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ファッションブランドの翻訳

世の中の流行の最先端をきらびやかにリードする、ファッションブランドに関する翻訳についてお届けします。
トレンドの発信地でもあるフランスに住みながらファッションブランドの翻訳に関わる野村真依子さんに、実際の仕事にはどんな内容があるのか、お話をうかがいました。

華やかな世界の裏にある、シビアな問題

私が経験したファッションブランドでの翻訳には、ファッションショーや関連イベントのプレスリリース、ブティックでの販売スタッフに向けてシーズンごとに出されるカタログや、商品知識や接客、ディスプレーの方法についてなどが書かれた研修資料があります。

 

また、ブランド公式サイトに掲載する内容もあり、商品を説明する文章や、動画の字幕、ニュース記事、ソーシャルメディア用の記事、オンライン販売の利用規約やプライバシーポリシー、顧客に送信されるメールの雛形などがあります。ブランドのCSRの一環として、例えば「ブティックの照明を変えて〇%の省エネを達成した」、「生産拠点を環境負荷の少ない設計で新築した」、「COP21など環境関連イベントを後援した」といった環境問題や、「毛皮は使用しない」、「サプライチェーン内で動物実験は行われていない」という動物愛護問題への取り組みをアピールする内容のものもあります。

 

個別のブランドではなくラグジュアリーグループの場合は、例えばITセキュリティーに関する推奨事項や幹部のインタビューなどを含む、イントラネット内の記事やニュースレターもあります。

 

こういった案件のソース言語はほぼ英語で、私が担当するのは英日翻訳がほとんどです。ファッションといえばフランスのブランドが多いですが、もとがフランス語でも、主に英語を経由して各国語に展開しているようです。そのせいか、たまに、もとのフランス語の訳語や文章のスタイルに引きずられた、違和感のある英訳文に遭遇することもあります。たとえば、ある英単語を英語の辞書で調べても意味がしっくりこなかったときに、それに相当するフランス語を調べたら、あっさり意味が通った、ということがあります。語源が同じで、2つの言語の間で形もほとんど変わらないという単語でも、意味が微妙にズレていることがあるので、そのせいだなと思いました。またフランス語だと、主語の前に、その主語を説明する長々とした同格句を置くことが珍しくないのですが、英語だと長い同格句は後置する方が一般的だと思います。英語に併せて、資料としてフランス語版をいただくこともあるので、そんなときは「フランス語の原文ではこの順番だったのか」と一人納得します(笑)。フランス語もわかってよかった!と思います。

 

ファッションブランド関係の翻訳では、ブランド名やシリーズ名などで、アルファベットにするかカタカナにするか、カタカナの場合は区切りを中黒にするのか半角スペースにするのか、「クリエーション」とするか「クリエイション」とするかなど、表記がブランドごとに細かく異なるので、公式サイトで逐一確認します。また、ブランドのこだわりを説明するような内容だと“unique”や“exceptional”といった大袈裟な形容が多いのですが、そのまま日本語にすると鼻につく場合があるので気を遣います。実際、「形容詞は控えめに」という指示がある場合もあります。ブランドの格調を保ちつつ、同時にわかりやすく、というバランスが難しいと感じています。社内向けの事務的な内容の文書であれば、淡々と訳せますが。

 

私がファッションブランド関係の翻訳を手がけるようになったのは、実は専門ジャンルを特定せず募集していた翻訳会社に登録したら、結果的にブランドものの案件が多かったという経緯です。個人的にはファッションの流行を追いかけたりする方ではないので、翻訳する機会がなければ知らなかったような世界が覗けるのは単純に楽しいです。翻訳するにあたっては公式サイトが一番の資料になりますが、既存の訳と新たに訳すものがズレてはいけないので、確認のために公式サイト内をぐるぐる巡るうちに、それぞれのブランドに関する知識が増え、欲しい情報の在処がわかるようになってきました。

 

また、ブランドという一つの切り口でも、文書のスタイルやテーマは多様なので飽きません。ただ、華やかな世界の裏にある、環境や動物愛護、職人の後継者不足などといったシビアな問題への対処を詳しく知ることになるので、ブランドを見る目が変わるかもしれませんね。

分野や言語を絞らず、間口は広く。
これが初めの一歩をスムーズに踏み出す秘訣だった。

学生時代に外国語(英・仏・独・伊)の論文を精読するゼミがあり、そのときから訳す作業は好きだったのですが、翻訳を仕事として意識したのは結婚を機にフランスに住むことを決めてからです。

 

日本に対しては海外在住であることが、フランスに対しては外国人であることがハンデにならない専門職と考えて、翻訳なら性にも合っていると思いました。最初はなんとなく仏日翻訳を考えていたのですが、翻訳の基本を押さえるためにまず通信講座でも受けようと思って調べたら英日翻訳の講座ばかりでしたので、英日翻訳の講座をいくつか受けました。学習中に仏日翻訳の市場や間口の狭さを実感し、「英日をメインに、フランス語もできる」翻訳者を目指すことにしました。

 

いまもフランスに住んでいて、朝7時の起床後にはまずメールをチェックしますが、この時点で日本はすでに午後なので、遅くならないうちに対応の可否を返事するようにしています。その後、子どもを学校に送って家事を済ませた9時半頃から仕事を開始します。その日の気分や焦り具合によって、間に挟む昼休みの長さや買い物に行く時間帯、休憩の回数が変わります(笑)。午前中や夕方にダンスのレッスンに行く日も。フランスの小学生は日本より帰宅時間が遅く、18時ぐらいに子どもが帰宅したら、仕事は一旦終了です。子どもが寝た後の21時半には、日本時間で翌朝(フランス時間で夜中の2時や3時)が締切の案件の見直しや納品の仕事に戻ります。だいたい23時ぐらいまでですが、時間配分に失敗し、夜中までずれ込むこともあります……。

 

これまでに、ルーヴル美術館のウェブサイトやクラシックCDの解説、環境問題を扱った記事、ビジネス書、自己啓発書、自然科学に芸術分野といった書籍の翻訳にも携わってきましたが、専門分野が絞れていないので、分野開拓の一環でフェロー・アカデミーのメディカルジャンルの通信講座を受講しました。残念ながら今のところ仕事には直結していないのですが、未知の分野でも気合を入れて調べ物をすれば、ある程度のレベルの訳文に仕上げられるという実感が得られたことは、仕事であまりなじみのないテーマに遭遇したときの励みになっています。

 

ラグジュアリー分野ではファッションに限らず、時計やジュエリーブランドの案件もあり、そうしたブランドがスポンサーを務めるスポーツイベントの記事も少なくありません。ほかに、契約書やマーケティング資料、学術論文の和訳もあれば、製品データシートの英訳を立て続けに担当することも。校閲者として登録している会社もあるので、心理学や政府開発援助など、これまた多様な分野の校閲も定期的に引き受けています。

 

分野が幅広いので、気分転換には困りません。多種多様な案件を打診されますが、中にはあまりにも未知の世界で、自分が引き受けてよいのか不安になるものもあります。そんなときでも怖気づかずに快諾できるように、一つひとつの経験を確実に積んで知識を吸収し、自信をつけたいと思っています。

 

私は通信講座で学習しましたが、ボランティアの翻訳グループで一つの英文、英単語に対してどう訳すかをメールで議論する機会があり、それが緻密に訳す訓練として有効だったと思います。また結果論かもしれませんが、最初から分野や言語を絞らず、間口を広くしておいたことが、プロとしての初めの一歩を比較的スムーズに踏み出す助けになったかもしれないと思っています。

取材協力

野村真依子さん

大学では西洋美術史を専攻。結婚を機にフランスに移住し、翻訳の学習を始める。現在は専門分野を定めずに、ビジネスに関わる全般的な翻訳に携わる。フェロー・アカデミーの通信講座「ベータ応用講座 「メディカル」」、マスターコース「メディカル」を受講。

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