翻訳者として伸びるのはどんな人?
通信講座マスターコース講師の飯野由美子先生に聞いてみました。

  • もともとのバックグラウンドとはまったく異なるジャンルを専門にしていらっしゃいますが、経済・金融の翻訳者になられた経緯を教えてください。

    飯野先生

     私はまず、翻訳者としての働き方や生活スタイルに惹かれて、その次に、ではどのジャンルを専門にするかを考えました。専門にするなら、実務翻訳で十分な需要のあるジャンルにしたいと思い浮かんだのが、経済・金融でした。以前はまったく関心が持てなかったのですが、現代社会で生きていく上で、ある程度の知識は不可欠な領域だという認識はありました。そこで、翻訳者として取り組んでみたところ、これが面白かったんです。社会を動かす原理の一側面を理解できますし、これから私たちの社会がどのように変わっていくかという予測やどのように変えるべきかという問題意識にも繋がると感じました。

  • これまでどんな文書の翻訳を手がけてこられたのでしょうか。

    飯野先生

     ファンドの目論見書や運用報告書、企業の年次報告書(株主や投資家、金融機関が主な対象)、政府機関がウェブ上で発信する新たな規制に関する情報、経営者向け雑誌の論文、コンサルティングファームの顧客向けプレゼン資料、企業のコーポレート・ガバナンス報告書(株主および投資家向け)など非常に多様です。そのほかに、日本に新たに進出する企業のウェブサイトの日本語版制作に携わったこともあります。それぞれ、目的やターゲットに応じたスタイルや留意点があります。

  • ご専門の内容のほかに、一般的なビジネス文書や書籍の翻訳、論文のチェックなど、多方面でご活躍されていらっしゃいますね。

    飯野先生

     幸運にも初めてトライアルを受けた翻訳会社に登録でき、最初はさまざまな仕事を依頼されました。そのとき、基本的に何でも引き受けたのが良かったのだと思います。仕事をするうちに、やはりどうしても苦手で時間がかかりすぎたり、品質に責任が持てなかったりするタイプの文書が分かってきました。チェッカーとしての仕事は本当に勉強になりました。ベテランの翻訳者の方の、すばらしい訳文にたくさん触れて、英語の能力も日本語の力も磨くことができました。

  • 飯野先生はこれまでにも講師経験がおありですが、こういう姿勢で取り組む方は伸びる、などといった傾向はあるのでしょうか。

    飯野先生

     翻訳学校の課題文はそれほどの分量はありませんし、単に訳すだけならすぐにできてしまいます。しかし、完全にその原文を理解しようとすれば、多くの疑問点が湧いてきて、調べるべきことがたくさん見つかるはずです。自分にとってまだなじみのない分野ならば、なおさらです。ただ与えられた内容を暗記しようとしても、人間はすぐに忘れてしまいますが、課題に関連付けて自ら様々な疑問をもち、自分で調べた事柄は、簡単には忘れないものです。そのような、主体的な姿勢で取り組む方が伸びると思います。

  • 翻訳の仕事をされるときの1日のスケジュールを教えてください。また、健康管理、リフレッシュのためにされていることはありますか?

    飯野先生

     会社勤めのようにきっちり時間を決めて働く翻訳者の方もいらっしゃるようですが、私には向いていないようです。そういう働き方は、自分にはかえってストレスとなりますし、柔軟な働き方ができるのがこの仕事の一番のメリットだと考えています。たとえば、集中できるときはかなりの長時間、休憩をとらないこともありますが、気分が乗らないときは頻繁に休憩を入れたりします。締切が迫ってくれば、気分が乗らないなどとは言っていられないのですが。不規則な生活になりがちですが、睡眠は十分とるようにしています。
     また、運動不足になりがちな仕事ですので、自転車を買ってみたり散歩を日課にしたり、といった努力をしてみましたが、結局続きませんでした。好きではないことはやはり続きませんね。リフレッシュ方法は、長年やっているピアノと、8年ほど前から始めたバイオリンの演奏です。演奏は楽器と身体が一体となるので、相当な運動にもなり、精神的にも本当にリフレッシュできます。

  • 1月から担当されるマスターコース「経済・金融」はどのような内容になるか、教えてください。

    飯野先生

     なるべく多様な領域から課題を出し、各領域で求められる独特の言い回しやスタイルに触れていただくようにしたいと思います。本当は普段からそういった言い回しやスタイルに触れていることが望ましいのですが、経済・金融分野は幅広く、すべてに精通することはできません。今回のマスターコースでは、初めて取り組む領域であっても、類似文書を検索して探し出し、参考にし、スタイルを把握し、専門家であればどのような訳語や定形表現を使うか、確認しながら翻訳していく訓練をしていただきたいと思います。

  • 最後に、経済・金融分野の翻訳者を志す方々へのメッセージをお願いします。

    飯野先生

     経済・金融を含め、実務翻訳では内容の正確さと日本語の質が重要です。原文の情報をすべて盛り込んだ正確な訳文である必要がありますが、それだけでは不十分です。誤解の余地のない、簡潔かつ自然な質の高い日本語を書くように心がけてください。

飯野先生
プロフィール

専門学校教員および大学非常勤講師を10年ほど務めたのち、もとの専門とはまったく異なる経済・金融分野の実務翻訳者としてフリーランスに転じる。『ハーバード・ビジネス・レビュー』(ダイヤモンド社)での翻訳をはじめ、最近ではマイケル・ブルームバーグ、カール・ポープ著『HOPE―都市・企業・市民による気候変動総力戦―』(ダイヤモンド社)の翻訳に協力。

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