永さん。そして大学時代に独学で翻訳を勉強するうちに、その面白さに気づき、この道を進もうと心を決めました。後編では、愛らしい絵とストーリーで話題を呼んだあの絵本シリーズにまつわるエピソードもご紹介いただきます。どうぞお楽しみに!

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<とみながあきこ>

獨協大学外国語学部英語学科卒。英国王立音楽大学大学院卒。 主な訳書に『スター・ウォーズ オビ=ワン・ケノービの伝説』(エフエックス)、『スター・ウォーズ コスチューム大全エピソード4・5・6』(講談社)、『アルティメット・スター・ウォーズ(完全保存版大百科)』(学研マーケティング)、『ダース・ヴェイダーとルーク(4才)』(辰巳出版)、『スノーホワイト』(竹書房)、『ベネディクト・カンバーバッチ 覚醒』(ビジネス社)などがある。

<主な翻訳作品/著作>


スター・ウォーズ ジェダイ・アカデミー ファントム・ブリー(辰巳出版)


『スター・ウォーズ コスチューム大全 エピソード4・5・6』(講談社)


『リトル・プリンス 星の王子さまと私 アートブック』(宝島社)


『猿の惑星 ファイヤーストーム』(角川書店)


『ベネディクト・カンバーバッチ 覚醒』(ビジネス社)

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