WORKS
世界各地の新しい情報を、正確に、早く!
海外ニュースサイトの翻訳
海外のニュースを新鮮なうちに、正確に日本の読者に届けるためには、どんな工夫やスキルが必要なのでしょうか。
また、どのようなタイムスケジュールで受注・翻訳されているのかについても教えていただきました。
経済・金融のニュースサイト
藤澤將雄さんインタビュー
私は米ダウ・ジョーンズが発行する世界最大の経済新聞『ウォール・ストリート・ジャーナル(WSJ)』のオンライン日本語版で、主に米企業の業績や株価、米経済指標に関する分析記事を翻訳しています。トランプ政権のスキャンダルや、米国以外で起きた災害・事故・事件の速報を訳すこともあります。平日と土曜日の朝、6:30~8:30に翻訳の依頼が入り、短い記事だと10:30、長めの記事は昼までに原稿を仕上げています。
また、同じく米ダウ・ジョーンズが発行する週刊金融誌『BARRON’S』の記事から、日本の投資家向けに抜粋した「バロンズ拾い読み」で、米国市場に関するコラムや著名投資家、ファンドマネジャーなどのインタビュー記事も訳しています。こちらは土曜日の15:00ごろから作業を初め、A4で3ページ超の記事を1.5~2ページの抄訳にし、遅くとも22:00までに納品しています。
案件のメインは金融・経済・政治ですが、エンタメ、スポーツ、ライフスタイルなどの記事を訳すこともあります。米国のニュースは視点や切り口が日本のメディアと違っていて興味深いものです。また、日本ではあまり報じられていない国際ニュースにいち早く触れることができ、その日のうちに多くの人に読まれるというところにやりがいを感じますね。
原文が届いたら、まず一読した後にキーワードを拾って検索し、最近の関連ニュースを読みます。そして背景知識やその業界で使われている用語を頭に入れてから翻訳に取りかかるようにしています。企業名、個人名といった固有名詞の表記や数字のケタ、単位、日付などに細心の注意を払うことはもちろん、事実関係についてもできる限り裏を取らなくてはなりません。
日頃から、日経新聞を読んで経済・金融に関する知識や相場用語、時事用語の更新を心掛けています。また、CNNやCNBCなど、米ケーブル局のニュース動画も毎日最低2時間は視聴しています。さらに普段からブラウザのホームページはGoogle News U.S.に設定したり、米国のニュース速報メールが受信できるように登録したりと、自然と情報収集できる環境を作るようにしています。
米国でヒットした映画やドラマ、コメディアンのジョークなども、話題やたとえ話としてコラムによく出てくるので、動画配信サイトやYouTubeでまめにチェックするようにしています。
翻訳という仕事は、とにかく実際に経験してみないとそれがどれだけ大変なのか、自分に向いているのか、興味を持って続けられるか、などが分からないものだと思います。私自身も小説、ノンフィクション、映像、マンガ、ゲーム、ビジネス文書などの翻訳を経て、最終的にニュース翻訳にたどり着きました。特に経済・金融が得意分野というわけではありませんでしたが、知識は仕事をしながらでも蓄積できます。
あまりジャンルにとらわれず、何事も経験と思って、いろいろな分野のトライアルにチャレンジする姿勢が大事だと思います。
スポーツニュースの翻訳
高﨑拓哉さんインタビュー
僕の場合は、AFP通信が配信する総合ニュースサイトAFPBB Newsの日本語版で、スポーツ記事を担当しています。ヨーロッパが拠点の通信社でサッカーやテニスなどが中心ですが、さまざまなスポーツを幅広く網羅していて、日本では少しめずらしいところだと、自転車ロードレースなんかも定期的に扱っています。
記事のタイプもさまざまです。試合や大会の前に情報や見どころを解説するプレビューから、試合・大会後の結果や選手・監督のコメントを掲載したレビュー、選手の移籍情報や薬物違反、連盟幹部の汚職といった事件などなど。ちょっとしたコラムやこぼれ話的なものを訳すこともあります。
僕はオンサイトで作業をしているので、オフィスへ行って、そこでその日の記事を割り振ってもらい、翻訳を進めます。だいたい1本200ワード+写真キャプション数枚で1時間くらい。それを1日に平均7~8本、順番に訳していく流れです。たいていの記事はその日のうちに作業が終わりますが、何日かに分けてやることもあります。
さまざまなニュースサイトがありますが、AFPBB Newsはわりと堅めのニュースサイトなので、基本的にはあまりくだけた日本語は使いません。言葉遣いや漢字の閉じ開き、カタカナ語の表記に関しては、時事通信社が出している用字用語ブックに従う必要があります。また、原文は日本語の一般的なニュース記事とフォーマットがやや異なるので、状況に応じて原文を切り貼りしたり、情報をまとめたり、順番を入れかえたりして、日本語の記事として読みやすい流れに編集することもあります。
スポーツニュースを翻訳する場合は、スポーツ好きであることが一番の強みだと思います。僕自身は、好きだから、楽しいからという理由で普段からスポーツの記事を読んだり、試合を観たりして、それが結果的に仕事をやりやすくしている部分があります。
極論を言えば、スポーツの記事を定期的に読んでいて、つまり日本語のスポーツニュースのフォーマットになじんでいて、試合を観ていれば、次の日にその試合の記事を振られたとき、原文を見なくてもある程度のことは書けてしまいます。逆に興味や時間がなくて試合を観ていないと、細かい部分がよくわからなくて困るときもあります。
スポーツニュースも数字や記録のファクトチェックが必要で、リサーチの作業量は多いですが、そういった作業を楽しんで進められるようでないとつらいかもしれませんね。ちょっと大変だなと感じるのは、数字や名前、記録が、とにかくたくさん出てくる記事です。
たとえばアジア大会の競泳では1日に7種目くらい決勝があって、そのすべてに1位から3位までのメダリストがいて、それぞれのタイムや、人によっては大会新記録が出たとか、世界新記録とか、今大会何個目の金メダルだとか、アジア大会通算●個のメダルは過去最多だとか、いろいろな情報が付随してきます。
選手の移籍や引退の記事なんかでも、たくさんの情報が羅列されることが多く、それを突き合わせていく作業は、どんなに好きでもやっぱり大変さを感じることがあります。さらに、海外の情報の中には事実関係が曖昧なものがあるので、そのまま鵜呑みにせず、可能な限りひとつひとつ事実を確認していく必要があります。
また、AFPBB Newsでは中国や韓国の人名を基本的には漢字で表記することになっているのですが、その漢字を調べるのに時間がかかることもあります。Wikipediaがある選手は参考にできますが、ない選手もいますし、たとえばサッカー協会の○○副部長といった選手以外の関係者の名前表記を調べるのは慣れが必要です。
学習中、僕は通学講座と通信講座の両方の受講を経験しましたが、可能な限り、通学講座の受講をおすすめします。実際にほかの受講生の方や先生のいる場所に集まって、ほかの方の優れた訳を見て、くそっと思い、みんなの前でひどい誤訳をして恥ずかしくなることが、これ以上ない発奮材料になります。翻訳はものになるまで時間がかかりますが、最初に持っている意欲や希望といったプラスのエネルギーだけではなかなか長続きしないので、そういった負のエネルギーを活用することを考えてもいいのではないでしょうか。
取材協力
藤澤將雄さん
実務翻訳家。主に『ウォール・ストリート・ジャーナル』や『バロンズ』など金融誌の翻訳を手がける。フェロー・アカデミー講師。
高﨑拓哉さん
フェロー・アカデミーのカレッジコースを修了後、フィクションやノンフィクションの講座を受講。現在は出版翻訳のほかに、スポーツニュースの翻訳を手がける。主な訳書に『Start Innovation!』『どうしてあの人はクリエイティブなのか?』『ルーキー・ダルビッシュ』など。