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『ヒックとドラゴン11 孤独な英雄』

相良倫子さんが翻訳を手がけた『ヒックとドラゴン11 孤独な英雄』をご紹介します。
ハリー・ポッターシリーズと同様に世界中にファンを持つこの作品の原作について、訳者の相良さんにうかがいました。
『ヒックとドラゴン11 孤独な英雄』<br>相良倫子【訳】<br>クレシッダ・コーウェル【著】<br>小峰書店
『ヒックとドラゴン11 孤独な英雄』
相良倫子【訳】
クレシッダ・コーウェル【著】
小峰書店
【作品紹介】
人間対ドラゴンの戦争は、ドラゴン優勢のまま最終局面を迎えつつあった。「運命の冬至の日」までに、「失われし10の宝」を集めた新王が生まれなければ、人間はドラゴンに滅ぼされてしまう。
ところがその新王候補のヒックは、邪悪な魔女とアルビンに宝を奪われてしまった。果たしてヒックは、宝を取り戻してドラゴンとの戦いに決着をつけ、真のヒーローになることができるのだろうか?

現実とは別の世界を設定したファンタジー
セリフは日本のアニメを参考に

本作は、ヒックを中心としたバイキングの少年少女とドラゴンたちが繰り広げる、ハチャメチャな冒険物語「ヒックとドラゴン」シリーズの第11巻です。シリーズを通して、人間とドラゴンの確執が深まり、ついに戦争が勃発。激しさを増す争いをなんとか止めたいヒックは、そのために必要な〈失われし十の宝〉をさまざまな困難に遭遇しながら手に入れてきましたが、それらすべてを失ってしまいます。第12巻の最終章に向けて、クライマックスで終わっているのがこの巻ということになります。

 

シリーズの大ファンである知り合いの男の子には、「最終巻の原書はまだ届いてないの? 届いたらすぐ訳してね」とプレッシャーをかけられるほどで(笑)、続きを楽しみにしている子たちがたくさんいました。

 

このシリーズは人名や地名などの言葉遊びが特徴なのですが、原文に引っ張られすぎず、その人の性格や土地のイメージなどから、しっくりくる言葉を探します。頭の中だけからひねり出そうとしても限界がありますから、たくさんの言葉を実際に目で見るようにしています。そういう意味では、類義語辞典は必須です。類義語辞典でAひいて、Bという言葉を見つけ、Bでまたひいて、Cに行き当たる……といった具合で、ときどき、訳語選びは連想ゲームに似ていると思うことがあります。

 

登場するキャラクターたちは個性的なしゃべり方をするのですが、現実社会では、それほど特徴的な話し方をする人はいないですよね。同じような年頃の子は、似たような話し方をするものです。ただ、この本は現実とは別の世界を設定したファンタジーですし、個性の強い登場人物ばかりなので、かなり大げさに口調分けをしました。一番役に立つのは、アニメでしょうか。アニメのキャラは、特徴的な話し方をする人が多くありませんか? ベランダで洗濯物を干しながら、家族が観ていた「ワンピース」を耳だけで聞いていて「あっ! このキャラの口調、使えるかも!」と思ったこともあります(笑)。

 

また、まさにスピード感が命!といった作品ですので、一文が長くならないように気を付けましたね。ひとつの単語に形容詞がたくさんかかっていてくどい場合などは、割愛することもありました。かっこいい訳になるように、ときどき体言止めなども使っています。

 

このシリーズは陶浪亜希さんとの共訳ですが、基本的には各々で全てを訳し、互いの訳をチェックしてから、スカイプですりあわせをしました。もともと仲のいい友人同士なので価値観も似ているのか、この部分はこちらを使おう、といった意見は大抵一致します。固有名詞等の定訳はエクセル表で管理し、編集者さんとも共有しています。確認したところ、定訳は軽く500を超えていました。

 

映画版は、登場人物の年齢設定もストーリーも原作とはだいぶ違いましたが、あれはあれでとてもよくまとまった、いい作品だと感じました。思春期のアイデンティティの問題、父親との和解などが、本よりも前面に出ていましたね。でも、ユーモアに関していえば、原作の勝ちかな? 読者カードで、映画も観て本も読んだという人の感想をたくさん目にしたのですが、どちらにも好意的な感想が多かったように思います。

まだまだ子育て奮闘中!
翻訳学校に通うのは、自分へのご褒美

この作品を訳していた当時、 5歳の娘はこども園、2歳の娘は週3日一時保育に預けて、翻訳していました。切羽詰まっているときは、夜に子どもたちが寝たあとや週末に仕事をすることもありましたね。トゥースレスの口調や仕草などは、子どもたちを間近で見ているのが、参考になっているのかもしれません。あとは、ヒックのお母さんの気持ちを訳すときには、やはり自分に重ねますね。子育てや家事に限らず、あらゆる経験が翻訳には役に立つと思います。

 

フェロー・アカデミーでは、こだまともこ先生のゼミに月に1回通っています。クラスメイトのほとんどは、すでに訳書のあるプロですので、課題の訳もハイレベルなものばかり。毎回、劣等感と敗北感を引きずって、帰宅しています が(笑)、だからこそ、翻訳に関する具体的な相談にも、いろいろとアドバイスをもらえるのが嬉しいところ。また、こだま先生は、翻訳についてはもちろんのこと、児童文学における作品の位置や、作者に対する一般的な評価、歴史的背景などにも触れてくださるので、本当に勉強になります。まだまだ子育て奮闘中の私にとって、学校に通い続けることは、自分へのご褒美なんです!

 

翻訳者になって良かったと思うのは、生活のすべてが翻訳に役に立つということです。ですから、翻訳の勉強をがんばるだけなく、たとえ翻訳や英語に関係のない仕事をしていたとしても、決していいかげんにせず、一生懸命やってほしいな、と思います(これは自分への戒めでもありますが)。ある時期、児童書の翻訳のほかにも、映像翻訳や医薬翻訳、さまざまな分野の翻訳に携わっていたことがあります。そのときは、ひとつの分野に絞れていないことに悩んだりもしましたが、のちに医薬翻訳の経験を買われ、『目で見る化学』という子ども向けの本の仕事が舞い込んできました。あのスティーブ・ジョブスが、スタンフォード大で行った有名なスピーチでこんなことをいっています。

 

”Again, you can’t connect the dots looking forward; you can only connect them looking backwards. So you have to trust that the dots will somehow connect in your future.” 

 

今は点在しているさまざまな経験が、いつか一本の線となってつながる。だから、ひとつひとつの経験を大切にしたいです。

取材協力

相良倫子さん

出版翻訳家。訳書に『ヒックとドラゴン』シリーズ、『11号室のひみつ』(小峰書店)、『オリガミ・ヨーダの研究レポート』、『ダメ犬ジャックは今日もごきげん』(徳間書店)、『目で見る経済』(さ・え・ら書房)など。

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