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トラマガ

Vol.364 <前編>自動車関係技術翻訳者 奥田良子さん

専門知識のないゼロからのスタート。
翻訳支援ツールの習得を強みに、自動車分野で信頼される翻訳者に

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(2016年3月10日更新)
自動車関連の翻訳を専門にフリーランス翻訳者としてフル稼働している奥田良子さん。子どもの頃は華やかな通訳者にあこがれていて、翻訳のような机に向かってする仕事は自分には向いていないと思っていたそうです。それが翻訳者を目指すようになり、仕事として翻訳に向き合ううちに、しだいに翻訳の奥深さに魅了されていったといいます。最初はトライアルにもまったく受からなかったという奥田さんがどのようにして信頼される翻訳者になっていったのか、お話を伺いました。

自動車分野では8割近くの案件で翻訳支援ツールを使用

――自動車関連の翻訳を中心に、現在フリーランス翻訳者として8年目だそうですね。もともと自動車に関するバックグラウンドがあったのでしょうか?

それが、大学は英文科ですし、自動車の技術的なことに関してはまったくの素人でした。自動車の翻訳をするようになったきっかけは、翻訳者として登録していたサイトを通して仕事の依頼をいただいたのが、たまたま自動車の分野だったということです。
そのころ私は子育ての真っ只中でした。地方在住ということもあり、在宅でできる翻訳の仕事を目指して2年ほど経っていましたが、まったく思うようにいかず苦戦していました。
翻訳学校では医療関係の翻訳を学びましたので、それまでは自動車ではなく医療関係の翻訳者を目指していたんです。でも医療関係のバックグラウンドがあったわけではないのでトライアルを受けても散々で、なかなか仕事につながりませんでした。そんなとき自動車の翻訳の打診がありました。
私自身は自動車のことはまったくわかりませんが、幸い主人が自動車の技術的なことに詳しく、この分野だったら主人に聞きながらなんとかなるのではないかと思い引き受けました。やり始めてみると、自動車は医療と違いビジュアルで確認できる場合が多く、わかりやすいと感じました。
主人とああでもないこうでもないと議論しながら、やっとのことで納品。それから、しばらくすると後続案件が送られてきたので、なんとか合格点がもらえたのだと思いました。これをきっかけに自動車関係に専門分野をしぼるようになり、仕事も徐々に増えていきました。
また、それから少しして翻訳支援ツールTransitを使用した大型プロジェクトがらみの案件が舞い込んできました。それ以前に翻訳支援ツールの代表格であるTradosの使い方は習得していたのでTransitにも抵抗がなく、翻訳会社が開いてくれたTransitの使い方の講習会に参加して、すぐに使えるようになりました。自動車を専門分野にできたのは、翻訳支援ツールを使えたことも大きかったのではないかと思います。

――Tradosはどのようにして習得したのですか?

独学で覚えました。私がTradosを購入したのは2007年12月ですが、当時は英語のマニュアルしかなく、それをプリントアウトしてみると、細かい字の英文マニュアルが何冊も出て来て、とんでもない無用の長物を買ってしまったのではないかと一瞬焦りました(笑)。
購入時の私の翻訳経験は、以前の勤務先の上司や友人からの依頼を受ける程度で、本当の意味でプロのフリーランス翻訳者と言える前の段階でしたが、先行投資として思い切って購入しました。また、以前、コンピュータ会社のマニュアルの翻訳を手掛けた際に、繰り返し文や同じ表現の処理に悪戦苦闘した経験があり、今後Tradosのようなツールは広く普及するのではないかという予測もありました。

――結果的にいえば、早くにTradosを購入し、使いこなせるようになっていたことが良かったわけですね。

私の場合は、そう言えますね。使い方をマスターするのは大変でしたが、「こんなにマスターするのが大変なのだからこれを使える人はそんなにいないだろう。だったら使えるようになれば仕事が回って来る確率が高いだろう」という発想で頑張りました。
Tradosなどの翻訳支援ツールはマニュアル翻訳などの繰り返しの多い、改訂版を重ねるような文書でその価値が発揮されます。翻訳支援ツールの購入を考えている方は、自分の専門としている分野でどのくらい必要とされているのかを調べてから購入するとよいと思います。

――自動車の分野についてはいかがでしょう。翻訳支援ツールを使う案件は多いですか?

そうですね。自動車関連の翻訳文書は主に、サービスマニュアル(修理要領書)、ユーザマニュアル、技術仕様書、不具合時の品質レポートに分けられます。その中で、サービスマニュアルと、技術仕様書の翻訳案件が多く、翻訳支援ツールが活用される分野といえると思います。
私自身の仕事を振り返ってみると、8割以上は翻訳支援ツールを使って翻訳しています。翻訳会社から「Tradosを使ってください」などツールを指定される場合もありますし、指定されない場合でも、同じような表現が繰り返し出てくるような文書はTradosを使った方が私は翻訳しやすいので、使うようにしています。
ツールの種類については、私の仕事ではTradosが8割、Transitが1割、Translation Workspaceが1割、というところです。最近は新しいツールも数多く出てきていますが、今のところは使い慣れたTradosの案件だけでも予定がぎっしりで、お断りしなければならない状況なので、他のツールの仕事は積極的には受けていません。

通訳からスタート

――奥田さんは、今は翻訳の仕事をされていますが、もともとは通訳者にあこがれていたそうですね。

はい。小学生の頃にテレビでモーターショーのお姉さんが格好よく英語でしゃべっているのを見て、通訳という仕事があるのだというのを知り「私もあんなふうに英語をペラペラしゃべりたい」と漠然としたあこがれを抱いていました。
英語はずっと得意な教科だったので、高校生のころ思い切って親に「留学したい」と言ったことがあったのですが、「うちはお金がないから無理」ときっぱり言われてしまって……。大学は英文科に進み、いったんは一般企業に就職したものの英語へのあこがれは消えず、フルタイムの仕事が終わってからコールセンターでの市場調査や世論調査、土日に着ぐるみショー、酒屋の前で新商品のビールを配るプロモーション・コンパニオンの仕事などのアルバイトをしてお金を貯め、イギリス留学の夢をかなえました。イギリスで語学学校に通い、アルバイトもして生活費と授業料を捻出しながら4年間を過ごし、帰国して外資系の企業に勤め、ようやくあこがれていた通訳の仕事に就くことができました。

――翻訳には興味はありませんでしたか?

社内では通訳のほかに翻訳の仕事もしましたが、翻訳のように細かくて、じっと机に向かってやる仕事は、自分には向いていないと思っていました。だから、あの頃はまったく興味はありませんでしたね。

――そんな奥田さんが、なぜ翻訳者を目指すようになったのですか?

結婚して子どもができ、環境のよい場所で子育てをしたいとの思いから東京から伊豆半島に引っ越しました。会社を辞めてからしばらくは、以前の同僚の紹介でオランダの特許情報関連会社と契約を結び、日本の代理店としてSOHOで特許市場の開拓を行う仕事をしていましたが、この会社が米国の企業に買収され、私はリストラされてしまったのです。 そこで始めたのが、英会話教室と電話カウンセリングの仕事でした。英会話教室を始めたのは、元々英語の教師になりたいという自分の幼少の頃からの夢と、息子に英語を教えたかったので、それを仕事にすれば一石二鳥だと思ったからです。電話カウンセリングのほうは、以前から心理学に興味があり、産業カウンセラーとキャリアカウンセラーの資格を取り、始めましたが、電話がかかってくる時間が不規則なため、育時・家庭との両立が難しく、仕事として続きませんでした。
そんなこんなで始めた仕事が思ったほど収入に結びつかなかったので、会社に勤めていた頃に経験があり、在宅でできる翻訳の仕事もやってみようと思ったんです。ただその頃も、まだ自分に翻訳が向いているとか面白そうだとか思っていたわけではなく、ただ英語を使って在宅でできる仕事が他にないから始めた、という感じでした。

――実際に翻訳の仕事を始めてみて、その考えが変わったそうですね。

翻訳の仕事は通訳の仕事と比べて苦手意識があり、本当にプロとしてできるのか心配だったのですが、「やるからには全力投球でがんばろう!」の意気込みで続けるうちに、徐々に仕事が増え、納品物に満足し、リピートでお仕事を回してくださるお客様が増え、非常に遣り甲斐を感じております。今では通訳よりも翻訳のほうが自分に合っているとさえ思っています。
翻訳は本当に奥が深く、「ぴたっと合った!」と感じると、とても嬉しいですね。この感覚を得たくて翻訳を続けているのかもしれません。納期があるので、自分が理想とするところまでは時間切れでもっていけないということも多々ありますが、それでも頑張れば頑張っただけ翻訳の質が上がっていくことがうれしいですし、さらに上を目指したいという思いがわき上がってきます。

――納期と品質のバランスというのは難しいところですね。

そうですね。私も駆け出しの頃は、自分の翻訳スピードと品質のバランスを把握できていなくて、無理な仕事を引き受けて翻訳会社にご迷惑を掛けたこともありました。実力がないのにスピードだけ上げようとすれば、出来上がる翻訳は粗悪品です。スピードというのは後から付いてくるもの。品質が上がれば、それだけ実力が上がっているということですから、スピードもおのずと上がってきます。ですから翻訳者はひたすら自分の翻訳の品質を上げることに集中すれば間違いないと思っています。


子育てを機に、それまで自分に向いているとは思わなかった翻訳の仕事を始めた奥田さん。でも、それは意外とご自身に合っている仕事だったようです。後半では奥田さんの翻訳への取り組み方について、さらにお話を伺いました。お楽しみに。


奥田先生が講師を務める講座

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<おくだながこ>

大学卒業後、コンピュータプログラマーとして就職するが、英語を使った仕事をしたいとの思いから、お金を貯めて英国留学。4年後に帰国し、外資系企業数社で通訳・翻訳、カスタマーサービスのマネージャーなどの職に就く。結婚・出産を機にフリーランスになり、子育てとの両立を考え、在宅で翻訳と英会話教室運営を行う。現在は、自動車関連の日英翻訳を中心にフリーランスとして活躍する。

<関連リンク>
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