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トラマガ

Vol.370 <前編>ゲームローカライズ ソニー・インタラクティブエンタテインメント

壮大な世界観がプレイヤーを虜にする
ゲームローカライズの今

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(2016年6月6日更新)
今回は、家庭用ゲーム機「プレイステーション」と「プレイステーション」専用ゲームソフトの開発・販売を行う会社、ソニー・インタラクティブエンタテインメント ワールドワイド・スタジオのJAPANスタジオを訪問。同社の海外スタジオで開発された英語版ゲームソフトウェアの日本語ローカライズを担当している、ビジネスデベロップメント部ローカライズ課の課長、永井ジョナ勝さんと、ローカライズスペシャリストの谷口新菜さんにお話を伺いました。ゲームローカライズとはどんな仕事なのか、どのような翻訳があるのか、さっそくご紹介しましょう。

ローカライズのすべてを管理する専門職、ローカライズスペシャリスト

――まず、日本のゲーム事情について教えてください。最近はどんなゲームが人気ですか?

谷口:RPG、アクションゲーム、パズルゲームなどは相変わらず人気ですね。ここ数年の傾向でいうと、インディーゲームが人気上昇中で、今後も注目です。規模の小さな開発スタジオや数人のチームが低予算で開発したゲームで、それぞれオリジナリティにあふれているのが特徴です。日本に限らずゲーム業界では、莫大な費用をつぎ込んで開発し数百万本のヒットが見込まれるAAA(トリプルエー)と呼ばれるタイトルとインディーゲームの二極化が進んでいると思います。

――海外のゲームを日本語にローカライズしたゲームの人気はどうでしょう?

谷口:日本市場では、以前から日本で開発されたゲームのほうが人気があります。しかし、海外で開発されたゲームも最近は受け入れられるようになってきた感じがしますね。

永井:そうですね。海外ものは「洋ゲー」と呼ばれたりしますが、日本人に人気がなかった頃の洋ゲーは、人間の顔がゴリラみたいだったりしました(笑)。そんな理由で毛嫌いする人も多かったのですが、その後、ゲーム開発の技術が進み、画像が実写にかなり近くなってきました。最近のものは、まるでCGの映画を見ているようなきれいな画像になったので、それも受け入れられるようになった要因ではないかと思います。

谷口:それから、以前は字幕でしたが、最近は日本語吹替版のゲームが主流になり、プレイしやすくなりました。それも人気が上がってきた理由だと思います。

永井:特にアクション性の高いゲームの場合、プレイしながら字幕を読まなければならないとなると脳内処理が追いつかない。それが吹替だと純粋にプレイに没頭できますから。

――なるほど。それでは、ローカライズについて教えてください。まずローカライズにはどのような人が関わっているのですか?

谷口:プロジェクト全体を管理するのは、プロジェクトマネージャー(PM)です。スケジュール進行、予算管理、マーケティングなどを担当し、プロジェクトの全体を取り仕切ります。だいたい1名ですが、大きなプロジェクトになると2名つくこともあります。
英語から日本語へのローカライズに関しては、ローカライズスペシャリストが担当します。これも通常1名ですが、2名で担当することもあります。私もローカライズスペシャリストのひとりです。
PMとローカライズスペシャリストがチームとして連動して作業を進めていきますが、ローカライズに関してはローカライズスペシャリストにほぼ一任されています。

――ローカライズに深く関わるのはローカライズスペシャリストということですね。では、具体的な仕事の内容を教えてください。

谷口:はい。まず、海外とやりとりをしながら、送られてくるアセットの管理をします。アセットとは、ゲームソフトに組み込まれる予定の映像、サウンド、スクリプトなどさまざまなファイルのことです。先にスクリプトだけ送られてきたり、途中で差し替えになったりと、いろいろなことが起こるので、アセットの管理は最重要事項です。
それと並行して日本語版制作の準備を進めます。最近主流の吹替版を例にとると、音声の収録会社と連絡を取りつつ、オーディションを行うなどして登場人物の声を担当していただく声優を決定します。
それから台本づくりです。台本の翻訳は、社内で行うこともありますが、7割がたは収録会社にお願いします。やり方は収録会社によって違うと思いますが、大きなプロジェクトだとスケジュールに合わせて複数の翻訳者に割り振って台本の翻訳を依頼し、収録会社がスケジュール管理やとりまとめを行うといった流れになると思います。ローカライズスペシャリストは、その出来上がってきた台本をチェックし、脚色をしていきます。
台本が完成したら収録です。収録にはすべて立ち会い、日本語版の音声データを完成させ、海外に納品します。
しばらくしたら日本語の音声が実装されたゲームデータが届くので、いよいよ最終段階、隅々までチェックを行います。社内にQA(品質管理)専門のチームがありますが、作品をいちばんよく知っているのは我々ローカライズチームなので、QAチームと協力しながら、自分たちの目でもしっかりと精査します。そのうえで変更すべき点が見つかれば、再度収録を行い、海外に連絡をして変更し、それを繰り返して完成までもっていきます。

――台本づくりについて、収録会社に依頼することもあれば、社内で行うこともあるということですが、それはどのように決めるのですか?

永井:ローカライズスペシャリストがその作品に思い入れがあり、翻訳からすべて自分でやりたいと申し出があったときは、スケジュール的に余裕があればですが、その担当者に任せることにしています。そんなふうに情熱を持って仕事に取り組むことが、いちばんいい結果につながりますから。しかし、大抵はスケジュールが厳しかったり、翻訳量が膨大だったりするので、社内で翻訳するのは難しく、結果的に収録会社にお願いすることが多くなります。

谷口:それに翻訳が必要なのは台本だけではなく、ゲーム内のUIやテキストの翻訳、それから発売前に公開するプロモーションビデオの翻訳などもあるんです。それらはローカライズスペシャリストが行うので、台本の翻訳まで行うのは時間的に無理な場合が多いですね。


■『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』ストーリートレーラー


セリフ一つひとつが作品の世界観をつくりあげる

――翻訳されてきた台本のチェックと脚色を行うということですが、具体的にどのようなことをするのですか?

谷口:まず、リップシンクと尺合わせです。「リップシンク」はセリフが画面に出てくる登場人物の口の動きに合っているかどうか、「尺合わせ」はセリフの長さが登場人物の口が動き始めてから止まるまでの間にぴったり収まるかどうか、ということ。「プレイステーション 4」になってグラフィックが非常に鮮明になったので口元がよく見えますし、登場人物の表情も豊かになりました。それは良いことなのですが、ローカライズをより難しくしているとも言えます。数年前のグラフィックなら口の形はそこまで気になりませんでしたが、今のグラフィックはまるで映画と同じです。よく見える口元にセリフをぴったり合わせる必要がありますし、例えば登場人物が眉間にシワを寄せていれば、セリフもそれに合った内容になっていなければなりません。
そうした点に気をつけてセリフを直していきながら、同時に脚色もしていきます。開発サイドから届いたさまざまな資料を元に、ときには開発者と直接やりとりをして思いを受け取りつつ、作品の世界観を自分の中につくりあげ、それを作品に反映させていきます。日本語の場合は、例えばセリフの語尾を変えたり、言い回しを変えるだけで、話者から受ける印象が違ってきますよね。それを変えるだけでなく、セリフ自体を大きく変えることもあります。

――では、元の台本はかなり変わることになりますか?

谷口:そうですね。基本的にどんな翻訳者さんの訳でもかなり直します。それは誤訳だとか翻訳が悪いということではなく、それがローカライズスペシャリストの仕事だからです。ですから、収録会社を通して翻訳者さんに真っ赤になった原稿がフィードバックされたとしても、めげないでいただきたいですね。

永井:原稿が真っ赤になるというのは、それだけ作品に対する思い入れが強く、ローカライズスペシャリストがちゃんと考えて仕事をしている、ということだと思っています。

――翻訳者には下訳としてあまり脚色せずに訳してほしいということになりますか?

谷口:いえ、そうは思っていません。最終的に尺合わせはこちらで行いますが、翻訳者さんが翻訳するときも尺を意識して合わせておいてほしいですし、セリフもキャラクターによって口調を変えるなど工夫をしていただきたいです。ただし、極度なキャラ付けは、「シリーズ物で前作に登場したキャラクターを完全に把握しています」という場合を除いては、あまりしてほしくはないですね。その点では、後で脚色されることを意識して訳していただけると助かります。
ときどき「この翻訳者さんの訳はとてもよかったです」とフィードバックすることがあるのですが、それはいい感じに意訳していただいているときですね。作品の雰囲気をうまくつかんで意訳していただいていると、脚色するときにもやりやすくて、とても助かります。意訳をほとんどしない翻訳者さんも多くて、「もっと意訳をしてくれてもいいのになぁ」と思います。ただ、そこはさじ加減が必要で、意訳のしすぎは困るので、難しいところではありますが。

――他にも翻訳する際に翻訳者に気をつけてほしいことなどありますか?

永井:ゲームのローカライズとして気をつけてほしいのは、セリフの中にはゲームを進めるうえで重要な情報がいろいろと入っていますので、それは落とさずに訳していただきたいということです。例えば、「あの柱だ」とすべきところを、尺合わせが必要だったとしても「あれだ」にされてしまっては困るんです。“柱”がゲームを進行をしていくうえで重要だからです。ただ、何が重要かは英語を見ただけでは判断できない場合もあります。情報が足りないところは、想像力で補って訳す必要があります。想像で補うときに助けになるのが、これまで実際にゲームをプレイしてきた経験です。いろんなゲームをやったことがあれば予想もつきやすくなるはずです。アクションゲームならアクションゲームの原則というものがあるので、それをわかっている人とわかっていない人とでは、翻訳の質が違ってきますね。


谷口:弊社の場合、基本的に世界同時発売ですので、ローカライズの段階ではまだ映像が最終段階のものではなかったり、場合によっては映像が間に合わずスクリプトと音声だけで翻訳していただいたりすることもあります。その状況は我々ローカライズスペシャリストも同じで、そこは想像力で補うしかないんです。その結果、いろいろな可能性が考えられる場合は、日本語吹替の収録の際に想定される数パターンのセリフを録っておくといったことで対処しますので、翻訳者さんからも気づいた点は注釈でお知らせいただけると大変助かります。


海外とのやりとりから、台本づくり、収録、そして最終チェックまで、ローカライズのすべてを取り仕切るのがローカライズスペシャリストの仕事なんですね。後編では谷口さんが担当した最新作『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』について、ローカライズの際のエピソードをお聞きしました。お楽しみに。

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ソニー・インタラクティブエンタテインメント

ソニー株式会社のグループ企業のひとつで、家庭用ゲーム機「プレイステーション」のハードウェア、ソフトウェア、コンテンツ、ネットワークサービスの4つのビジネスを展開する。東京、サンマテオ、ロンドンをはじめとした世界各地に拠点を持つ。これまでに『アンチャーテッド』シリーズ、『The Last of Us』『Heavy Rain -心の軋むとき-』など、多数の海外ゲーム作品の日本語ローカライズも手掛ける。

永井ジョナ勝さん:同社 ビジネスデベロップメント部 次長 兼 ローカライズ課 課長

谷口新菜さん:同社 ビジネスデベロップメント部 ローカライズ課 ローカライズスペシャリスト

<主な翻訳作品>


『アンチャーテッド 海賊王と最後の秘宝』


『Heavy Rain -心の軋むとき-』


『BEYOND: Two Souls』


『Everybody’s Gone To The Rapture -幸福な消失-』


『inFamous Second Son』


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