トランスポット

   

実務翻訳者 森本千秋さん &
翻訳コーディネーター 御囲ちあきさん<後編>

講師・修了生対談:
ビジネス英語は実践的に磨こう!
翻訳には英語力プラスアルファが大事

今回は、実務翻訳者でフェロー・アカデミー講師の森本千秋さんと、森本先生の教え子で現在、翻訳会社で翻訳コーディネーターをしている御囲ちあきさんにお話を伺います。後編では、翻訳に限らずビジネスで英語を使う人に役立つ、英語力の磨き方をおふたりにうかがいました。
前編をお読みでない方はこちらから。

ビジネス英語のブラッシュアップは、
辞書や文法書をとにかくこまめにチェックすること

  • 翻訳に限らず、仕事で英語を使う機会のある人は多いと思います。翻訳に携わっている森本先生、御囲さんはどのようにして英語力を磨いてきたか、教えていただけますか?

    森本さん

     実は私は帰国子女で、中学をアメリカで過ごしました。とはいえ高校、大学は日本で、大学の専攻は法学部だったので、帰国後、英語の勉強は受験くらいでした。
     自分の英語力に不安を覚えたのは、転職して外資系の会社に入ったときでした。外国人スタッフと会話はできるのですが、なにせ中学英語で止まっていますから、ビジネスで通用する英語ではないんです。仕事をしながら多少は鍛えられましたが、その後、仕事を辞めて翻訳者を目指すようになってから、改めて英語力を磨かなければと痛切に感じ、意識を向けるようになりました。
     とはいえ、特別なことをしたわけではないんですよ。英語を読んでいて、少しでも自信がないなと思ったら、きちんとチェックするように心がけました。

  • 具体的には、どのようなことをしたのですか?

    森本さん

    『英文法解説』(金子書房)と『ロイヤル英文法』(旺文社)

     例えば、うまく訳せない英単語が出てきたとき、まず英和辞書で調べると思いますが、それでもぴったりの訳語が見つからなかったら、インターネット検索をして、どういう英文の中でその単語が使われているか確認するんです。検索結果に表示された英文をたくさん読むと、何となく「ああ、この単語はこういうニュアンスで使われるんだな」ということがイメージできるようになっていって、そこで「それを日本語で表現するにはどうすればいいだろう」と考えるんです。
     それから、文法書もよく読むようになりました。よく使うのは『英文法解説』(金子書房)です。『ロイヤル英文法』(旺文社)を併せて読むこともあります。これらの文法書は索引が細かいので、何か文法で不明点が出てきたら文法項目や単語の索引から関係のありそうなページを探して読んで、用法を調べます。関係詞、分詞、不定詞、動名詞、前置詞などの項目は特によく確認しますね。
     翻訳をする方に限らず、仕事で英語を使う方は、基本的な英文法はわかっているけれど、仕事で出てきた英文の解釈がどうもしっくりこない、ということがあるのではないでしょうか。受講生を見ていると、自分は英語がわかっていると思っている人ほど、感覚的に訳してしまって、正確さを欠いていることがある気がします。文法書や辞書、インターネット検索で自分の知識の再確認をすることで、英語力は一段階引き上げられると思いますので、ぜひ試してみてください。

  • 御囲さんは、どのようにして英語を勉強しましたか?

    御囲さん

    御囲さんの写真

     私は大学ではイタリア語を専攻していたので、英語は第二外国語で、あまり深くは勉強しませんでした。英語を人生で一番勉強したのはフェローのカレッジコースに通っていたときで、とにかく英語漬けの1年間でした。どの授業も毎回たくさんの課題が出るので、自然と大量の英文に接することになり、それが効果的だったと思います。
     授業では、なぜこの単語をこう訳したのか、細かいところまで聞かれるので、知っている単語も辞書で引いて深く調べておかなければなりません。私は複数の辞書が入っていて串刺し検索できる電子辞書を使っていました。1つの単語でも、英和辞書によって書いてあることが微妙に違うこともあります。そんなときは英英辞書を引いたり、文法書に当たったりと、時間をかけて調べました。文法書は私も森本先生と同じ『英文法解説』を使っていました。

  • 森本さん

     英英辞書を引くのはいいですね。単語の訳語ではなく、ニュアンスをつかむことができます。単語のニュアンスがわからないと、正確に日本語にすることはできません。
     また英訳をするときは、英英辞書を引くのは必須ですね。例えば「与える」というときに「give」を使うか「provide」にするか、他にもいろいろあるともいますが、どれを選ぶべきか決定するときに、英英辞書に書かれている言葉のニュアンスが役に立つと思います。

自分の英語力を過信せず、
謙虚に英文に向き合う姿勢が大事

  • 英語力の磨き方を教えていただきましたが、翻訳者を目指す場合は、英語力以外にも大事なことがあるでしょうか?

    森本さん

    森本さんの写真

    「謙虚になること」ですね。英語力はもちろん大事ですが、それがそのまま翻訳者の価値として評価されるわけではありません。クライアントは翻訳者の英語力に対価を払うのではなく、出来上がった訳文に対して対価を払うのです。英語力がどんなに高くても、訳文がクライアントの求めるものに仕上がっていなければ、何の価値もないということです。
     翻訳者になりたいと思う方は、大抵は英語力にある程度の自信がある方だと思いますが、まずは自分の英語力を疑ってかかるくらいの「謙虚さ」が必要だと思います。

  • 御囲さん

    御囲さんの画像

     英語力のある翻訳者さんで、原文に書かれている内容を100%理解できていたとしても、アウトプットされた訳文が変な日本語だったり、こちらが求めているスタイルに合っていなかったりすれば、それは仕事としては成り立ちません。正しい翻訳としてアウトプットするためには、それがどういう文書であるかの知識が不可欠です。例えば、英文の契約書を日本語に訳す場合、日本語で書かれた契約書、英語で書かれた契約書をたくさん読むなど、その分野の文章を研究する必要があると思います。

  • 森本さん

     実務翻訳者はたいてい、経済・金融、IT、医薬、契約書など、専門をもって仕事をしています。もし、英語力だけで翻訳ができるのだとしたら、こんなに細分化する必要はないはずです。英語力だけではダメで、専門知識というプラスアルファが必要だから、これだけ分野が分かれているのだと思います。
     児童書の翻訳を思い浮かべてみるとわかりやすいかもしれません。子ども向けに書かれた英文は、内容を解釈するのは難しくないはずです。でも、それを日本語にして子どもたちに伝えるとなると、英文解釈力以外に児童書翻訳の技術や感性が必要です。
     どの分野も同じこと。書いてあることを理解するためにはもちろん英語力が必要ですが、それを日本語として正しく訳すことは英語力だけでは絶対にできません。「英語が得意」ということにおごらず、謙虚になって英文と向かい合うことが大事だと思います。

  • 専門分野の翻訳では、インターネットでの調べ物も重要だと思います。上手にインターネット検索をするポイントはありますか?

    森本さん

     調べ物は慣れだと思います。いろいろ調べているうちに知識が増えると調べる頻度が減ってくるので、調べ物は徐々に楽になっていきます。また、どういうサイトが信頼できるかが経験値でわかってくるので、結果にたどり着くスピードも速くなります。慣れてくると、検索結果の中で「ここに答えがあるよ!」とばかりに光って見えるサイトがあるんですよ。
     まあ、実際に光るわけではありませんが(笑)。
    「きっとこのサイトに知りたいことが書かれている」と当たりを付けられるようになるんです。初心者のうちはそういう感覚はないと思うので、政府や行政のページ、法務なら弁護士事務所のページなど信頼できるサイトを活用すればいいと思います。
     誰かが質問して、知っている人が答える知恵袋みたいなサイトが英語圏にもあるので、そういうものを参考にすることもあります。鵜呑みにはできませんが、多くの人が回答しているのを読むと、ヒントになることがあります。

  • 御囲さんは3年前から医薬翻訳を担当しているということですが、医薬について知識はあったのですか?

    御囲さん

     いいえ、まったくありませんでした。医薬翻訳の本を1冊買って、それを読んで基礎知識を得ました。それから、医薬用語のサイトで先輩コーディネーターや社内校閲者の方々もわりと信頼して使っているサイトがあって、それをよく参照しています。

  • 森本先生は多くの受講生を見てきたと思いますが、伸びる方というのは、どういう特徴がありますか?

    森本さん

    森本さんと御囲さんの対談風景

     原文を正しく理解できる英語力、分野に合った表現ができる日本語力、そして専門分野の知識、この3つのバランスが取れている方ですね。専門知識はやる気があればどんどん勉強できると思うので、まずは英語力と日本語力を磨いてほしいと思います。

  • 御囲さん

     日本語力はどうすれば磨くことができますか?

  • 森本さん

     その質問はよく聞かれます。英語力も同じだと思いますが、読むことが重要だと思います。例えば、契約書にしても医薬にしても、全文をちゃんと読むこと。流し読みではなく、表現の一つ一つを意識して読むことが大事です。契約書の講座を受けに来ているのに、契約書を読んだことがないという人がけっこういるんですよ。契約書は身の回りにいっぱいあります。まずは読むこと。読めば読むほど、特殊な表現にも慣れていきますから。
     新聞や小説を読むのもおすすめです。ネット情報でもいいですが、細切れのものではなく、ある程度分量のあるものを読んで理解する、疑問を感じたら調べる。そういう読み方をするうちに、正しい日本語表現や分野特有の表現が身についていくと思います。

  • フリーランスで翻訳の仕事をしていくのは簡単なことではないと思いますが、最近は翻訳の仕事を副業から始める人も多いようですね。

    御囲さん

     登録翻訳者の方の中にも、平日は会社勤めをしているので土日だけ稼働できます、という方はけっこういらっしゃいます。もちろん、フルで稼働できる方のほうが助かりますが、土日で仕上げなければならない案件もありますので、そういう案件をお願いしています。

  • 森本さん

     フェローの受講生にも、退職後に翻訳者になることを視野に入れて、40代〜60代で講座に通われている方もけっこういらっしゃいます。定年前の数年間、残業もあまりなくなってきた、という期間があれば、その頃から助走期間として翻訳の勉強を始めて、副業として仕事をスタートさせ、退職したら翻訳を本業にするというのはいいと思います。

  • 御囲さん

     強いていえば、メールで連絡をいれたときに返事があまりにも遅い方は、頼みづらいです。平日昼間は会社だとしても、携帯でメールを確認して簡単な返事を返してくれるなど対応していただける方であれば問題ありません。実力があれば、副業であることも、年齢も関係ない。さまざまな働き方があるのも、翻訳という仕事の魅力のひとつですね。

【編集後記】
翻訳とひとくちに言っても、さまざまな分野があります。また自分で翻訳をする以外にも、翻訳を依頼する側として関わる方もいらっしゃると思います。そんな翻訳やビジネス英語に関わる多くの方に、ベテラン翻訳者と若手コーディネーターのお二人の話を役立てていただければと思います。

プロフィール 森本さんと御囲さんのプロフィール写真

(左)森本千秋さん
実務翻訳者。商社勤務後、外資系通信機器メーカーにて国際取引や法務に関わる。現在はフリーで企業の契約業務関連を中心にビジネス全般の翻訳を手がける。

(右)御囲ちあきさん
翻訳コーディネーター。大学卒業後、フェロー・アカデミーの総合翻訳科「カレッジコース」で翻訳を学ぶ。修了後、株式会社メディア総合研究所に入社。現在は、医薬翻訳グループのリーダーとして翻訳コーディネーター業務に携わる。

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