出版基礎(1)
さまざまなジャンルの作品を取り上げ、内容を正しく把握しているか、作品としてふさわしい表現になっているかなど、出版翻訳の基本を学びます。
さまざまなジャンルの作品を取り上げ、内容を正しく把握しているか、作品としてふさわしい表現になっているかなど、出版翻訳の基本を学びます。
「出版基礎」では、さまざまな作品を取り上げながら、内容をきちんと把握しているか、作品としてふさわしい表現になっているかといった出版翻訳の基本を学びます。
例えばフィクションの場合、作品の魅力や面白さが読者にそのまま伝わる翻訳でなければなりません。さらに子ども向けの作品であれば、年齢に応じた言葉えらび、漢字やひらがなの区別など子ども目線でのこまやかな気配りも必要です。一方ノンフィクションの場合は、読者に誤解なく情報を伝えるための、わかりやすい翻訳が求められます。
この講座では、大人向けのフィクション・ノンフィクションと、児童書の翻訳に取り組み、これらのスキルを広く習得することを目指します。
さまざまなジャンルの作品に取り組むことで、日本語力も強化できます。
リーディングとは、翻訳者が出版社から依頼を受けて未訳の原書を読み、あらすじや感想をレジュメ(シノプシス)にまとめる仕事です。出版社はこのレジュメを元に、その原書を日本で出版するか判断します。リーディングをきっかけに翻訳の仕事を頼まれることも多く、翻訳デビューのきっかけになりやすいのが特徴です。
この講座ではリーディングする本をご自分で1冊選んでシノプシスを作成してもらい、分かりやすくかつ必要な情報が盛り込まれたシノプシスになっているか、講師がフィードバックします。
授業に出席できない場合は、別の曜日・時間のクラスに振り替えることができます。
英日翻訳家。『あなたを愛してから』『夜に生きる』『ジョン・ル・カレ伝』『スパイたちの遺産』『レッド・ドラゴン』(早川書房)、『オリヴァー・ツイスト』(新潮社)、『モーリス』(光文社)、『11月に去りし者』(ハーパーコリンズ・ジャパン)、『最高のリーダー、マネジャーがいつも考えているたったひとつのこと』(日本経済新聞出版社)など訳書多数。
「出版基礎」は、フィクション、ノンフィクションの両ジャンルの課題に取り組み、幅広い対応力を身につける講座。
課題は前回から取り組んでいる英国人作家の短編で、この日が最後の授業となるため、残り2~3ページ分の訳文をすべて検討するという。少女が語り手の1人称小説であるため英語は概してやさしいが、授業で扱うにはなかなかのボリューム。最終回にふさわしいチャレンジとなりそうだ。
登場人物は少女とその母親、老人の3人。先生は4人の受講生に少女のセリフ、母親のセリフ、老人のセリフ、そして地の文の担当を割り振り、台本の読み合わせのように訳文を読み上げさせる。そしてある程度進んだところで、訳文を吟味していく。
「少女の言葉だから、『ひどくあたる』より『いじわるする』ぐらいでいいんじゃない?」
「このcryは『大声を出す』。『cry=叫ぶ』ではありません」「lovelyは『すてきな』というより『(質が)いい』。英国人に感謝の意味でlovelyと言われたこともあります。翻訳するのが難しい言葉の一つですね。状況に応じて意味を考えてください」
表現の工夫があと一歩足りない、というところか。先生の指導を聞いていると、「学校英語の英文和訳と翻訳は違う」と言われる意味がよくわかる。
と、受講生から翻訳に関するテクニカルな質問が飛び出した。「『と言った(he/she said)』がセリフの最後にくる場合は省いてもよくて、セリフの途中で挿入されている場合は残したほうがいいと聞いたんですが、どうなんでしょうか」
先生は、特別なケースを除きその考え方が基本的に正しいと説明。そのうえでこう補った。「でも最初は省略せずに訳してください。仕上げのときには削っても構いません。土台となる第一稿はとても重要なので、一語一語丁寧に訳すことを心がけましょう」
テクニックも大事だがまずは基本を大切に、という教え。質問者はもちろん、全員がじっくり聞き入っていた。
「いいですよ」「結構だと思います」。褒めるべきときは褒めながら、先生はテンポよく授業を進めていく。「このwatchは『見る』?」と投げかければ、受講生たちから「見つめる」「観察する」と声が上がる。続く「見張る」に「そのとおり!」と先生。「そうか」と言わんばかりのため息があちこちから漏れた。自分にない発想に触れられる点は授業のメリットで、こうした「ライブ感」は学びの楽しさにつながるものだ。
受講生に発言を求めるだけではなく、しっかり解説も行う。
ある受講生が1つの文章の中で否定語を2つ使う「二重否定」をうまく解釈できず、苦笑しながら直訳を読み上げた。すると「おかしいと自覚していることが重要です」と述べて「否定が続くと肯定の意味になります」と説明。さらに3つの例文を板書してその意味を確認していく。
The whisky had disappeared down his throat in one long pour.を「ウィスキーは飲み干されました」と訳した受講生にはこう説いた。
「作家がわざわざこういう表現をしているのだから、意味をまとめずに『たちまちウィスキーはぜんぶぐいぐいと喉に流れ込んでいきました』としっかり訳しましょう」
ほかにも、「Harryはアッパークラスに多い名前」「英米人にとってbow from the waist (腰を曲げてお辞儀する)はとても特別な動作」「英国人は街なかで走らないのでscuttleは『小走りする』ではない」など。〈言葉は文化・習俗・社会〉と切り離せないものであり、翻訳が単なる言葉の置き換えだけでは済まされない、ということを教えられた。
「ジャンルに関係なく『書いてあることを大切にする』という基本は同じ。どのジャンルに進まれても、基本を大切にして頑張ってくださいね」
最後の授業をそう締めくくる先生。そのエールを胸に刻み、受講生たちはそれぞれの目標に向かって歩んでいく。
『通訳者・翻訳者になる本2015』(イカロス出版発行)より転載
(Text 金田修宏 Photo 岩田伸久)
胸に刻まれた先生の教え
さまざまな職場を経験しましたが、「私は○○のプロです」と言えない自分に自信を持てずにいました。1つのスキルを極めようと思い、選んだのが翻訳です。私は大の本好き。やるなら一番好きなものをと「出版基礎」を受講しました。
学習を始めるまでは、大筋で意味を伝えることを優先していましたが、本の翻訳でそれをやってしまっては作品を損ねることになってしまいます。「なぜ作者はこの言葉を使ったのか、そこには必ず理由があります」という先生の教えは、仕事を始めた今ではとても大切です。知っているつもりの単語でも辞書を確認し、原文に忠実に翻訳していく技術は、講座で培ったものです。
いつかは訳書を出したいと漠然と考えていたのですが、はじめての訳書は偶然のめぐり合わせから降ってきたように実現しました。ネット上の記事を翻訳して自分のブログに掲載するため、許可を求めて著者に連絡を取ったところ、快諾をいただくと同時に、日本での出版を考えているとのことで編集者を紹介していただいたのがきっかけとなりました。
私は著者と読者の橋渡しをする翻訳という仕事に使命を感じています。これからも「この言葉を多くの方に届けたい!」と感じる本を訳していきたいです。
<渡辺 亜矢さん>
ソフトウェアメーカーや映像関連会社、コンタクトレンズメーカーなどで、翻訳業務を経験。2012年には初の訳書を刊行。訳書には『ジョン・レノンを殺した凶気の調律A=440Hz 人間をコントロールする「国際標準音」に隠された謀略』(徳間書店)、『マスメディア・政府機関が死にもの狂いで隠蔽する秘密の話』(成甲書房)がある。
お申込み後の受講の取り消しについて
「契約書面」をお受け取り後、8日以内はクーリング・オフが可能です。
クーリング・オフ期間経過後は受講期間終了日前日までに限り、書面の届出をもって、将来に向かって中途解約を行なうことができます。 中途解約が役務提供開始前(開講日前日まで)の場合、受講料の20%(ただし15,000円(法定の金額)を上限とする)の解約手数料をお支払いいただきます。
受講料をお支払い済みの場合は、解約手数料と振込手数料を差し引いた金額を返金いたします。 役務提供後は、すでに経過した授業回数から、法定に基づいた精算方法により算出し、解約手数料と振込手数料を差し引いた金額を返金いたします。
※クレジットカードのボーナス一括払いをご利用になられた場合は、決済完了後のご返金となります。