トランスポット

   

実務翻訳者 森本千秋さん &
翻訳コーディネーター 御囲ちあきさん<前編>

講師・修了生対談:
実務翻訳を知る、学ぶ、そして活躍する!
翻訳を仕事にする、はじめの一歩

今回は、実務翻訳者でフェロー・アカデミー講師の森本千秋さんと、森本さんの教え子で現在、翻訳会社で翻訳コーディネーターをしている御囲ちあきさんにお話を伺います。映像翻訳に興味を持って翻訳を学び始めた御囲さん。さまざまな分野を学ぶうちに実務翻訳の面白さに気づき、現在の仕事で実績を積みたいと考えたそうです。

就職活動という人生の岐路で、
まずは1年間、翻訳を学ぶことを選択

  • 御囲さんは大学卒業後、就職をせずにフェロー・アカデミーで翻訳を学び始めたそうですね。

    御囲さん

    御囲さんの写真

     はい。もともと映画やドラマを見るのが好きで、映像翻訳に憧れを持っていました。ただ、就職活動のときは、そういう会社に入るチャンスはなかなかなくて……。ちょうど就職氷河期だったこともあり、一般企業の面接もいくつか受けましたが、思うようにはいきませんでした。本当は映像翻訳がしたいなという思いを隠しつつ、面接で入社動機を述べても、気持ちが入っていないことがわかってしまうんでしょうね。
     就職活動では進みたい道が見つからなかったので、それなら翻訳を勉強しようと思ったんです。まずは映像に限らず、翻訳とはどういうものか総合的に勉強したいと思い、フェロー・アカデミーのカレッジコースを選びました。1年間で実務・映像・出版の翻訳のあらゆる分野を学べるコースで、ここで集中的に翻訳を勉強しました。

  • 翻訳漬けの1年ですね。どんなことが学べましたか?

    御囲さん

     分野によってルールや特性が異なるということを学びました。ただ、どの分野でも翻訳の用途や背景、読み手のことを考えて最も適切な訳にするという点は共通なのだということも分かりました。。そのなかで、特に実務翻訳については何も知らなかったんだな、と学んでみて改めて感じました。当時、森本さんが受け持っていらっしゃる「契約書・ビジネス法務」という科目で、ビジネスの現場で使われる文書を翻訳するうちに、どういう文書の翻訳ニーズがあるのか概要を知ることができました。実際に使われている英文書類を読みながら勉強できたので、とても興味深かったです。

  • 森本さん、「契約書・ビジネス法務」はどのような内容か教えていただけますか?

    森本さん

    森本さんの写真

     カレッジコースのカリキュラムは、前期で実務・出版・映像の3つの分野の基礎を学んだあと、後期はその中からさらに細分化された選択科目を各自7つまで選び、より深く学べるようになっています。実務翻訳では、私が受け持っている「契約書・ビジネス法務」のほかに「IT・テクニカル」「金融・財務」「メディカル」「特許」の科目があります。
     カレッジコースの受講生は20代から定年後の方まで幅広いですが、比較的多いのは翻訳を学びはじめたばかりの若い方です。オフィスでどういう書類が出てくるのか、まったく知らない方も多いので、契約書やビジネス法務の翻訳とはどういうものかを知ってもらうことを1つの目的としています。
     課題では、まず「E-コマース」の法務事項の部分を訳してもらいます。使用条件、プライバシーポリシーなどですね。それから、「売買契約書」「ライセンス契約」「秘密保持契約」「就業規則」「基本定款」などを取り上げていきます。

  • 御囲さんはカレッジコースで1年間みっちりと翻訳を学んで、進むべき道は見えてきましたか?

    御囲さん

     はい。私がカレッジコースを選んだもうひとつの理由は、修了後の就職サポートでした。カレッジコースは、就業支援がしっかりしているという評判を聞いたことがあったのですが、実際に修了の3カ月前くらいから毎週のようにいろいろな会社の採用説明会がありました。
     私はほとんど全部の説明会に出て、コース修了後はどういう方向に進もうか検討しました。また、修了生の方が来校して話を聞かせてくださる機会も多くあったので、非常に参考になりました。
     カレッジコース受講生は翻訳者ネットワーク「アメリア」に1年間無料で入会できる特典もあり、求人情報をチェックしているクラスメイトも多かったです。私は特に専門知識がある分野がなかったので、まずは社会人経験として翻訳会社に入って社会人経験を積みながら翻訳業界についてもっと知りたいと思い、現在の職を選びました。

  • カレッジコースの授業は実際の仕事で役に立っていますか?

    御囲さん

     はい。私は現在、翻訳会社のコーディネーター職に就いて7年目です。様々な企業などから特許以外のあらゆる分野の翻訳依頼があります。まず私が原稿に目を通して、どんな種類の文書か、用途は何かによって、どういう翻訳者に依頼するのが最適かを判断するわけですが、森本さんの授業であらゆる文書に触れたことが役に立っていると感じます。

翻訳コーディネーターが考える理想の翻訳者
翻訳者が考える翻訳に必要なスキル

  • 翻訳コーディネーターという仕事の中身をもう少し詳しく教えていただけますか?

    御囲さん

    御囲さんの画像

     営業担当を通してお客様からの翻訳依頼を受けると、書類の内容を精査し、翻訳者を選んで翻訳依頼をします。原稿が上がってくると、次にチェッカーにチェックを依頼したり、必要に応じてDTPオペレーターにまわして読みやすいようにレイアウトしたりして、お客様の希望のスタイルに仕上げ、納品します。

  • 翻訳会社が受注する翻訳案件には、具体的にどのような文書があるのですか?

    御囲さん

     私が現在属している医薬翻訳チームの場合、お客様は製薬会社、医療機器メーカー、官庁などです。多いのは新薬申請関係の書類ですね。医療機器のマニュアルなどもあります。先輩コーディネーターに教えてもらいながら覚えていきました。
     入社して最初の4年間は、さまざまなビジネス文書の翻訳コーディネートを担当していました。例えば、国際協力関係機関の研修資料の翻訳では、インドネシア語、ベトナム語、ポルトガル語など日本語から多言語に翻訳する案件を担当しました。クメール語やラオ語などを受け持ったこともあります。研修テーマは、環境問題、工業技術などさまざまでした。
     金融系のクライアントを担当していたときは、財務のアニュアルレポートや四半期レポート、財務諸表などを定期的に受注していました。契約書や社内規定の翻訳依頼もありました。

  • 翻訳コーディネーターから見て、どういう翻訳者が理想的ですか?

    御囲さん

     高い品質の翻訳を納めてくれる翻訳者さんは、常に勉強していますね。調べ物は綿密ですし、どんなに納期が厳しい案件でも断らずに引き受けてくださる方だと、とても助かります。

  • 翻訳者である森本さんにも伺いたいのですが、翻訳会社に求められる翻訳者になるにはどのようなスキルが必要だと思いますか?

    森本さん

    森本さんの写真

     仕事ではたいていの場合、手元に届くのは原文だけ。ときには、会社名が伏せられている場合もあります。その文書のバックグラウンド、つまりどんな業種の会社が何のために使う文書なのか、といった情報がなく、原文を読んで想像するしかないことがけっこう多いんです。それでもある程度知識があれば、この書き方はこういう内容の契約書だろう、などと推測することができます。
     実務翻訳の仕事には必ずお客様がいます。最終的に、翻訳された文書を使って何かを成し遂げようとしているから、対価を支払って翻訳を依頼しているわけです。翻訳者はそのために翻訳をするわけですから、お客様がどういう翻訳を望んでいるかを察して、その目的に合うように仕上げなければなりません。それが感覚的にわかるかどうかが重要です。

  • 実務翻訳では、原文が間違えていることもあるそうですね。そんなとき翻訳者はどうすればいいんですか?

    森本さん

     あらかじめ「間違いは指摘してほしい」と言われている場合はすべて指摘します。でも、そう言われるケースはほとんどありません。クライアントは原文の間違いが知りたいのではなく、原文に何が書かれているかを知りたいんです。原文の間違いが多い場合に、翻訳者が「ここは間違い」「ここも間違い」と指摘したら、翻訳会社もクライアントも困るでしょう。専門知識を駆使し、文脈を読み解き、ここはこういうことが言いたいんだろうと判断して訳し、どうしてもおかしいところはコメントを付ける、というふうに私はしています。

  • 翻訳コーディネーターとしては、どのようにしてほしいものなんですか?

    御囲さん

     そうですね。コメントだらけは困ります。ある程度、ご自身の知識や経験で判断して訳していただけるとありがたいです。そういう翻訳者さんには、ついつい頼りたくなりますね。
     背景情報をコーディネーターが翻訳者に伝えることが大切だと思いますし、なるべくそうするようにしていますが、クライアントから情報が来ないことも多いんです。クライアントが翻訳を依頼するのに慣れていなかったり、翻訳するのには原文があれば十分で背景情報など必要ないと思っていることもあるのだと思います。

  • 最後に翻訳者の心得を教えてください。

    森本さん

     翻訳に限らず、仕事というものは、それを依頼する上司やクライアントがいて、依頼されたほうは、依頼した側が何を望んでいるかを考え、必要であれば確認し、その意に沿うように仕事を進める。それが基本だと思います。翻訳者もビジネスパーソンとして、そのように相手の思いをくみ取る力が必要だと思います。

プロフィール 藤井光さんのプロフィール写真

(左)森本千秋さん
実務翻訳家。商社勤務後、外資系通信機器メーカーにて国際取引や法務に関わる。現在はフリーで企業の契約業務関連を中心にビジネス全般の翻訳を手がける。

(右)御囲ちあきさん
翻訳コーディネーター。大学卒業後、フェロー・アカデミーの総合翻訳科「カレッジコース」で翻訳を学ぶ。修了後、株式会社メディア総合研究所に入社。現在は、医薬翻訳グループのリーダーとして翻訳コーディネーター業務に携わる。

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