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ソフトウェア・電気機器関連の翻訳

主にソフトウェアや電気機器などITのジャンルで活躍する星野順子さんにお話をうかがいます。
ソフトウェアも電気機器も、私たちの日々の仕事や生活に溶け込んでいますが、初めて目にしてから手元になじむまで、実はさまざまな段階で翻訳の仕事が発生しているようです。

文書の目的と読者にあわせて、文体や表現を工夫

私が受注するソフトウェア関連の仕事では、一般ユーザー向けのソフトウェアよりも、企業が導入する基幹システムのソフトウェアに関連する文書を多く扱っています。たとえば、財務会計、生産管理、人事給与など、企業の多種多様な主要業務に使われるシステムです。このようなシステムのソフトウェアについて、ユーザー向けにWebサイトで公開する使い方のマニュアルや、導入する企業のシステム担当者や導入コンサルなどが受けるトレーニング資料、システム導入時に行う受け入れテストの社内向け手順書、そしてUIテキストなどの翻訳を受注しています。

 

トレーニング資料とは、そのソフトウェアを導入する企業のシステム担当者や企業へのシステム導入を担当するコンサルなどが、オンラインやオフラインで受講するトレーニングに使う資料です。主な内容は、そのソフトウェアの機能説明、機能を使う用途やメリット、注意点、操作方法、演習問題、ケーススタディなどです。ほとんどが受講者向けですが、一部は講師に向けた内容もあり、トレーニングの進め方や説明方法のインストラクションなどが記載されている場合もあります。すでにその製品を使うことが決まっている方が読む資料なので、プロモーション的な要素はなく、事実を分かりやすく簡潔に記載するという点が特徴です。大げさな表現は必要なく、何ができるか、どうやればできるか、何に注意すべきか、などを正確に伝えなければなりません。特殊な業界や業務向けの製品ならば、業界知識や業務知識のある人が読む可能性が高いので、専門用語を適切に選ぶことにも気を付けています。私自身が特に多く受けている基幹システムのソフトウェアでは、ロジスティクス部門だったり人事部門だったり、特定の部門向けの機能を説明する文書が多いので、そうした業務に適した訳語の選択が必要です。

 

また、こうした文書はたいてい分量が多く、複数の翻訳者がひとつの文書を分担して翻訳を行います。そのため、用語やスタイルの統一が必須です。私たち翻訳者が翻訳を納品した後、翻訳会社ではレビュアーによる全体の統一作業などが行われていると思いますので、その作業の手間ができる限り少なくなるように配慮しています。特にITのジャンルでは、クライアントから支給される用語集やスタイルガイドに従えない翻訳者に仕事はありません。また、指示には忠実に従うのですが、自分で考えたうえで矛盾を感じ、おかしいと思うところがあったら適切な申し送りを行うことも重要です。

マーケティング翻訳の要素もある、カタログ

電気機器関連でも、製品を購入したユーザーが使い方を調べるために使用するマニュアルの受注が多いです。これには一般ユーザー向け製品とプロフェッショナル向け製品があります。その他はカタログ、仕様書、Webサイトに記載される製品情報なども扱います。カタログに関しては、機能や仕様を伝えることが主な目的で、購入前の方が読む場合が多いため、製品イメージの伝わりやすさを重視した文章を心がけます。ただ、仕様を羅列するようなページなどもあり、こうした部分は正確さが重要なので、文章の書き方にメリハリが必要です。専門用語を使って簡潔に書かなければならない部分もあります。

 

一方で、見出しなどではキャッチコピーのような表現を求められることがあります。原文をそのまま訳すと言うよりは、見出しの意図を活かせるように、文章全体の伝えたいことを要約し、かつ原文から大きくは離れずに、読者の気持ちをつかむような訳文を考えなければなりません。その部分は、いわゆるマーケティング翻訳のジャンルに入るのかもしれません。

 

カタログの翻訳では特に、文章全体のなめらかさ、読み進めやすさが大切だと思っています。その製品に興味のない人でも興味がわくような面白さが必要なのですが、これがとても難しいところです。私自身もその製品に興味を持っていないと書けないので、訳す前に製品情報を調べたり、競合製品や業界情報を探したり、実際に似た製品を触れる環境なら操作してみたり、その製品について書くモードに入る準備が欠かせません。

経験したことは、何事も無駄にはならない
自分ではわかっていると思っても、調べる癖を!

私は大学時代をアメリカで過ごし、卒業後に帰国して就職したソフトウェアベンダーではローカライズの部署に配属され、3年間勤務しました。次に就職した電気メーカーではマニュアル制作を12年間担当しましたが、年齢とともに会社での働き方に疑問がわきはじめました。職人のような仕事がしたいと考え、とあるきっかけで退職しようと決めました。そのとき、自分の持っている技能のうち何を使って仕事ができるかと考え、思い浮かんだのが翻訳です。とにかく何か勉強がしたかったので、退職を機にみっちりと学校に通おうと思い、フェロー・アカデミーのベーシック3コースを選びました。

 

ベーシック3コース修了後はオンサイトのチェッカーを経験しながら翻訳の仕事を始める準備をすすめ、フリーランス翻訳者となりました。受注する案件はIT以外にも、ビジネスや観光関連などもあります。電機メーカーに勤めた12年の経験が、ビジネス文書(企業のプレゼン資料、プレスリリース、社内報など)の受注につながっていると思いますし、実際、訳していても気持ちよく訳せて、会社員時代の経験が生きていると感じます。また、学生時代に海外で過ごしたことが観光関連の仕事につながっていると思います。幸いにも、私の経験に合う仕事を受注できて、それが自分に合っていたからうまくいって継続しているという感じです。

 

実は翻訳を勉強し始めた当初からメディカルのジャンルに興味があり、フェロー・アカデミーや他の翻訳学校でメディカルの講座をいくつか受講しました。ですが、医療系のバックグラウンドが一切なかったため、やればやるほど知識の少なさが身にしみて、もっと集中して勉強が必要だと感じました。医療専門の案件を受けるのは正直まだまだ難しい状況ですが、メディカル分野の翻訳を勉強した経験があることで、たとえば製薬会社の社内システム運用書、医療機器企業のコーポレート資料など、ジャンル横断の案件を受注しやすくなり、仕事の幅は広がっているので、経験したことは何事も無駄にはならないのだなあと実感しています。

 

今後の目標は、この仕事を長く続けていくこと、つまりは健康であること、継続して仕事を受注できること、です。継続して仕事を受注するには、翻訳会社やソースクライアントに満足してもらえる仕事をしないといけないですし、今の業界の波(MT、マーケティング翻訳など)にも対応できるようにならなければと思っています。いただいたお仕事はすべて何らかの形で今後の展開につながり、知識を深めるチャンスですので、調査も翻訳も時間が許す限り丁寧にやることを心がけています。また、健康維持はこの仕事で本当に大切なことだと感じています。在宅で翻訳の仕事をはじめてから目や肩の不調がてきめんに現れ、筋力の低下を感じて非常に焦りました。ですので、今は体を動かす時間をできるだけ多く作り、休みは定期的にきちんと取るようにしています。

 

どの分野でも共通ですが、日々の知識の積み重ねが翻訳の質向上につながります。IT関連の翻訳者を目指している方はIT関連の文章になるべく多く触れて、背景知識を増やしていく必要があります。WebサイトでIT関連の記事を1日1つ読む、などを習慣づけておくといいのではないでしょうか。実際の業務では最先端の技術や製品にかかわることが多いので、新しい技術やトレンドに気を配っておくといいと思います。また、質のいい日本語や英語に日々触れておくことも重要です。

取材協力

星野順子さん

電機メーカーでの勤務を経て、翻訳者を目指してフェロー・アカデミーのベーシック3コースを受講。コース修了後は翻訳会社でオンサイトのチェッカーをしながら翻訳会社のトライアルを受け、フリーランスの翻訳者に。

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