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トラマガ

Vol.377 <後編>映像翻訳家 寺本亜紀さん

映像翻訳家、ライター、キャリアコンサルタント、
自身のキャリアを生かしつつ、可能性を広げていく。

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(2016年9月15日更新)
映像翻訳家として順調なスタートを切った寺本さんですが、その後、ライター、そしてキャリアコンサルタントと多方面に活躍の場を広げていきます。ただ、仕事の内容は違っても心掛けていることは常に同じ。「待つよりも自分から積極的に」そして「任せてくれる人には一生懸命お返しする」という信条が、寺本さんを成功に導いてくれました。自分は何をしたいのか、自分の持つスキルで何ができるのか、寺本さんがたどったキャリアパスは皆さんにも参考になるかもしれません。では、お話を伺いましょう。

待っていても仕事は来ない、いつも自分から積極的に

――2006年から映像翻訳の仕事を始めて、2007年にはライターの仕事もするようになったそうですね。

ライターの仕事は、編集プロダクションがライターを募集していると聞いたときに「ぜひ、やらせてください」と申し出ました。自分で企画を提案して構成を考え、それを実現させるために動き回り、人にインタビューをしてまとめるという仕事が、自分に向いているんじゃないかと思ったんです。最初に企画が採用されたのが、日経BP社のWebサイト、日経トレンディネットの特集記事『L-Cruise』でした。月に数本、特集を担当し、当時現役のF1ドライバーだった佐藤琢磨さん、直木賞作家の石田衣良さん、歌舞伎役者の市川段治郎さん(現 二代目喜多村緑郎さん)など、さまざまな分野で活躍される著名人の方々のインタビューを記事にまとめました。

――翻訳の仕事とライターの仕事、両方やろうと思ったのはどうしてですか?

映像翻訳の仕事を始めたばかりの頃は、年末年始もなく無我夢中で翻訳の仕事を続けていました。でも、仕事の依頼が来ずスケジュールがぽっかり空くことがあれば不安になることも。「制作会社から連絡が来ない」「次の仕事はいつ来るのか」と待ち続けるよりも、来ないなら、自分で次の扉を叩けばいいじゃないという思いもありました。
だからライターの仕事のチャンスが巡ってきたときには、すぐに挑戦しました。翻訳の仕事もライターの仕事も、一度仕事をすると私を信用して「次の仕事も任せたい」と言ってくださる方もいます。できる限りそういった方々の期待に応えようと思い、どちらも続けてきました。それに、視聴者や読者にわかりやすく伝えるといった意味では同じですので、相乗効果もあったのではないでしょうか。

――相乗効果というと、例えばどういうことでしょう?

翻訳の仕事は内容を選べません。依頼された仕事が「できる」か「できない」かのどちらかです。でも、だからこそ自分の知らない世界に踏み込んでいくことができ、どんどん知識が増えていきます。雷などの自然科学、戦車や戦闘機、ミステリー、大自然の野生生物、火星探査……、これまで手掛けたテーマは多岐にわたります。知的好奇心が満たされ、視野がどんどん広がっていくのが楽しくて仕方ありませんでした。
ライターの仕事のほうは、自分で企画を考えてそれを提案し、編集部からOKをもらうことで仕事が始まります。意識的に相乗効果を狙ったことはないので直接的なつながりではないかもしれませんが、翻訳で得た知識、広がった知的好奇心があるからこそ、企画の幅も広がっていったのではないかと思っています。

――複数の仕事をしていると、スケジュール管理が大変ではありませんか?

翻訳やライティングの両立を始めてから10年、担当者の方とのお付き合いも長くなりました。最近はスケジュールの都合でどうしてもお断りしなければならないこともあります。申し訳ないと思いながらも、無理してお引き受けしてご迷惑をおかけすることは避けなければなりません。 ただ、仕事をはじめたばかりの頃は、「絶対に断らない」を信条に、どんなに無理をしてもやりきる覚悟で、いただいた仕事は全部引き受けていました。まだ駆け出しの分際で断ったりしたら、次の仕事はまず来ないと思ったからです。子どももまだ小さかったので、家族にも迷惑をかけたと思います。例えば、12月28日に連絡が来て、「年明けの仕事始めの日に納品してください」と。それでも絶対に断らないと決めていたので、お正月返上で仕事をしました。子どもたちに申し訳ないといった思いもありましたが、元日の初詣などは一緒に過ごすように心掛けました。私が働く姿を見て育った子どもたちも大学生や社会人になり、今では「尊敬する」と言ってくれるように。家族の支えがあったからだと心から感謝しています。

自分は何をしたいのか? 納得して進む、それがライフキャリア

――キャリアコンサルタントの国家資格を取得し、今年からはその仕事も始められたそうですね。

実は2013年から今年まで約3年間、フリーランスの傍ら、大手企業の全社員研修用の教材制作をしていました。企業の人事部やコンプライアンス部の担当者からヒアリングをしてどのような教材にしていくかを打ち合わせ、教材の執筆をしていくのです。テキストだけでなく、パワーポイントで教材制作したり、ときには動画制作も行いました。もともと結婚前に社員研修のインストラクターをしていましたし、大学生の子を持つ親としても、人材育成にはとても興味がありました。また、ちょうど同時期の3年間ライターとして大手サイトで英会話やキャリアに関する記事を書いていたこともありキャリア形成のお手伝いができればと考えるようになりました。それで激務のかたわら、週末にキャリアコンサルタントの養成学校に通い、国家資格を取得しました。その後、相談経験を活かし上級国家資格である2級キャリアコンサルティング技能士も取得。今年(2016年)6月には独自サイト「ライフキャリアネット」を立ち上げました。
私自身にも覚えがありますが、自分はこの先どうすればいいのか、何ができるのか、自信を失くし、もやもやとした感情を胸に抱えながら誰にも相談できず立ち止まっている人がたくさんいると思うんです。教育・研修トレーナーや社員教育用の教材執筆などの経験を生かして、皆さんの相談に耳を傾け、少しでもお手伝いできればと思っています。

――「ライフキャリア」というのは、どういう意味ですか?

「キャリア」というのは仕事のことですが、「ライフキャリア」というのは一生の道筋を意味します。仕事・学習・余暇・愛の4つの要素のバランスが取れていて、自分にも社会にも役立つ生き方を目指すのがライフキャリアの考え方です。ですから、仕事だけが大事なわけではありません。子育てに専念するという生き方でも、ボランティアで生き甲斐を感じるでもいい。自分自身が納得したうえでその状態でいるのであれば、それがその人のライフキャリアなのです。一人ひとりが納得できる生き方をするために少しでもお役に立てればと考えています。

――映像翻訳家、ライター、キャリアコンサルタントと3つの顔を持つ寺本さんですが、今後の方針、目的などありますか?

翻訳に関しては、秋からフェロー・アカデミーの通信講座「マスターコース」 の講師をさせていただきます。インストラクターをしていたこともあり、人に教えることには以前から興味がありましたので、このチャレンジをとても楽しみにしています。
キャリアコンサルタントとしては、キャリアカウンセリングだけでなく、キャリア形成やストレスマネジメントなどのセミナーやワークショップも開催して、一人でも多くの方が豊かな楽しみのある人生を過ごすことができるよう支援したいと考えています。立ち上げたサイトでは有益な情報を発信して、ライターのスキルや教材制作で培った知識を活かしていきたいと思っています。

――「マスターコース」ではドキュメンタリー作品を題材に教えていただけるようですね。

映像翻訳のなかで、ドキュメンタリーというのは新人が関わることが多い仕事です。需要の多いジャンルでもありますし、最終的に映画やドラマの翻訳をやりたいと思っている方であっても、翻訳や裏取りなどの正確さが求められるドキュメンタリーを学んでおけば、チャンスをつかみやすくなるでしょう。
調べものは大変ですが、それを乗り越えることができれば、映像翻訳家としてのキャリアをスタートさせることができるはず。求められる仕事をきっちりとこなし、ニーズに応えることで実力を付けて、次へのステップにしてほしいと思います。

――それでは最後に、学習中の方にメッセージをお願いします。

私は映像翻訳家として駆け出しの頃、仕事の幅を広げたいと翻訳者ネットワーク「アメリア」 に登録しました。翻訳というのは、自分はどれだけ成長しているのか、仕事獲得にどれだけ近づいているのか、その過程がなかなか見えにくいものです。その点、アメリアでは、まず「定例トライアル」で腕試しをしよう、「クラウン会員」を目指そうと、マイルストーンがたくさんあったのがよかったと思います。これを一つひとつクリアしていくことで自信がつきましたし、徐々に仕事に近づいているなと実感することもできました。もちろんアメリアでなくてもかまいません。小さな目標を一つひとつ実現していくことが大切ですね。  
人には何度か大きな転機があります。キャリア理論で有名なクランボルツの「計画された偶発性」では、「個人のキャリアは予想しない偶発的なことによって決定される」とされています。中長期計画でまっすぐ道を歩むことも大切ですが、好奇心や柔軟性をもつことで自分の可能性などが見えることもあります。結果的に、映像翻訳家、ライターさらにキャリアコンサルタントという3足の草鞋を履くことになりましたが、これが私のライフキャリアにつながっていくのだと感じています。自分はこの先どうしようか壁にぶちあたって悩んでいる人は、道を狭めずに、もっと柔軟に考えていろいろなことに挑戦してみるのもよいのではないでしょうか。


編集後記

子育てをしながら勉強を続けている方、翻訳者を目指している方がたくさんいらっしゃると思います。この先どうなるのか、不安を抱えている方も多いのではないでしょうか。そんな皆さんに、寺本さんのキャリアパスが少しでも参考になれば、そう思いました。チャレンジ精神を忘れずに、皆さんも頑張ってください!

寺本先生が講師を務める講座

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<てらもとあき>

英日の映像翻訳家。最先端の科学技術から野生生物、エンタメまで、ディスカバリーチャンネルやナショナル ジオグラフィックなどの番組で、多岐に渡るジャンルのドキュメンタリー作品を数多く手掛ける。映画の翻訳は、世界の三大映画祭の一つベルリン国際映画祭に出品されたオランダ・ベルギー映画『ちいさなバイオリニスト(FINN)』(字幕・吹替)、デンマーク映画『スーパーブラザー(Super Brother)』(吹替)など。また、映画脚本翻訳としては『The First Time』や『生まれつき-Born with it-』がある。ライターやキャリアコンサルタントとしても活動中。2016年からライフキャリアに関する情報発信やキャリアカウンセリングを行う「ライフキャリアネット」を主宰する。

<関連リンク>
ライフキャリアネット
寺本さんのHP



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