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【対談】実務翻訳者 石崎あゆみさん&
日英翻訳者 小野久美子さん<後編>

フリーランス翻訳者として
成功するためのキャリアパスとは

前編に引き続き、後編では、通信講座で効率よくスキルアップするためのポイントを講師の立場から語っていただきました。また翻訳者の働き方として、子育てとの両立や副業としての翻訳についてもご意見を伺いました。
前編をお読みでない方はこちらから。

これを知って通信講座を10倍活用!
通信講座で伸びるのはどんな人?

  • フェロー・アカデミーの通信講座マスターコースをそれぞれ受け持っていただいていますが、受講生の方には何を学んでほしいと考えていますか?

    石崎さん

     私が受け持っている講座は「IT・テクニカル」です。IT翻訳を目指す方には、まずは技術をよく知ってほしいと思います。もちろん最初から知識のある方は少ないと思いますが、少なくとも興味を持ってほしいですね。翻訳の分野を選ぶときに、なかには自分の興味とは別に仕事の多そうな分野を選ぶ人もいるようです。でも、専門分野の知識を身につける努力をせずに語学力だけで訳そうとしてしまうと、いくら高い語学力があったとしても、おかしな翻訳になってしまうことがあるんです。IT翻訳を学ぶスタートラインとしては、まず興味を持つことがとても重要だと思います。
     先日受け持った受講生の方の中に、「技術を学べるサイトを読んで勉強しています」という方がいました。通信講座の課題文は短いですから、それを訳して終わりとするのはもったいないです。それをきっかけにして、課題以上のことまでも調べ、探究して知識を増やしていくことが大切です。そういう姿勢で取り組む方は、伸びていくと思います。

  • 小野さん

     私は、「ニュース記事英訳」の講座の担当です。英訳だから英語力を伸ばすことはもちろんなのですが、日本語の文章を読むことも大事だと思っています。というのも、自分の経歴を振り返ってみると、新聞記者時代に日本語に深く触れていた時期、雑誌編集者として記事をたくさん読んだりライターさんの文章を直したりした時期が、今とても役に立っていると感じているからです。好きな作家の作品でも、新聞記事でも、何でも構いません。大量に読む中で、日本語の解釈を間違えない力がついていくのではないかと思います。
     それから、6回の課題で身につくことは限られます。特にニュース翻訳はテーマが多岐にわたりますから、残念ながら6回では網羅できません。ただ、ひとつ言えるのは、6回あれば翻訳者として仕事をするうえで重要な土台を固めることはできます。具体的に言うと、「調べものを怠らない」「訳し漏れをしない」「数字を間違わない」「自分勝手に訳さない」「わからないことがあれば申し送りを付ける」といったことです。
     翻訳はうまいのに、固有名詞の訳語が間違えていたり、誤字脱字があったりする受講生の方がいました。どんなに訳が上手でも、そこを間違えるとトライアルでは不合格になる可能性があります。仕事をするうえで、絶対に守らなければならないこと、それが身につけば、一歩仕事に近づけるのではないかと思います。

  • 石崎さん

    対談の様子

     私、マスターコースの講師をすることが決まってから、昔、自分が受けたマスターコースの訳文や評価を取りだしてきて読み返してみたんです。まだ翻訳のことを知らない頃なので、今ならしない間違いもしているのですが、中には「こんな訳は今できないな」という良い訳もあって。
     実務翻訳にはスタイルガイドというものが付きもので、例えば表記の統一などが細かく決められていて、これに沿って訳さなければなりません。でも、学び始めた頃の私はそれも知らずに、でもだからこそ型にはまっていない、自由な発想で訳せたんでしょうね。あの頃は、訳すのが面白かったんだろうなと、懐かしくなりました。
     今、私が受け持っている受講生の皆さんは、当時の私とは比べものにならないくらい翻訳に対する熱意のある方ばかりで、こちらがしっかりしなければと気持ちを引き締めています。

  • 小野さん

     受講生の方から「評価が低くて落ち込みました」というコメントをいただいたことがあります。でも、最初から良い評価だったら受講する必要はないじゃないですか。それは伸び代があるということ。厳しい評価は「高いお金を払って受講した甲斐があった」と捉えて、ポジティブに学び続けてほしいと思います。

  • 受講生の方は、どのように取り組むと、より効率よく翻訳スキルを伸ばしていけるでしょうか?

    石崎さん

     これまでの受講生の中で、よく伸びた方というのは、調べものをよくする人、それから私が直したところをよく読んでいる人、だったと思います。自分がなぜ間違えたのか、どうすればよかったのかをよく考えることは、自身のスキルを伸ばしていくうえで、とても大事なことですね。
     感想欄に、ここはこのように調べたとか、こう考えてこう訳したとか、細かく書き込んでくれる方がいます。それだけのことをやったというのは、訳文にも表れますし、その人の成果に繋がっていくと思います。
     あとは、自分のレベルに合った講座を選ぶことも大事だと思います。

  • 小野さん

    小野さん

    そうですね。通信講座なら講師からのコメント、実際の仕事では翻訳会社やクライアントからのフィードバックがあると思うので、それをどれだけきちんと読んで、次に反映させるかは大事だと思います。
     それから、ニュース翻訳の場合はスピードも大事ですね。ニュース翻訳は午前中に依頼があって、午後には納品すると言った納期の短い案件も多いんです。ですから、課題を訳すときも速さも意識するといいと思います。

     以前、派遣業もやっている翻訳会社の方と話をしていて、「皆さん、英文事務をやりたがらないんです」という話を聞いたことがあります。それはもったいないと思いました。英文事務でも、仕事の内容によっては専門知識が身に付いて、その分野が自分の専門になっていくかもしれません。翻訳の仕事をしたいけれど、まだ始められていないという人がいたら、英文事務でも何でも、目の前にある仕事をひとつずつこなしていくことが大切だと思います。
     翻訳講座を受けている方も、学習と並行してどんどんトライアルを受けたり、派遣などできる仕事をしたりするべきですね。「講座が終わってから」「実力がついたら」と言うのではなく。仕事をすることで学べることはたくさんありますから。どんな仕事でも、それが次に繋がっていくのだと思います。 

自由だからこそ厳しい面も
フリーランスで成功するためには

  • お二人とも、翻訳以外の企業でのお勤め、社内翻訳者を経験して、現在フリーランスで翻訳をなさっていますが、フリーランスという働き方はどうですか?

    小野さん

     翻訳という仕事はフリーランスに非常に適していると思います。1人で黙々とする仕事ですし、パソコンひとつでできますので。性格的にも自分に向いている仕事だなと思っています。私は会社で翻訳をしていたこともありますが、フリーランスになってよかったとずっと思っていました。

  • 翻訳以外にレビューの仕事もなさっているようですが、レビューをすることで翻訳にも良い影響がありますか?

    石崎さん

    石崎さんの画像

     フリーランスになると通勤がなくなるので、往復2時間分、時間に余裕ができるかなと思っていたのですが、不思議なことにその2時間はどこかに消えてしまいましたね(笑)。時間の使い方が難しいです。フリーに成り立ての頃は、収入に対する不安もあったので、来た仕事は断らずに、絶対に受けていました。ただ、それも大変なので、今は仕事を入れすぎないようにしています。

  • 小野さんはお子さんが2人いらっしゃいますね。育児との両立という面ではどうでしょう?

    小野さん

     会社を辞めてフリーランスに転向したのが4年前なのですが、そのとき子どもは2歳と4歳でした。4年間やってきた感想ですが、仕事と子育てのバランスを取るのは非常に難しいですね。子どもが学校から帰ってきたけれども、仕事が終わっていない。子どもとコミュニケーションを取る時間を作りたいけれど、それができない、ということがよくあります。
     子どもが学校から帰ってきたら仕事はおしまい、子どもとの時間を持つ、とすっぱり切り替えができる人ならいいのかもしれませんが、私は時間があれば少しでも仕事を進めたい、と思ってしまうので、なかなかそれができません。そういう意味では、フリーランスよりも会社に勤めて、会社にいる間は仕事をする、家に帰ったらママになる、というほうがやりやすいのかもしれません。

  • 石崎さんは会社勤めをしながら翻訳の仕事を受けていた時期があったようですが、副業として翻訳をすることは可能だと思いますか?

    石崎さん

     私が勤めいた頃は副業禁止の企業が多かったですが、今は副業を推奨する企業も出てきているようなので、昔よりはやりやすくなっているのではないでしょうか。翻訳会社の中には、週末だけ翻訳できる人材も求めているところがあると聞いたことがあるので、そういうところに登録できれば可能かもしれませんね。
     ただ、特にまだ仕事に慣れていないうちは、じっくり時間をかけて翻訳に取り組むことが大事だと思うんです。でも、週末だけの仕事となると、短納期の案件や短い文書の翻訳ばかりになってしまうでしょう。そういう状況では、翻訳者としてスキルを伸ばしていくことが難しく、ただ仕事に追われるだけになってしまうかもしれません。それは、ご自身のためにならないのではないかと思うんです。翻訳者として長く仕事をしていきたいなら、副業ではなく、翻訳に専念する時期が必要だと思います。

  • 小野さん

     それは私も思いますね。子育てにしろ、二足のワラジにしろ、最初からフリーランスで、翻訳以外のこととの両立を、というのは簡単ではないと思います。
     例えば、子育ての時期は仕事をセーブして、子どもとの時間を取った方がいいとも思いますが、そうするためには翻訳者としての実力が伴っていなければなりません。翻訳会社からの信頼があり、担当者の理解がなければ成り立ちませんから。
     翻訳者のキャリアを始めて最初の頃に、その世界にどっぷり身を浸して、集中して仕事をする時期が必要だと思います。そうすると、相性のよい翻訳会社や、相性のよいコーディネーターさんとの縁ができていきます。それから、子育てとの両立を考えるのであれば上手くいくのではないかと思います。

     それともうひとつ言えるのは、会社に行くことで教えてもらえることはいっぱいあるので、最初からフリーランスと考えないほうがいいと思います。フルタイムが無理なら週2,3回の派遣の仕事でも構わないので、ある程度の社会人経験、翻訳者としての土台となるキャリアを積んでからフリーランスになったほうが、うまくいくような気がします。

  • では最後に、お二人の翻訳者としての今後の目標を教えていただけますか?

    石崎さん

     やはり一度は書籍を訳して、翻訳者として自分の名前を出したいなと思います。その第一歩として、マスターコースのノンフィクションを受講したことがあるんです。修了時の講師のコメントは「課題文の長さはよく訳せているが、何百ページもあるものを読ませる翻訳にできるかどうかが次の課題ですね」というものでした。今すぐは無理かもしれませんが、いつか本を1冊訳せるように、目標を持って自分の翻訳力を磨いていきたいと思っています。

  • 小野さん

     先日、記事翻訳で自分の好きなジャンルの案件が回ってきて、とても気合いが入ったことがあったんです。その記事というのが、「平成ライダー大特集」というものなのですが(笑)。子どもの影響で仮面ライダーなど特撮にはまってしまって、大好きなんです。日本語の新聞の見開き2ページ分を英訳したのですが、とても楽しかったです。心の底から、「この記事の内容を伝えたい!」という思いがわき上がってきて、細かなニュアンスまで正しく伝わるように気を配りながら訳しました。
     私はどちらかというと政治や経済の硬い文章を訳すほうが得意で、コーディネーターさんもわかっていてそういう案件を依頼されることが多いのですが、柔らかい日本文化を海外の方に紹介するような記事ももっと任されるようになっていきたいなと思っています。

【編集後記】
翻訳する分野も、これまでの経歴も異なるお二人の対談、いかがでしたか? 現在はフリーランス翻訳者としてご活躍のお二人ですが、それぞれ会社員時代の経験が生きているようですね。翻訳者への道はさまざまなのだなと、お二人の体験談を聞いて改めて思いました。ありがとうございました。

プロフィール 石崎さんと小野さんのプロフィール写真

(左)石崎あゆみさん
電機メーカーにてソフトウェアの研究開発に従事した後、翻訳会社に転職。リンギストとして様々なプロジェクトのローカライズを経験する。その後、フリーランス翻訳者として主にITおよびビジネス関連の翻訳・レビューに携わる。

(右)小野久美子さん
大学卒業後、地方新聞社に記者として勤務。英国留学、出版社編集職を経て2006年に新聞社の英字新聞部に入社。2015に退社し、以来フリーランスで活動。ニュース記事、金融、ビジネス文書の日英翻訳を行う。

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