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オリンピックに関する翻訳

世界中の国々が参加する国際イベントには、各国間で取り交わされる文書や一般に向けた情報など、翻訳のニーズが多数あり、開催国のインフラ整備と同じように、翻訳者の存在も欠かせません。
実際にオリンピック関連の文書の翻訳に関わった栗宇美帆さんに、具体的にはどんな仕事があるのか、また、どうすればオリンピック関連の仕事に翻訳者として参加できるのか、うかがいました。

重要なのは、用語統一
オリンピック開催に向けた、ありとあらゆる文書で和訳と英訳が必要になる

私の場合は2012年に、当時登録していた翻訳会社からの依頼がきっかけで、オリンピック関連の文書を翻訳するようになりました。実は若い頃にある競技で選手としてオリンピックを目指して活動していたことがあったので、翻訳でオリンピックに関われるのはとても嬉しかったです。最初の納品の時、今後も継続してオリンピック関連の仕事がもらえるよう翻訳会社に意欲をアピールしました。

 

一番はじめの案件は2020年の東京開催に向けた招致に関するレポートの和訳だったと思います。あくまで推測ですが、開催地としての評価対策に使われていたのではないでしょうか。文書が何のために書かれたものかは文書を見れば分かりますが、実は、私たち翻訳者には、その訳を誰がどんな目的で使うかは知らされないのです。はじめのうちは過去の大会のレポートの和訳が多かったです。やがて運営の大まかな流れやスケジュール、部署の役割などの和訳や、各部署の業務に関係する文書の英訳など、内容は多岐にわたっていきました。

 

翻訳の際には、用語の統一にもっとも気をつかいました。たとえば、ある一つの用語について、それが一般的な使われ方をしているのか、オリンピック関連の独特の用語なのかの見分けがつかないことが多いのです。基本的には一般的な使い方のものでもオリンピック用語に統一させる、というのが翻訳会社の方針でしたので、そのように訳しました。たとえば、“sports”は「スポーツ」ではなく、「競技」と訳すなど、です。

 

そのため、翻訳会社から渡された用語集には載っていない言い回しがあれば、仮訳した上で、片っ端から翻訳会社への確認事項として一覧にまとめた疑問表に挙げていきます。その内容とクライアントからフィードバックされて加わった言葉がどんどん追加されていくため、用語集は膨大な量になっていきます。また用語集に載っていない言葉であっても用語統一には注意が必要なので、数語入力してはオリンピック関連の文書ファイル全体に検索をかけるといった作業も行っており、とても手間がかかります。

 

これまで訳した部分との整合性をとるのも大変です。たとえば英訳の場合、用語集にない言葉は原文の日本語を過去の和訳の訳語から探し、その原文ファイルを当たって対応する言葉を訳語にあてる、という作業になります。ファイルにはPDFも多く、その場合はフォルダ内の一括検索ができないためひとつひとつ開いて検索する必要があります。デスクトップに開かれているファイルの数が10個以上になり、その中を行ったり来たりしながら訳していきます。

 

苦労したのは、用語統一により不自然になってしまう文の流れをなるべく自然な形にしたい、というこだわりをどこまで入れるかです。意訳によって用語を省略したり、変更したりすることは望まれない文書が多かったので、とくに和訳では意味の通る文にするために、なるべく最小限の言い換えで自然な日本語にすることに苦労しました。

はじめは、どんなジャンルでも依頼を受けるという姿勢が大切。
でも、「このジャンルならこの人」と思われることが、将来のキャリアには必要。

私は1995年から4年間、ニューヨークに住んでいました。帰国後、同時多発テロでマンハッタンの景色が変わってしまった衝撃から、自分にできることはないかを考えるようになりました。子どもの頃の夢であった翻訳者を志すようになって、ある翻訳学校の広告が目にとまり、そのまま入学を決めました。

 

当時は翻訳のことはほとんど知らず、実務、出版、映像という分野があることや、実務翻訳でも細かい専門ジャンルに分かれていることも知りませんでした。たまたま目にした翻訳学校が実務翻訳の養成学校で、在学中にその親会社からお仕事をいただくようになり、その流れで実務翻訳者となりました。

 

2009年から2年ほど、翻訳会社にチェッカーとして勤務し、IT、環境、産業、医療、製薬、食品、学会など、実務翻訳のありとあらゆるジャンルで様々な文書をチェックしました。和訳と英訳では、英訳が圧倒的に多かったです。先輩翻訳者の方々の訳を細かく見ることがきたのは、表現や語彙を広げる意味でも、文意の解釈の仕方の点でも、とても勉強になりました。翻訳の自由度、制限などについても自然とこの頃に身についたのではないでしょうか。英訳のチェックはネイティブチェックの後に回ってくるので、日本人からみたら問題ない訳でも、ネイティブがチェックを入れるポイントなどを見ることができたのも勉強になりました。なんといっても、いろいろなジャンルの様々な文書で大量の英語、日本語を読んだことは、大量な訳例のインプットになっていたと思います。

 

その後、チェッカーをしていた翻訳会社から翻訳の仕事をいただき、それが翻訳者としての最初の仕事でした。たしか、ある大学の国際化に伴うHPや入学要項だったと思います。しばらくチェックと翻訳を並行していましたが、その翻訳会社の社内翻訳者にスライドさせていただいてからも、様々なジャンルの翻訳を手がけました。チェッカーをしたことで会社の翻訳ルールや基本的なレイアウトが分かっている、コーディネーターさんから仕事ぶりに対する信頼をいただいている、これが仕事をいただく上で非常に有利だったと思います。

 

翻訳者として独立してから数年も、可能な限り仕事を断らずいろいろなものを経験するようにしましたが、強みとなる専門を持つ努力もしました。また、翻訳会社のトライアルを積極的に受けていきました。翻訳者ネットワーク「アメリア」の定例トライアルでテクニカルジャンルのクラウンを獲得していたので、実際のトライアルを受けることにためらいはありませんでした。実際、受けたトライアルではほとんど合格をいただいています。

 

どんなジャンルでも依頼を受けるという姿勢ではありましたが、このジャンルならこの人、と思って依頼をもらえることも将来のキャリアに必要と思い、フェロー・アカデミーの通信講座「マスターコース」で、もともと興味があった「IT・テクニカル」を受講しました。マスターコースでは専門ジャンルに特化した翻訳の常識、細かい言葉使いを学べたことが大きかったです。また、自分の細かい誤訳の癖に気づいたり、簡潔な訳文を重視するという視点を得ることができました。

 

この講座を受けたことと、ITパスポートを取得するための勉強経験によって、実はある会社のトライアル問題のあやまちを発見したことがあります。それを会社にお伝えし、トライアルにも無事合格することができました。

 

2014年からは出版翻訳の仕事にも携わっています。実は前から自分で訳したいと思っている本があったのですが、あるセミナーで出版に詳しい方と知り合いになったためその夢について話したところ、出版社をご紹介くださったのです。 その本は、翻訳したものの、事情により出版は保留になっているのですが、同じ出版社から別の本の翻訳を頼まれ『人生を大きくジャンプさせるワクワクの見つけ方』というタイトルでデビューすることができました。

 

出版翻訳の仕事が決まったとき、フェロー・アカデミーで通信講座「はじめての出版翻訳」も受講しました。出版での基本的な表記ルールを身に付けることが目的だったのですが、伝わる文章を書くためには、言葉と言葉の逐語の正しさにこだわるのでなく、翻訳者が覚悟をもって飛び込んでいかなければならない部分があるということも学ぶことができました。

 

いまは自宅のリビングに仕事コーナーを設けて、在宅で仕事をしています。10時から19時ぐらいまでを仕事の時間にしていますが、1時間~1時間半集中したらお茶を入れて飲んだり、SNSをチェックしたり、ストレッチをしたり録画を見たりします。昼食、夕食は自分で作ります。仕事が佳境に入るほど、料理をしたくなります。その期間は外出もほとんどしなくなるので料理が気分転換になるのでしょう。ときには1週間誰にも会わず籠もっていることもあるので。

 

また翻訳以外にSkypeを使ったコーチングやセミナー講師もしています。この仕事では心や人間関係を扱うため、翻訳させていただいている本の分野に共通し、相互の活動が補完し合ってくれます。また翻訳という孤独な作業と、コーチングやセミナーという対話の作業があることで、バランスが取れているようにも思います。

 

翻訳は読み書きができればいいと思われる方もいるかもしれませんが、やはり英文の流れやリズムを知ることは翻訳でも大切だと思います。とはいえ私は英語を「聞く」「話す」が苦手でした。私の場合は好きな本のオーディオブックを聞くことがとても効果があり、移動や家事のときなど、iPodでずっと聞いていたおかげで英語の自然な流れ、文の構成やリズムなどに慣れていったのだと思います。聞き続けていくうちに英語音声が頭の中で日本語に置き換えることをせずに理解できる瞬間が突然来ました。ポイントは好きな本というところです。学ばねば、という脅迫観念ではなく、知りたい、面白い、というモチベーションで続けていくことができました。

 

学習段階では、文法をきちんと身につけることが大切だと思います。私は翻訳学習中、文法と構文の本を短期間に集中して4冊読みました。辞書のように引くのではなく、頭から隅から隅まで読むということです。同じことを繰り返すのが苦手だったため一つの文法書を繰り返し読むのが耐えられず、ことなる文法書を読むという作戦だったのですが、文法書によって載っていることが違ったため、結果的にはよかったと思っています。

 

今後は、コミュニケーションや心理学、自己啓発、人を豊かにするビジネス、といったジャンルの書籍の翻訳をしていけたらと思います。翻訳というのは言葉から言葉への二次元的な移し替えではなく、原著者が表現した概念を原文を通して翻訳者が共有し、自分に入った概念を翻訳言語で表現するという三次元な作業だと思います。ですので、批判や非難されないことにフォーカスした「正しい」翻訳ではなく、感性で受け止め感性に響く翻訳をする翻訳者でありたいと思っています。

取材協力

栗宇美帆さん

4年間の米国在住から帰国後、実務分野の学習を開始。社内チェッカーを経てビジネス全般の翻訳に携わる。翻訳を通して世の中に伝えたいという想いを持ち、現在は出版翻訳に携わる。訳書に『人生を大きくジャンプさせるワクワクの見つけ方』(ヴォイス社)など。

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