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翻訳をお願いしたくなるのは、日本語表現の豊かな方

静山社の編集者である荻原華林さんのインタビューをお届けします。
出版翻訳を学習するうえで気になる持ち込み企画について、編集者がどう感じているのかなど、うかがいました。

フランクフルトのブックフェアで記憶に残った作品

「ハリー・ポッター」シリーズで知られる静山社に入社しておきながら、実は自分が翻訳書の編集者をするというイメージは持っていませんでした。入社直後から「ハリー・ポッター」関連作品や、すでに版権を獲得していた作品の編集を担当させてもらったりはしていましたが、しばらくは、どちらかというと国内創作のほうに注力していました。翻訳書も担当したい、と思うようになったのは、2019年のフランクフルトのブックフェアに行かせてもらったことがきっかけです。これだけ情報もすぐに手に入る時代ですし、現地に行かなくても良い作品は見つけられるんだろうとは思いますが、やはり、全体的な傾向を感じとれたり、各出版社の担当者による熱いプレゼンに刺激を受けたり(あんまり推していない本の説明をするときの温度差にびっくりしたり)、実際に本を手に取って見ることができたりと、貴重な体験になりました。

フランクフルトのブックフェアで見つけて、ぜひこの本を日本の読者に届けたい! と自発的に思った作品が『ラスト・フレンズ』(原題All the Things We Never Said ヤスミン・ラーマン作、代田亜香子訳)です。胸が痛くなるテーマですが、物語としても面白く、代田さんの訳がまた素晴らしくて、ゲラを読めば読むほど好きになりました。ただ、ボリュームのある作品でしたので、代田さんにはご苦労をおかけしました。

これまで、小学高学年向けのファンタジーや、中高生向けのリアリズム小説などを担当してきましたが、入社後はじめて担当したのは「ヤング・シャーロック・ホームズ」シリーズの1〜3巻(アンドリュー・レーン作、田村義進訳/現在は新装版が発売中)です。田村さんの訳で「弾丸」に「たま」とルビが振ってあっただけで、「ハードボイルド!」「かっこいい!」としびれていました(田村さんは「え?」という反応でした)。

仕事を依頼したくなる翻訳者とは?

ぱっと思いつきませんが、やっぱり、日本語で読む読者にも、原書を読む読者と同じように楽しんでもらいたいので、日本語の表現が豊かな方に翻訳をお願いできたらと思います。「日本語としての読みやすさ」については、編集者も読者目線でしっかり仕事をして、ご提案していかないといけませんね。

フェロー・アカデミーの「受講生×出版社 紹介サポート」(*)では、受講生のシノプシスを読むという貴重な体験をさせていただきました。どのシノプシスも、作品のあらすじのまとめ方も過不足なく的確でしたし、作品の良い点と残念な点について、忌憚なく、具体的に、簡潔に、まとめられていたので、たいへん参考になりました。紹介サポートで合格された方とは、その後、別の作品のシノプシスをお送りいただいたり、こちらからリーディングをお願いしたり、翻訳に取り組んでいただいている作品もあります。

出版社にとって、企画を持ち込んでいただくのは良い作品に出会える可能性が広がりますし、ぜひ! といきたいところです。ただ、なにぶん少人数の出版社ですので、ご返事はだいぶお待たせしてしまうと思います。また、「翻訳者としてデビューする方法」については、残念ながら私にはにはわかりませんが、人生、何がどこにつながるかわかりませんし、だいたいが何かしらにつながっているものだと、最近思います。現在ご活躍中の翻訳者の皆さんが、それぞれどういう経緯でデビューされたのかを知るのも、参考になるかもしれません。

*「受講生×出版社 紹介サポート」:フェロー・アカデミーの「通学・オンライン講座」中級・上級講座(一部対象外あり)で実施しているサポート。

取材協力

荻原華林さん
ラジオCM制作会社、出版社勤務を経て、2011年に静山社に入社。小学校高学年から中高生向けの、主に国内作品の編集に携わる。翻訳作品の担当は、まだはじめたばかり。編集を担当した翻訳作品に『ラスト・フレンズ』『ディズ・イズ・マイ・トゥルース』(ともにヤスミン・ラーマン作、代田亜香子訳)、『明日の国』(パム・ムニョス・ライアン作、中野怜奈訳)、『ブロッケンの森のちっちゃな魔女』(アレクサンダー・リースケ原作、西村佑子翻案・翻訳、ももろ絵)など。

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