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トラマガ

Vol.376 <前編>映像翻訳家 寺本亜紀さん

映像翻訳家、ライター、キャリアコンサルタント、
自身のキャリアを生かしつつ、可能性を広げていく。

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(2016年9月5日更新)
映像翻訳家、ライター、キャリアコンサルタントと“三足の草鞋”を履いて活躍する寺本亜紀さん。「自分自身の未来のための準備を」そんな思いで、学生時代に勉強した英語を学び直す決意をしたのは今から十数年前、専業主婦で子育てに追われていた頃でした。その後、映像翻訳のトライアルに見事合格して翻訳家デビュー。ドキュメンタリーを中心に、順調に翻訳のキャリアを重ねていきました。それでは、寺本さんが実現させた“ライフキャリア”について、お話を伺うことにいたしましょう。

英語を勉強し直して、専業主婦から映像翻訳家へ

――専業主婦の頃、子育てをしながら勉強し、映像翻訳家を目指されたそうですね。

はい。妊娠するまで会社に勤めていましたが、出産後、2人の子どもの子育てがあり、また夫が転勤の多い仕事だったこともあって、十年程専業主婦をしていました。ただ、子どもはいずれ巣立っていきますし、自分自身の未来のために何かやりたいと思っていたので、子育てのかたわら通訳者養成学校に通いはじめたんです。夏休みには毎年1カ月間子どもを連れてカナダ、アメリカ、オーストラリアなどに親子留学もして、親子で英語力アップを目指しました。

――通訳者養成学校ということは、いずれは通訳者になりたいと思っていたのですか?

そういうわけではないんです。はじめは近所の英会話スクールに通っていたのですが、物足りなく感じ始めて……。ビジネスで通用する、使える英語を身につけたかったので、もっと厳しいスクールで学びたいと思い通訳学校に変えました。実際、英語力はアップしていきましたので、通訳学校を選んで正解だったと思います。  
ただ、まだ子どもも幼かったので、外に出なければならない通訳の仕事は難しいと感じはじめました。英語力を生かし、かつ子育てをしながらできる仕事は何だろうと考え、翻訳にたどりつきました。映画やドラマが好きだったので、どうせなら好きなジャンルを仕事にしたいと思い、映像翻訳学校で学ぶことにしたんです。字幕・吹替・ボイスオーバーの講座をひととおり受講し、卒業生対象のトライアルに挑戦したところ無事合格。初めて映像翻訳の仕事をいただいたのは、2006年のことです。

――映像翻訳家として順調な滑り出しですね。初仕事はどのような内容でしたか?

プロフェッショナルな職業人にインタビューする30分番組で、私が依頼された回はメークアップアーティストでした。アメリカでは有名な方ですが、日本ではほとんど知られていなかったこともあり、ほとんど情報がありませんでした。メークアップアーティストという仕事についての知識もなかったので、調べものにはかなりの時間をかけました。また、予備知識を仕入れるために、彼女が書いた本を取り寄せて原書で読んだり、公立図書館で貸出禁止になっていたメークアップの専門用語の辞典で表記や意味を調べたりしました。仕事と子育ての両立にも苦労しましたが、ようやくつかんだデビューのチャンスでしたので「いま頑張らなければ、いつやるんだ」と自分を鼓舞して乗り切りました。最初の仕事の出来が悪かったら、その後の依頼はないということを友人から伝え聞いていたので必死でした。その甲斐あってか、その後も続けてお仕事をいただくことができました。

――その後、どのようにして仕事の幅を広げていきましたか?

映像系の制作会社や翻訳会社のWebサイトなどで見つけた翻訳者の求人に応募し、いくつかトライアルを受けました。翻訳者ネットワーク「アメリア」 の会員でもあったので、求人情報を大いに活用しました。 仕事の実績があったこともあり、幸いなことに制作会社などのトライアルにはほとんど合格しましたが、合格したからといってすぐに仕事を依頼されるわけではありません。トライアルに合格しても仕事の依頼がこないことももちろんあります。一度仕事したきり二度と依頼されないこともあります。非常に厳しい世界です。もし登録後に連絡が何もこない場合は、「先日はありがとうございました。何か仕事の依頼がありましたらぜひご連絡ください」などと、お礼の言葉とともにさりげなく自分の存在をアピールしてみるのもいいかもしれません。
それから、合格して登録された会社には、契約等で直接ご挨拶する機会があると思います。実際の仕事ではメールや電話だけのやりとりになりますが、一度でも顔を合わせて直接お話ししておくことで、その後のメールのやりとりでも、相手の真意をくみとりやすくなると思います。やはりコミュニケーションは大切ですね。

――トータルで何社くらいとお付き合いがありましたか? また、会社によって仕事の仕方に違いはありますか?

そうですね、仕事をしたことがあるのは、だいたい7、8社くらいでしょうか。ノンフィクションやドラマなどジャンルによって、あるいは制作会社によっても、やり方は異なります。例えば、原稿の書き方ひとつとっても違うので、指示をよく確認して、臨機応変に対応するようにしています。 仕事を始めてから、わりと順調に仕事をいただけたのは、おそらく相手が何を求めているかを見極め、できる限り応える、もし行き違いがあったら気づいたときに素早く修正する、ということが出来ていたからではないかと思います。なかには、「こんなことを質問したら、仕事ができない人だと思われて次から仕事がこなくなるかもしれない」と質問しない翻訳者もいるようですが、担当の方は、それとは逆に「わからないまま間違った解釈で翻訳されても困る。不明な点は聞いてくれれば答えるのに」と考えているかもしれません。翻訳者とコーディネーターのコミュニケーション不足で、制作者が意図することが視聴者に伝わらないことはあってはならないと思います。目指す方向性をあわせることで、結果としてよい作品になるのではないでしょうか。

セリフだけでなく、そのシーンの意味を考えて訳す

――ドキュメンタリー作品以外に、子どものための映画も翻訳なさっていますね。

はい。2007年にアメリアで、「キンダー・フィルム・フェスティバル」(2015年より「キネコ国際映画祭」に改名)という、子ども向けの作品を集めた映画祭がボランティア翻訳者を募集していることを知りました。小さな子どもを持つ母親として、子どもに夢を与える作品を翻訳したいという思いがあり、応募しました。当時はまだまだ駆け出しの翻訳者でしたので仕事の依頼を待つ形でしたが、この映画祭は自分が翻訳したい作品を選んで応募、選出される形ですので楽しかったですね。結局2007年から2015年まで9年連続で翻訳に参加しました。 そのなかで2014年に担当した作品は、私にとって大きなチャンスにつながりました。『ちいさなバイオリニスト(FINN)』という90分の作品で吹替翻訳を担当したのですが、映画祭で上映され半年ほど経った頃にオランダ大使館の方から「『EUフィルムデーズ2015』で上映するために吹替翻訳ではなく字幕翻訳をしてほしい」という仕事依頼の連絡をいただいたのです。もちろん喜んでお引き受けしました。字幕版は『EUフィルムデーズ2015』で上映され、さらに多くの方々に観ていただくことができました。

―― 一本の映画を吹替と字幕で翻訳されたんですね。他にも思い出に残っている翻訳作品はありますか?

通常の映像翻訳者の仕事は、字幕翻訳や吹替翻訳、ときにボイスオーバーだったりすると思いますが、そうではない少し変わった翻訳をしたことがあります。それは、映画を撮影する前の英語の脚本を日本語に翻訳するというものでした。監督はアメリカ人でしたが、日本語のショートフィルムを撮りたいと。そこで彼が書いた英語の脚本を日本語の脚本に書き換える必要があったんです。その映画脚本翻訳が私の仕事でした。
映像翻訳であれば、出来上がった映画を観ながら翻訳するわけですが、この場合は映画を撮影するための脚本ですので映像がありません。英語脚本のセリフとト書きから監督の意図を読み取る必要がありました。その4年後に同監督から再度声が掛かり二度目の日本語脚本を手掛けました。映画脚本翻訳をすることで、制作者側の視点を持つことができたことはとても良かったと思います。それがその後翻訳するうえで役に立っている気がします。

――どのようなかたちで役に立っているのでしょうか?

以前の私は、翻訳者としてまずどんなセリフを言っているのかという言葉のほうに意識がいっていました。しかし脚本を書いたあとの私は、セリフの言葉そのものだけでなく、作品全体のなかでこのシーンはどういう役割があるのか、ここでこのセリフを言うのはなぜか、この次にくるシーンでは何が語られるのか、と作品全体を見わたせるようになったんです。制作者目線で映画を見られるようになったということでしょうか。それまで以上に、より制作者の意図をくみとった翻訳になるように心掛けるようになりました。


自分から積極的に映像翻訳家の道を切り拓き、キャリアを積み上げてきた寺本さん。しかし、このあと映像翻訳に留まることなく、さらなる可能性を追い求めます。ご自身のスキルを生かして次に何を目指したのか。寺本さんのその後のお話をどうぞお楽しみに。

寺本先生が講師を務める講座

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<てらもとあき>

英日の映像翻訳家。最先端の科学技術から野生生物、エンタメまで、ディスカバリーチャンネルやナショナル ジオグラフィックなどの番組で、多岐に渡るジャンルのドキュメンタリー作品を数多く手掛ける。映画の翻訳は、世界の三大映画祭の一つベルリン国際映画祭に出品されたオランダ・ベルギー映画『ちいさなバイオリニスト(FINN)』(字幕・吹替)、デンマーク映画『スーパーブラザー(Super Brother)』(吹替)など。また、映画脚本翻訳としては『The First Time』や『生まれつき-Born with it-』がある。ライターやキャリアコンサルタントとしても活動中。2016年からライフキャリアに関する情報発信やキャリアカウンセリングを行う「ライフキャリアネット」を主宰する。

<関連リンク>
ライフキャリアネット
寺本さんのHP



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