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他分野の翻訳スキルを利用して、活躍の幅を広げる! 「産業動画」の翻訳

製品やサービスのプレゼンテーション、役員の挨拶、オンラインセミナーなどなど――。
ビジネス、マーケティング関連の分野では、ひと昔前は紙面やWebサイトで文字情報のみで伝えられていた情報が、動画という形で発信されることが近年増えています。ビジュアルを活用することで、文字では伝えきれない情報やイメージを瞬時に理解させられたり、訴求力を上げてユーザーの興味をより掻き立てたりと、多くのメリットがあるからです。

そんなメリットのある「産業動画」に字幕をつけるのも翻訳者の仕事。産業動画の翻訳案件を手がける翻訳会社の方にお話をうかがいました。

字幕の場合は一度読んで伝わる簡潔さがいっそう重要
――株式会社十印 菊地大悟さん

弊社では国内外の大手企業様から動画に関する翻訳案件を多く受注しています。お客様の業種は多岐にわたりますが、広告などの商材としての動画、社内で使うeラーニング用の動画、株主総会や採用などに使う動画など、企業活動において使われる様々な動画のご依頼があります。

特に2020年のコロナ禍になってからは、多くの対面イベントが自粛され、オンライン化が進みましたが、その録画配信に字幕も付けることもあり、新たな需要が増えたと言えます。吹き替えも一部ありますが、予算やスピードの面から、字幕案件のご依頼の方が多いです
また、弊社のお客様はグローバルに展開していることが多く、英日や日英以外の翻訳案件もあります

産業動画、特に字幕の翻訳においては、一度読んで伝わること、簡潔であることなどが通常の文書の翻訳よりもいっそう重要になりますので、それは翻訳者の方に特に気をつけていただきたい点です。お客様の完成イメージやご要望は一様ではないので、弊社によるお客様へのヒアリングも重要です。
よりよい品質のために、弊社から簡潔な訳や字数に関して提案をすることもあります。

弊社では、翻訳トライアルの課題を実案件に即した内容にしています。産業字幕はあくまでスキルとしてはオプションであり、通常の文書の翻訳ができる方や、エンタメ字幕の仕事もしているような方が安定して受注できると思います。
機械翻訳の精度も上がっていますので、今後、ポストエディットができるスキルのある方であれば継続的に発注しやすくなるかと予想されます。

映像翻訳の学習・仕事経験がある方はそれも活かすことができますが、扱う内容やお客様の求めるものが違うため、コツや慣れが必要でしょう。例えば動画のコンテンツにふさわしい用語・表現を使う、お客様の希望に沿ったスタイルやトーンで訳すといった柔軟性も必要になります。
産業字幕の翻訳スキル向上は、場数をこなしてみないとわからないものですので、深く考えすぎず、挑戦してみるのがよいと思います。

十印が担当する講座「産業字幕」の詳細を見る 

取材協力

菊地大悟さん
英語とドイツ語のフリーランス通訳者・翻訳者などを経て、株式会社十印に入社。社内では、多言語プロジェクトの品質管理、翻訳者や協力会社など外部委託先とのリレーションなどを中心に幅広い業務に携わる。最近の趣味はもっぱら古代語。珍しい辞書を見るとつい買ってしまう。
株式会社十印
創業1963年、業界の黎明期からパイオニアとして半世紀の実績を誇る翻訳サービス/ローカリゼーション企業。IT・機械・法務・医薬だけでなく、最近はクリエイティブな領域でも定評がある。ワールドワイドに展開し、英日・日英だけでなく多様な言語のプロジェクトを取り扱う。
株式会社十印のWebサイトはこちら

案件分野の知識に加え、訴求力のある表現のニーズもますます増加
――トライベクトル株式会社 矢柳祐介さん

弊社で受注する映像コンテンツは、ビジネス分野ですと、製品やサービスのプロモーションやプレゼンテーション、グローバル企業のウェビナーやCEOによるスピーチなどがあります。映像を使う目的や媒体も様々ですが、コロナ禍でオンライン化が進んだことにより、動画による発信も増え、字幕やナレーション収録のご依頼も多くなりました。

一方で、コロナ禍で一時停滞したインバウンド需要も再燃しています。弊社では、全国の美術館や博物館からの受注も多いのですが、施設や展示の紹介やアーティストトークといった映像につける字幕のご依頼もいただいております。言語も英語だけでなく多言語展開されるケースが増えているのがトレンドです。

ビジネスや集客を目的とした映像ですので、翻訳は各案件の分野における専門用語にも対応できる方に依頼しています。それに加えて、ターゲットに対して訴求力のある表現が求められることが多くなっているため、その専門分野の実績はもちろん、ボキャブラリーが豊富で多彩な表現が得意な出版翻訳の経験がある方や、いわゆるクリエイティブ翻訳やトランスクリエーションに対応できる方がいらっしゃると助かります。

産業翻訳においては、エンタテイメント系の映像作品ほど細かいルールや制限を守ることは求めていません。映像の目的の多くは、「映像をきっかけに製品やサービスなどを知ってもらう」ことにあるからです。いかにクライアントの目的通りにターゲットに伝わるか、それを重視しなければなりません。そのため、字数や尺にとらわれ過ぎず、かつ分かりやすい字幕やナレーションにするために、「原文を前から順番に訳しているか」「冗長になりがちな場面でもなるべく短くまとめているか」「より訴求力のある表現ができているか」ということを心がけて翻訳を進めるようにしています。

取材協力

矢柳祐介さん
トライベクトル株式会社 代表取締役。翻訳/ローカライズ業界 25年以上。前職ではゼロからの翻訳事業の立ち上げから軌道に乗せるまでを行う。トライベクトル設立後は「大切な想いをつなぐ」を経営理念としてお客様にとって役に立つ「良い品質の言語サービス」を提供している。
トライベクトル株式会社
設立20年。ITとアート分野を中心に翻訳や通訳のみならず、字幕翻訳、動画/映像制作、コンテンツ制作、語学研修、英会話、オンライン講座など「企業向けの言語コミュニケーションサービス」を提供している。
トライベクトル株式会社のWebサイトはこちら

「クライアントの制作目的は何か、視聴者は誰か」を把握する
――ブレインウッズ株式会社 笹波和敏さん

当社が受注する案件には、製品・サービスのプロモーション映像、事業内容紹介、研修動画など様々なコンテンツがありますが、中には、企業CEOが現地法人の社員に向けて行うスピーチを収録したメッセージビデオの翻訳といったハイコンテキストな「社内向け」のものや、専門性の非常に高い学術セミナー動画の日本語版制作といったものもあります。

通常、マーケティング映像では、宣伝・広告の翻訳が上手な映像翻訳者に依頼します。クライアントから渡された映像をお渡しして、一から字幕やナレーション原稿を作ってもらう事が多いですね。一方、 ハイコンテキストな内容の映像や、専門性の高い分野の映像翻訳の場合は、実務翻訳者と映像翻訳者がそれぞれの特長を活かして共同で字幕や吹き替えを制作する場合もあります。実務翻訳者の場合は、映像翻訳のルールについての知識がなく、字幕制作ソフトも所有していないため、映像スクリプトの忠実な訳のみ依頼し、スポッティング作業や字数の調整などの部分は映像翻訳者にお任せすることもあります。

言語方向については英日・日英それぞれ4割程度。近年はインバウンド等の影響があり、日本語を含むアジア言語を英訳する仕事が2割程度と増えてきています。字幕と吹替の比率については、コストが安く抑えられるという理由で、字幕の依頼が多いです。また、見本市や展示会などのブースでは、様々な制約もあるため、字幕版を制作することが多いです。視聴者が仕事中にネットで映像を見ることを想定して、音を出さなくても内容が分かる字幕が好まれるという面もあります。一方、医療・医薬分野では、情報を漏れなく伝えたいという理由から吹替やナレーションの需要も高いです。

このような産業系動画の日本語版制作では、基本的にはエンタテイメント系の映像翻訳と同じルールで字幕やナレーションを作るので、映像翻訳の知識はあった方が良いと思います。例えば、字幕であれば可読文字数を設定する、ナレーションであれば紛らわしい同音異義語を避けて別の言葉に言い換える、などです。加えて、大切なことは「クライアントがどういう目的で映像を使用するか、視聴者は誰か」をよく把握し、ニーズに合わせた翻訳をすることです。

また、一般の方が見る映像の場合は、誰もが分かりやすい字幕を作ることや、情報が多い部分でもなるべく文字数を少なくすることなどに気を配る必要がありますが、B to Bで専門家が見る場合は、専門的な名称や用語もそのまま伝える必要がありますし、吹替の場合は同音異義語などにも注意しなければなりません。そのため、依頼を受けた時点で、訴求対象や映像によるコミュニケーションの目的を明確にすることが重要となります。

それを踏まえたうえで、映像翻訳のルールである文字数や行数の制限などを適用します。企業によっては、文字数が通常の映像翻訳の制限数より大幅に超えてしまうことになっても、正確に情報を伝えてほしいという要望もあります。内容をくまなく伝えたいか、それとも誰にでも分かりやすい字幕やナレーションで映像を見てもらうか、どちらを重視するかによって訳文の作り方も変わってきます。

取材協力

笹波和敏さん
獨協大学外国語学部英語学科を卒業後、国際写真通信社に勤務。勤務の傍ら、1990年代は翻訳者としてドキュメンタリーやエンターテインメント関連の翻訳に従事。2000年に同社を退職後、大学のクラスメートの相田と共にブレインウッズを設立、専務取締役に就任。趣味は、国内外の映画・音楽・書物・写真・アニメ等。
ブレインウッズ株式会社
ブレインウッズは、社長の相田と専務取締役の笹波が2000年に創業。言語に関する知識・経験のあるスタッフを集め、企業向けの翻訳事業を開始。その後、通訳事業、映像翻訳事業、英語研修、バイリンガル人材派遣、デザイン事業に着手し、国内外の企業・組織の国際的な活動をサポートする各種サービスを展開している。
ブレインウッズ株式会社のWebサイトはこちら

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