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『チャーリーとチョコレート工場』

2005年に製作され、日本でも大ヒットした映画『チャーリーとチョコレート工場』。
カラフルな描写や個性的なキャラクターたちが楽しい作品です。
字幕翻訳を担当した瀧ノ島ルナさんにお話をうかがいました。
『チャーリーとチョコレート工場』
『チャーリーとチョコレート工場』
【作品紹介】
ウィリー・ウォンカのチョコレート工場では、どんな驚きがあなたを待っているのでしょう?
チョコレートの部屋ではミント風味の砂糖で出来た草のフィールドを探検し、チョコレートの川を砂糖菓子のボートでセーリング。
発明室では食べても減らないキャンディーを体験し、ナッツの部屋では賢いリスたちを観察、そしてガラスのエレベーターでテレビの部屋へ。
それはすごく楽しくて、ちょっぴり不思議、そしてウォンカ特製のチョコレート・バーみたいに、とっても美味しい大冒険。

ロアルド・ダールの古典的児童書を、監督ティム・バートン、主演ジョニー・デップ&フレディ・ハイモアで映画化。
この目も眩むばかりに素晴らしい映画こそが、あなたをめくるめく創造と想像の世界に導く“ゴールデン・チケット”。
この甘美なる世界から、一瞬たりとも目が離せない!

■監督:ティム・バートン
■出演:ジョニー・デップほか

ロアルド・ダールの原作に、ティム・バートン監督がスパイスを

有名なロアルド・ダールの原作を映画化したのが本作品。市販のウォンカの板チョコに5枚だけ入っている金のチケットが当たった子供たち5人を、天才ショコラティエ、ウィリー・ウォンカがチョコレート工場に招待するのですが、主人公のチャーリー・バケット以外は全員、問題児ばかり。1人だけが特別賞をもらえるというのですが、奇想天外な工場の中で子供たちが1人消え、2人消え……

© 2005 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved
© 2005 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved

CGに頼らず実際にセットを作って撮影された工場シーンが実にカラフルできれいです。ジョニー・デップのウィリー・ウォンカは怪しい魅力を放ち、小憎らしい子供たちと純なチャーリーの対照が鮮烈。それにウンパルンパたちの歌と踊りも最高! 童話にしては少々辛口ですが、最後には胸が熱くなる監督の創作シーンが用意されていて、観た後、心がホンワカする楽しい作品です。

© 2005 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.
© 2005 Warner Bros. Entertainment Inc. All rights reserved.

映画ではとても忠実に原作を再現しています。セリフも原作の言葉が随所に使われています。ただし、ティム・バートン監督はウィリー・ウォンカの設定に独自のアイデアを取り入れていて、原作ファンは複雑な思いがあるかもしれませんね。私はそれがよいスパイスとなって、映画を引き締めていると思いますが。

 

ティム・バートン監督とジョニー・デップが組んだ作品ということで、ワーナーさんもかなり力を入れていると聞き、緊張しました。できるだけ分かりやすく、またキャラクターの雰囲気を生かしたセリフになるよう気をつけました。

字幕翻訳秘話

日本での劇場公開は2005年9月でしたが、実際に翻訳したのは6月末から7月頭にかけて。先に制作していた吹替版の収録スケジュールと重なり、製作担当の方の都合により素材をいただいてから納品まで2週間くらいありました。ほかの仕事とのかねあいで実質は10日間くらいで仕上げましたが、通常は1週間程度なので、長く時間をかけられラッキーでした。

 

原作のセリフには韻を踏むなどの言葉遊びの要素が多分にあり、映画のセリフにもそれが取り入れられていたので、翻訳は難しかったですね。残念ながら力量が足りず、韻の部分までは訳出できませんでした。2カ所ほど言葉遊びがあったのですが、これもルビを使った苦しい訳でした。

 

1つは“whipped cream isn’t whipped cream at all unless it’s been whipped with whips.”で、 ホイップクリームとむち打つホイップをかけています。もう1つは“In that one silver hair, I saw reflected my life’s work … I must find a heir.”で、ウォンカは“heir”を“hair”と発音しているんです。興味のある方はDVDでご覧ください。

 

それと文化の違いで日本では馴染みのないお菓子が出てくるところを、どうしようか迷いましたね。ウォンカとチャーリーが新作のお菓子について話すシーンで、こんなやりとりがあるんです。

 

“How do you feel about little raspberry kites?” 

“With licorice instead of string!” 

 

この“licorice”は英米人ならすぐに糸に似たお菓子としてピンとくるそうなのですが、カタカナで「リコリス」としても、たいがいの日本人はイメージが湧かないですよね。ネイティブの方に相談したら、日本人が糸を思い浮かべるお菓子にすればいいとアドバイスされ「綿アメ」にしました。

 

同じように“beatniks”も「ビート族」では多分、知らない人の方が多いでしょう。私も知りませんでしたから。これもネイティブに聞いたところ、時代がヒッピーの一世代前なだけで、格好や内容はほぼ同じと教えてくれました。ヒッピー族なら日本でも馴染みがありますよね。文化の壁をしみじみ感じました。

 

原作には、田村隆一さんと柳瀬尚紀さんによる訳書があったのですが、字幕では自由に訳してくださいと言われていたので、翻訳が終わるまで敢えて読みませんでした。読んでしまうと影響されてしまいますから。でも、終わってから早速、両方とも読みました。この映画の少し前に出た柳瀬尚紀さんの新訳には、言葉遊びや韻が見事に訳出されています。「翻訳はいかにすべきか」という著書を岩波新書から出されていますが、まさにそれを実践なさっているのがスゴい!と感服しました。

取材協力

瀧ノ島ルナさん

映像翻訳家。映画『ヨギ&ブーブー わんぱく大作戦』(吹替・字幕)『チャーリーとチョコレート工場』『リーピング』(字幕)、海外ドラマ『ブラウン神父』シリーズ、NHKの番組などの翻訳を手がける。

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