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トラマガ

Vol.378 <前編>特許翻訳者 大島祥貴さん

グローバル社会で活躍する日本企業を
特許翻訳で力強くサポートする

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(2016年10月5日更新)
グローバル化が進んだ現在、日本企業の経済市場は広く海外に及んでいます。そこで強い武器になるのが特許です。大島祥貴さんは、米国特許事務所で特許技術者として日本企業の米国特許出願をサポートする業務に携わっていました。その経験を生かし、日本企業が海外で『強い特許』を取得するために必要な特許翻訳のサービスを提供するべく株式会社米国特許翻訳社を設立しました。どのような思いで会社設立に至ったのか、また特許翻訳の業界はどのような現状なのか、お話を伺いました。

これでいいのか特許翻訳!? 見えてきた問題点を自分の力で改善しよう

――特許専門の翻訳会社を設立なさったきっかけは何ですか?

会社を設立する前、私はアメリカの知財法律事務所で働いていました。特許専門の法律事務所で、日本の企業がアメリカに特許出願をする際の実務を担当していたのです。クライアントである日本企業や、その代理人である日本の特許事務所から英語に翻訳された特許明細書が送られてきて、それをもとに特許出願をするわけですが、その書類に目を通していて次第に疑問を感じるようになっていきました。
特許出願は一度で通ることはまずありません。必ずといっていいほどRejection(拒絶)やObjection(異議)のNotice/Office Action(通知書)が送られてきます。それに回答して再び審査を受け、問題点が解消すれば、ようやく特許権が認められることになります。
アメリカの特許庁から送られてきたNoticeに対して、内容を確認し、意見書を英語で作成して返すことが私の仕事のひとつでしたが、日本企業がアメリカに出願する場合、特許そのものに不備があるというよりも、特許明細書の翻訳の質に問題があるために拒絶理由通知が送られてくることが多かったのです。つまり、翻訳が悪くて何を言っているのかわからないから、発明の内容が審査官にうまく伝わらないというわけです。
本来、最初に提出した明細書で明確に説明されていれば起こらないやりとりです。クライアントである日本企業には、この無駄なやり取りによって余計な時間とコストが掛かることにもなります。よりよい翻訳文を提供できれば、日本企業の特許活用の促進になる、それに貢献したいという思いで、特許専門の翻訳会社の設立を考えました。

――アメリカの知財法律事務所では、日本企業から送られてくる翻訳をチェックして、大島さんが直すということもあったのでしょうか?

それは基本的にありません。アメリカの知財法律事務所の仕事は、送られてきた書類を元に日本企業の代理として特許出願を行うことです。特許明細書は完成したものとして送られてきているので、それに手を加えることはクライアントから指示されない限りしてはいけません。勝手にそのようなことをすれば、責任問題にもなりかねませんから。

――翻訳文の質の改善に貢献するために、ご自身が翻訳する立場になろうと考えたわけですね。

はい、そうです。しかし、そう決心するまでにはさまざまな葛藤がありました。実は、アメリカの知財法律事務所に在籍していたのは、アメリカで特許弁護士になるという夢を持っていたからなんです。働きながらロースクールに通い、いずれは特許弁護士の資格を取ろうと思っていました。
ですが、実際に特許出願の業務に携わるうちに、自分が目指すべき仕事は本当に特許弁護士なのかと考えるようになりました。まわりを見まわすと優秀な特許弁護士はたくさんいますが、一方で特許翻訳の質に関しては問題があります。元の翻訳が良ければ、クライアントの企業はもっと大きな利益が得られるはずです。自分の将来を変える決断ですから悩みましたが、もともと英語が得意だったということもあり、また上司に相談したところ、翻訳に対して同じような印象を持っていたという言葉もいただき、自分の一生の仕事として翻訳の道に進む決心をしました。

――決心をしてから、具体的にどのような行動を起こしましたか?

2010年の暮れに法律事務所を辞め、まず知人の勤務する翻訳会社で働かせてもらうことにしました。以前、日本の特許事務所で翻訳を担当したことはあったものの、翻訳会社に勤めたことはなかったので、その仕組みを知りたいと思ったからです。
この翻訳会社には1年間在籍しましたが、たいへん勉強になりました。いちばん大きな収穫だったのは、翻訳はサービス業であると実感できたことです。お客様が言ってくるさまざまな要望に応えなければならないのはもちろんのことですが、ただハイハイと言うとおりにしているだけでは本当にお客様のご要望に応えることにはならないのです。むしろそれが、私が前職で感じた質の悪い翻訳を生む原因になっているのだと気づきました。ただお客様の言うとおりにするのではなく、プロとしてどう提言していくかが大事であり、それが本当の意味でサービスを提供することになるのだと身に染みて感じました。
お客様に提言をするためには、特許翻訳のプロとして自身のスキルを磨くことも大事です。質のよい翻訳とは何かを探究していくからこそ提言もできるのです。言うべきことをきちんと言える、そんな翻訳会社をつくろうと決意を新たにしました。

――翻訳会社での1年間の修業期間を経て、いよいよ会社設立ですね。

はい。その頃ずっと大阪で勤務していましたので、そのまま大阪で株式会社Vouve IPという特許専門の翻訳会社を設立しました。以前勤めていた知財法律事務所の大阪支社に会社設立の挨拶に行き、その頃のクライアントさんにもご挨拶にまわったところ、いくつか翻訳の依頼をいただくことができ、仕事は順調に滑り出しました。
最初は社員は私1人で、翻訳はもちろん、経理や営業もこなしていましたが、その後、徐々に仕事が増えていき、2年後くらいには自分で翻訳するだけでは追いつかなくなって、外部の翻訳者さんに依頼するようになっていきました。また、社内翻訳者も少しずつ増えていきました。

――その後、社名を変更なさったのですね。

仕事が順調に増え、2015年に東京にオフィスを移転することになりました。社内翻訳者を採用するとなると、やはり東京のほうが人材が豊富だと思ったからです。現在の社名、株式会社米国特許翻訳社に変更したのはそのときです。以前の社名は何をやっている会社かわかりにくかったので、社名を見れば一目瞭然で何の会社かわかるように、変えることにしました。

――自分以外の翻訳者に仕事を依頼することが増えていくと、翻訳の品質を維持することが難しくなっていくのではないかと思いますが、その点はいかがでしたか?

それは会社を始めるときに一番心配したことでした。「いずれ人に翻訳を依頼するようになったとき、どうすれば品質を保つことができるだろうか」とずっと考えていました。考えた末に実行したことが、“翻訳の質を維持するために自分が考えて実践していることを全部公開する”ということでした。そこで、会社設立2年目の2013年ころから自社のホームページに特許翻訳のノウハウを紹介するコンテンツを書き始めたのです。こんなに書いてもいいのか、と思うくらい知っていることは全部書きました。だんだん面白くなってきて、どんどん書き進めていきました。

――特許翻訳のノウハウというのは、会社にとってはある意味、企業秘密ですよね。公開すると他社に真似されるなどとは思いませんでしたか?

それも少しは考えましたが、それよりも公開することによって、弊社のやり方に賛同する翻訳者さんが出てきてくれたらいいなと思ったんです。現在、私以外に4名のスタッフがいますが、全員ホームページを見て賛同して、一緒にやりたいと言ってくれた人ばかりなんです。一応、トライアルを受けてもらいましたが、私自身が翻訳したのかと思うくらい、最初から私が理想とする訳文に仕上げてくださった方もいました。ホームページですべてを公開したことはやはり正解だったと確信しました。
また、ホームページを見て、弊社の方針に納得して翻訳を依頼してくださった企業もありましたので、あらゆる面でメリットがあると思っています。

今後さらに重要度が増すと予測される特許翻訳

――日本企業がアメリカに出願する特許翻訳について教えてください。どのような分野が多いのでしょうか。

いろいろな分野があると思いますが、多いのは機械、電気、電子、化学などでしょうか。日本のグローバル企業が特許を申請しそうなジャンルを思い浮かべていただければ、それが特許翻訳のジャンルということになります。毎年、アメリカで取得した特許数の多い企業ランキングが発表されるのですが、トップ20のうち半数近くは日本の企業で、誰もが名前を知る電気機器や自動車の大手企業が名を連ねています。

――特許翻訳の魅力について教えてください。

特許翻訳は、翻訳の中ではわりあい難易度の高いジャンルだと言われていますが、それはおそらく語学力に加えて、科学技術の理解と法律の知識というまったく違う方面の3つのスキルを必要とされるからではないかと思います。しかし、私にとってはそれこそが特許翻訳の魅力なんです。
特許明細書はけっこう分量があり、平均30〜50ページくらいはあります。それを限られた時間内に翻訳しなければなりません。決して生やさしいことではありませんが、それをやり遂げたときの達成感は格別です。

――英訳と和訳はどちらが多いのでしょうか。

弊社の場合は、日本企業がアメリカに特許出願する際の翻訳を請け負っていますので、ほとんどが英訳です。和訳のニーズとなると、日本をマーケットと見る海外の企業が日本で特許を取る際に必要になりますから、数としてはやはり日本企業が海外に進出するほう、つまり英訳の方が多くなるでしょう。しかし、私の知り合いにも特許の和訳のみで生計を立てている方は何人かいらっしゃるので、ニーズはどちらもあると思います。

――特許翻訳の今後の需要の見通しはいかがでしょう?

企業が海外に特許出願する際によく行われる出願の方法のひとつにPCT出願というものがあります。2015年の日本に拠点を置く出願人からのPCT出願の件数は、2015年に4万4235件で、過去最高を記録しました。ちなみに2000年は9574件だったので、15年間で4倍以上になっていることになります。おそらく、今後もしばらくは増えていくでしょう。
それから、経済産業省が毎年出している『特許行政年次報告書』にも注目しています。そこで印象に残っているのが、日本企業の知的財産戦略が「量から質へ転換した」と分析されていたことです。これはつまり、何でも闇雲に特許を出願するのではなく、本当によいものだけを選んで国際出願しているということです。国際出願が増えれば翻訳の需要は高まります。加えて、量から質への転換ですから、翻訳の質もより高いものが求められるようになる、と私は考えています。


米国の特許出願という仕事に従事するなかで、特許翻訳の質に疑問を持ったという大島さん。後編では、そもそも大島さんが米国特許に興味を持ったいきさつをお伺いしています。特許翻訳者を目指す方へのメッセージもお楽しみに。

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<おおしまよしたか>

(株)米国特許翻訳社代表取締役。京都工芸繊維大学工芸科学部卒。日本の特許事務所で特許翻訳の経験を積み、米国の特許事務所にて技術者として勤務して米国特許出願や中間処理を多数経験。その後、2012年に日本企業の米国への特許出願をサポートする特許専門の翻訳会社、株式会社VouveIPを設立。2015年9月に事務所の東京移転を機に社名を株式会社米国特許翻訳社に変更。頼れる知財翻訳会社を目指して特許翻訳サービスを展開している。

株式会社米国特許翻訳社
知的財産関連文書の翻訳事業、知的財産翻訳者の育成・教育事業を行う。少数精鋭の専門スタッフにより構成され、他の翻訳会社とは一線を画したユニークで高品質な特許翻訳サービスを提供している。

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