堀江里美さん

出版

1981 年東京都生まれ。早稲田大学第一文学部文芸専修卒。大学在学中から翻訳に興味を持ち、卒業後はフェロー・アカデミーで文芸翻訳を学ぶ。リーディング、下訳などで経験を積み、2007 年『トンネル』(ゴマブックス)の共訳で翻訳家デビュー。以降、小説、児童書、ノンフィクション、雑誌など多ジャンルで活躍。訳書に『美について』(河出書房新社)、『パディントン ムービーストーリーブック』(キノブックス)などがある。

修了生インタビュー

出版翻訳の魅力とは? 作者の言葉を代弁する―創作とは違う楽しさがある

子どもの頃から文章を書くのが好きで作家に憧れ、大学では文芸を専修した。翻訳に興味を持ったのは、そんな大学時代。大学で翻訳家・芹澤恵さんの講義を受け、おもしろさを知る。卒論の指導教員に進路を相談したところ、「あなたは語感がいいから、翻訳、向いているかもよ」とすすめられる。その教員が、翻訳家の青山南さんだった。
恩師の言葉に背中を押され、卒業後はフェロー・アカデミーで文芸翻訳を学ぶことにした。1年の通学期間中、翻訳家の那波かおりさん、川副智子さん、田内志文さんの指導を受け、翻訳の基本を教わるとともに、人脈を築く。母校の翻訳家志望の後輩たちとも交流を続け、ときには青山先生の講義にもオブザーバーとして参加した。
「フェロー・アカデミーでは、リーディングの仕方から原稿の書き方まで、まさに翻訳の“いろは”を教わり、青山先生からは、作品の文体や雰囲気をつかんで日本語で表現することの大切さを教わりました。今思えば、スクールと大学で、異なる視点でご指導いただけたことがよかったのだと思います」
「積極的に営業活動をしたことはない」そうだが、人脈を大事にし、スクール在籍中からリーディングや下訳の仕事を開始。3年弱の下積みを経て、2007年にYA作品『トンネル』(ゴマブックス)で翻訳家デビューを果たした。フェロー・アカデミーで教わった田内志文さんとの共訳だ。

時間の許す限り下調べ作品や著者の背景を知る
その後も、恩師の先生方の紹介や人とのつながりで、翻訳の依頼が巡ってきた。翻訳を仕事とする上で、ジャンルは特にこだわらない。『パディントン ムービーストーリーブック』(キノブックス)のような児童書や、『コロンバイン 銃乱射事件の真実』(河出書房新社)のようなノンフィクションも手がける。翻訳にかける時間は作品によって異なるが、単行本に取り組みながら、合間に雑誌の仕事を組み入れるのが今の仕事のスタイルだ。
単行本であれ雑誌であれ、時間の許すかぎり下調べをし、作品や著者の背景を知るようにしている。原文だけを読んで訳すのでは、書き手の意図が伝わらないと思うからだ。
「雑誌『WIRED』でスター・ウォーズの記事を訳したときは、改めて6作品とそのメイキングまで観ました。スケートボーダーの記事では、動画を見ているうちに滑ってみたくなって、スケボーを買いそうに(笑)。はじめは興味や知識がないジャンルでも、調べていくうちにいつのまにか著者や登場人物を好きになっていることが多いんです」
リサーチに時間をかけるのと同様に、英語の辞書もよく引く。使用頻度が高いのは、『ランダムハウス』『オックスフォード』『リーダーズ』『英辞郎』などで、データ版があるものはPCに入れている。もちろん、日本語の辞書や類語辞典なども頻繁に参照する。
「純文学を訳す時は、本当にこの訳語でいいのか、と迷ってしまうことが多い。だから、知っている英単語でも引きますし、日本語の類語辞典で違う表現を探します。特に副詞や形容詞の訳し方に悩みますね」

『美について』─好きな作家との仕事
新刊『美について』(河出書房新社)が刊行されたばかり。カリブの音楽や文学が好きだった堀江さんは、以前からジャマイカ系イギリス人作者のゼイディー・スミスのファンだった。好きな作家として編集者に伝えていたところ、リーディングの依頼があり、自身が翻訳することになった。
「大学生のとき、『ホワイト・ティース』を読んで、スミス作品が好きになりました。残念ながらその本は絶版で、それ以降の作品の邦訳も1冊しか出ていなかったので、新しい作品を日本の読者に届けられたことがすごくうれしいです」
500ページを超える長編で、翻訳には2年以上をかけた。下敷きになっている『ハワーズ・エンド』の邦訳も研究しつつ、『美について』の世界を構築した。それだけ苦労も多かったが、好きな作家の仕事ができて、幸せな経験になったそうだ。
文章を書くことが好きで創作を学び、期せずして翻訳家になった。今は、作者に寄り添い、作者の伝えたいことを代弁することに自分の文章を使っている。
「どうしてこんな文章を書くのだろう、と難しさを覚えることもあるけれど、好きな作家だと、その難しささえもやりがいに感じられる。翻訳は、文章を書くのが好きな人には、向いている職業だと思います」
今後もジャンルは限定せず、依頼される仕事には挑戦するつもりだが、カリブ文学の良書を見つけて、日本に紹介したいという夢もある。長編を訳し終え、興味のある作家のリーディングを始めたところだ。

いろいろな文体の本を読みましょう
翻訳の勉強という観点からいえば、日本語の本をたくさん読むことです。好きな作家を選んで読み込むのもいいですが、いろいろな作家の作品を読み、異なる文体にたくさんふれることをお勧めします。また、いい翻訳書と原書を読み比べるのも勉強になります。短編であれば手軽に読めますから、ぜひ実践してみてください。私はデビュー前にリーディングや下訳の仕事をしましたが、それもいい経験になりました。

『通訳者・翻訳者になる本2016』(イカロス出版発行)より転載
(Text 岡崎智子)

堀江里美さんが受講した講座(通学)

初級出版基礎(1)

出版翻訳
期間
2019/4/16~2019/8/27(火曜・毎週×18回)
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中級フィクション<2>

出版翻訳
期間
2019/4/11~2019/8/22(木曜・隔週×10回)
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