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宝物を訳す! アートの翻訳

美術業界の翻訳について、アートギャラリーで翻訳業務をされていた北嶋ゆきえさんにお話をうかがいます。
美術業界というと、展覧会など一般の美術ファンだけでなく美術品オークションなど芸術への造詣が深い専門家たちも集まる世界を想像しますね。
実際にはどのような翻訳が発生するのでしょうか。

美術品の翻訳は、モノではなく宝物を扱う仕事

浮世絵などの絵画を扱う画廊で勤務していた当時、私の業務は海外のコレクターや専門家、美術館などとのやり取りがメインでした。メールをはじめ、作品の解説、専門書の記述、鑑定書、展覧会の企画書などの翻訳です。

展覧会では、美術館が国外の所蔵者から作品を借りる際に、所蔵者の了承を得るために必要な作品借用契約書や、作品の運搬に伴う保険や運送会社との契約書の翻訳などがありました。作品の所蔵者に対して、国外の展覧会に作品を貸すことに伴うリスクを説明する文書を翻訳することもあります。扱う作品はこの世に1点しかないもので、所蔵者にとっては大切な宝物ですので、毎回、まとまった時間をいただいて慎重に取り組みました。展覧会の図録など、印刷物に入れるクレジット表記を翻訳し、所蔵者との確認作業も行うといった業務もありました。展覧会やアートフェアは鑑賞してくださる方あっての催しなので、招待状、作品目録、キャプション作りも欠かせません。勤めていた画廊では葛飾北斎や喜多川歌麿など肉筆の作品を担当していたので、英語版の鑑定書も用意しました。また、海外から展覧会にいらっしゃる方が日本への入国に際しビザが必要な場合は、申請用の書類の準備も行いました。

作品の解説を翻訳する際は、モチーフに用いられる季節の行事や、着物や髪型の流行、お能や歌舞伎の登場人物に関する情報を調べることも多かったです。時間に制約はありながらも、知的好奇心を刺激され、やりがいを感じました。有名な作品のタイトルは定訳が存在しているので、特に時間をかけて確認しましたね。美術品に特有の、独特な表現が用いられていることも多かったです。

 

そのほか、美術品オークションに関する業務として、日本語で制作されたオークションカタログを翻訳したこともありました。美術品オークションには、サザビーズやクリスティーズといった会社ごと、もしくは作品ごとに、かなり細かい規定があり、少しずつ条件が異なります。そのため丁寧な読み込みを心がけていました。

 

葛飾北斎は90歳近くまで生きたそうですが、人生を終える間際まで次々と肉筆の大作を描いていたといわれています。名作の傍らで、昨日の訳より今日の訳を良いものにしたい、という気持ちで臨んでいました。

「感覚的な英語」と「ビジネスのための英語」

私は大学卒業後、外資系の広告代理店に就職し、業務の一環として日英・英日の翻訳を行っていました。多国籍な同僚たちと仕事をしているうちに、文化とは何か、日本固有の美意識とは何かということを考える時間が増えていきました。ちょうどその時、ビジネス英語のスキルを求めていた、前述の画廊との出会いがありました。葛飾北斎や喜多川歌麿など、世界に通用する芸術家の作品に関わることができる環境ということもあり、挑戦してみることにしたのです。

 

広告代理店から美術業界に転身後、職場の期待にできる限り応えたいと思い、フェロー・アカデミーの講座を受講しました。授業は充実の一言で、通うことにして本当によかったと思いました。先生からは、豊かな文法の知識を元に細部にわたる解説をいただくと共に、現役の翻訳者として活躍されているからこその実務的なご指導をいただいて、英語力が磨かれていく実感がありました。

 

私は10代の頃海外に住んでいたため、感覚的に英語を使っている部分があったのですが、先生のご指導によって文法の知識が整理され、より洗練された英文にたどり着けるようになったのではないかと思っています。翻訳を行う際の漠然とした迷いが減り、どのように文章を着地させるか、という方法論を身に付けることができました。また、クラスメイトの方々との出会いも励みとなりました。仕事の場では、同じ文書を複数の人が翻訳することはまずありませんので、皆さんの表現を見せていただくだけで、多くの気付きがありました。

翻訳者もチームの一員。
プロジェクトを成功させるためにはどうしたらいいのか、という視点を持っていたい

現在は画廊を離れ、東京国際映画祭の事務局で海外宣伝・広報に携わっています。映画祭の準備は非常に複雑で、上映作品の選定、スケジュール組みをはじめ、レッドカーペットや授賞式に出席してくださる関係者の方との調整、チケット販売まで多岐にわたる分野のエキスパートが集まっています。私は主に海外のジャーナリストたちとのやり取りを行っているのですが、事前の打ち合わせはすべて英語なので、日々、様々な翻訳が発生します。作品を海外の映画祭に出品する際は、作品のあらすじや監督のプロフィール、外国人キャスト用の脚本を英訳することもあります。

美術や映画、音楽などの芸術は、私にとって人生を豊かにしてくれる大切な存在ですが、仕事にするのは難しいだろうと思っていました。私の場合はビジネス英語のスキルを評価していただき、憧れの環境で職を得られたように思いますので、これからも勉強は続けていきたいです。また、語学を仕事にする上では、柔軟性を失いたくないと思っています。翻訳者といっても業務は翻訳のみということはなく、チームの一員としてプロジェクトを成功に導くためにはどう動けばよいか、という視点は持っていたいです。そして、翻訳というコツコツ型の仕事を楽しむためには、体調を崩さないように気をつけるということも、大事なことですね。

取材協力

北嶋ゆきえさん

大学卒業後、外資系広告代理店での勤務を経てアートギャラリーにて翻訳業務に携わる。現在は東京国際映画祭事務局で海外宣伝・広報業務に携わる。フェロー・アカデミーの通学講座「ビジネス英訳」を受講。

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